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インドネシア軍・警察の処女検査、 人権団体が廃止要求

ニューズウィーク日本版 2017年11月24日 12時40分

<「処女検査の恐怖や痛みに耐えられない女性は警察官には不向き」という屁理屈をいつまで守り通すつもり?>

米ニューヨークに本拠を置く国際的人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」が11月22日、インドネシアの国軍と国家警察が新たに採用する女性に対し実施している「処女検査」の廃止を求める声明を明らかにした。

インドネシアでは1945年の独立後、新たに組織された陸海空の軍、警察が女性を採用する際の採用条件として「未婚である」とともに「性交未経験」を求めている。このため採用予定の女性に対し、処女であるか非処女であるかのいわゆる「処女検査」が義務化され、非処女は不採用とする内部方針が長らく続いていた。

ところが国際社会の批判などを受けて「すでに廃止した」と警察は言っている。だが内部情報や受験者の証言からは現在も続けられている可能性が極めて高いとHRWはみている。

警察側は「一般の身体検査の一環として性病の有無を検査する検査は実施している」と主張しているが、性病検査の具体的な方法については明言していない。

インドネシアはイスラム教を国教とはせず、他の宗教も認める多様な価値観の国家だが、人口の88%を占めるイスラム教の影響が色濃く、男性中心社会の名残も強く残されている。このため特に法執行機関である警察内部には「結婚前の性交は非道徳的であり、そうした未婚の性交経験者には売春婦も含まれている。そんな女性を警察官に採用する訳にはいかない」「処女検査の恐怖や痛みに耐えられないような女性は警察官として職務執行には不向きである」との考え方が根強く残っているという。

インドネシアでは国内の人権団体や女性保護団体が政権交代の度に「処女検査の廃止」を訴えてきたものの、これまで廃止が検討されたことはない。庶民派大統領として人気の高い現在のジョコ・ウィドド大統領も沈黙を守っており、インドネシア初の女性として大統領に就任したメガワティ・スカルノプトリ元大統領もこの問題に目を向けることはなかった。

指2本を挿入する検査

インドネシア軍、警察の「処女検査」はそれぞれの採用試験会場の一角に男性は一切立ち入りできない一角が設けられ、そこで実施される。内部では女性軍医や警察病院の女性医師が待ち構えており、就職希望の女性に下着を脱がせた上で、ゴム手袋の指を2本(人差し指と中指)膣内に挿入し、処女膜の有無を確認するという原始的な方法で行われるという。



高卒、大卒の採用があるが未婚で性交未経験の採用基準は同じ。このため処女検査で処女膜が確認できない場合は「未婚の性交経験者」として不採用になるという。

病気や怪我あるいは激しい運動などで処女膜が破損するケースが医学的にはありうるとされているが、そうした例外は基本的に認めらないのが現状といわれている。

精神的苦痛、トラウマ、痛み

インドネシアのマスコミも思い出したように何年かに一度この問題を取り上げては検査を受けた女性のインタビューなどを掲載して世論を喚起しようとしている。

そうした記事では処女検査に関して「トラウマになった」「そういう検査があることを聞き、恐怖だった」「とても痛かった」などという被検者の声が繰り返し紹介されるが、世論は高まらない。

世界保健機関(WHO)は2014年に「処女検査に科学的根拠はない」との見解を明らかにしており、HRWをはじめとするNGOや各種団体も「処女検査は女性の人権、人格、尊厳を著しく侵害する行為である」と糾弾する。

HRWではインドネシアが現在も続けている処女検査について「指を挿入するという女性にとって屈辱的な行為」と厳しく批判。その上でインドネシアのジョコ・ウィドド大統領、ティト・カルナフィアン国家警察長官、ガトット・ヌルマンティヨ国軍司令官に対して直ちに中止するよう声明で求めている。

[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など


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大塚智彦(PanAsiaNews)

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