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ケネディ暗殺機密ファイル公開は、トランプにとって「両刃の剣」 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2017年10月31日 15時0分

<トランプ自身のロシア疑惑が再燃した今、ケネディ暗殺に関する機密のファイルの公開は、疑惑から目をそらす効果も反対に関心を高める効果も考えられる>

1963年に発生して世界に衝撃を与えたJFK(ジョン・F・ケネディ)大統領の暗殺に関する「機密ファイル」が2017年10月26日に一部公開となりました。どうしてこの日だったのかというと、内容の公表に関してはCIAとFBIが「国の安全保障に関わる」として難色を示す中で、「JFKファイル公表特別法」という法律が1992年に制定されているからです。

この特別法は、制定から25年後にそのファイルを全て公開するとしており、この10月26日が、正確にその「25年後の日」だったのでした。もっともトランプ政権としては、CIAとFBIが安全保障上の懸念を示しているということから、情報の一部は依然として未公開ですが、大統領はその部分もいずれ公開するとしています。

この「JFK機密ファイル」ですが、アメリカでは大変な話題になっています。JFK暗殺の真相というのは、何といっても20世紀のアメリカ史上最大のミステリーですし、映画や本など様々な形で「陰謀論」が飛び交っている中で、「新事実」が出るというのであれば、高い関心が寄せられるのは当然でしょう。

その内容ですが、現時点では、真犯人を特定するような、決定的な「新事実」というのは明らかになってはいません。とにかく、膨大なボリュームであるのと「信憑性の分析に手間のかかる」ような「断片的なメモ」がほとんどということで、分析には相当に時間がかかりそうです。

そんな中で話題になっているのは、当時のFBI長官で実力者のエドガー・フーバーのメモの存在です。フーバーは、最初に実行犯だとして逮捕されていたリー・オズワルドが殺されて憤慨していた、つまり「これで世論が陰謀説を信じるようになる」として怒ったというのです。メモの内容はそれ以上でも以下でもありませんが、文面の行間を読み取って「フーバーは陰謀を隠したかった」という受け止めをすることは可能であり、その点では何とも微妙なメモというわけです。

この他では、オズワルドはKGBとCIAの二重スパイであった可能性を示唆するものとか、オズワルドは、ソ連とキューバの意向を受けて動いていたが、その拠点はメキシコシティのソ連大使館であるとか、その動向についてCIAはメキシコ政府の協力を得て追っていたというような記録もあると報じられています。また事件を受けて、ソ連は「ジョンソン副大統領(当時)黒幕説」を採用していた一方で、CIAの一部は、カストロ暗殺未遂に対するキューバの報復という見方をしていたそうです。



というような断片的な情報が主であって、現在報道されている限りではインパクトは今ひとつという感じです。ただ、この「機密ファイル」には、JFK暗殺に直接関係のない雑多なメモが放り込まれているようで、中には「1955年の時点で、アドルフ・ヒトラーはアルゼンチンに秘密亡命していてピンピンしていた」などという、マユツバものではあるのですが、ネタとしては興味深い「発見」もあったそうです。

冒頭お話したように、この「JFK機密ファイル」の公開は1992年の法律で強制的に決定されていたために、このタイミングとなったわけですが、この「公開時点」での大統領が、ドナルド・トランプだということで、そのことについても、様々な見方がされています。

一つの見方は、元々トランプという人は「陰謀論が大好き」であり、大統領になる前は「オバマはアフリカ生まれで大統領の資格なし」だとか「9.11の同時多発テロを後ろで操っていたのはブッシュ」だというようなことを真顔で言っていたわけです。ですから、そのトランプ大統領であれば、CIAやFBIを含めた「エスタブリッシュメント」の妨害に打ち勝って、真実を暴露してくれるに違いない、そんな期待感が支持者の間にはあります。またご本人も、その点ではヤル気満々のようです。

その一方で、現在のトランプ政権は「ロシア疑惑」の渦中にあり、10月30日(月)には、ポール・マナフォート前トランプ選対委員長以下、3人の旧側近が訴追され、1人は有罪を認めて司法取引を模索、2人は罪状を否認して自宅監禁措置になっています。そのようなスキャンダルが現在進行形である以上は、「JFK機密文書」が話題になってくれて、ニュースのヘッドラインや新聞の1面を占めてくれるのは政権にとっては願ったりかなったりであり、だからこそ大統領は公開に積極的なのだという見方もあります。

ですが、この点に関しては、万が一「JFK機密文書」の中から、ソ連やキューバによる米国政界への工作という事実が明るみに出るようですと、1963年の事件と、現在進行形の「ロシア疑惑」がオーバーラップするようになり、世論のトランプ政権に対する目が厳しいものになる、そんな指摘もされています。この問題は、もしかすると政権にとっては「両刃の剣」であるかもしれないのです。


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