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火山噴火に苦しむバリ島、必死の観光半額セール?

ニューズウィーク日本版 2017年12月20日 16時0分

<火山噴火でバリ島の観光産業は大打撃。今も最高の危険度が続く島に外国人にきてもらおうと、思い切った誘致作戦が始まった>

世界的な観光地、インドネシアのバリ島は今、11月に噴火したアグン山(3014メートル)の火山活動が同島の主要産業である観光業に大きなダメージを与え、島全体が苦しんでいる。そうした困難な状況を打破しようとインドネシア政府、バリ州政府、バリ観光業界がこれからのクリスマス、年末年始の観光シーズンにあの手この手の誘致作戦を繰り広げている。

バリ島は2017年9月20日ごろから同島北東部のカランアセム県にあるアグン山の火山活動がにわかに活発化し、噴煙が上空500メートル以上に上がる事態となった。当初は水蒸気爆発による噴煙だけですぐに沈静化するものとみられ、ヒンズー教の祈祷師などがあちこちで「火山活動の停止」を祈願していた。しかしその祈りもむなしく11月21日についに噴火が始まってしまった。

インドネシア政府は火山危険度を最高度の「4=避難警戒」に引き上げたが、アグン山から約60キロにあるバリ・ングラライ国際空港が噴煙のため11月27日から3日連続で閉鎖される事態になった。

経済損失は9兆ルピアとの試算も

空港閉鎖は国内外からバリを訪れていた観光客を足止めする事態になり、フェリーでジャワ島やロンボク島に脱出する観光客も相次いだ。こうした事態を受けて、バリでは11月末以降だけで外国人、インドネシア人観光客合わせて8万8000人がバリ旅行をキャンセルした。これによりバリ島が受けた経済的損失は約9兆ルピア(約750億円)に上るとの試算もある。

島全体が観光産業を主産業としており、多くのバリ人が観光関連産業で働いていることから、観光客の激減は深刻な死活問題となっている。

このためアリフ・ヤフヤ観光相はこれからのクリスマス、年末年始の観光シーズンを迎えるにあたって「バリに観光客を呼び戻すために、例えば、40~50%の割引を適用することも考えている」と発表した。具体的に何が割引対象となるかはまだはっきりしていないが、ホテル宿泊料、レストラン食事代、移動手段運賃、観光地の入場料などに適用されるものとみられている。

インドネシア政府はこの「最大半額割引作戦」を進めるにあたり、総額700万米ドル分をバリ観光業界に支出することを明らかにしている。



さらにバリホテル協会のリッキー・プトラ会長は「バリ島はアグン山の周囲半径10キロの避難区域を除いて通常の生活が続いており、安全である」とバリの主な観光施設、観光地が安全であることを強調した。その上でもし観光客がバリに滞在中にアグン山が噴火した場合を想定して「全ての移動のための交通手段、空港閉鎖に伴うホテルの宿泊などを無料にする用意がある」ことを明らかにした。

噴火により空港閉鎖が長期化した場合の外国人観光客のインドネシア滞在ビザについても無料で延長手続きを実施することで入国管理局とすでに協議しているという。

こうした政府や州政府、観光関連協会などの必死のPRで、どこまで観光客がバリ島に戻ってくるかは不透明だ。というのもバリ島では現在も火山性微動が続いており、政府の火山危険度も最大のレベル4が維持されている。火口から半径10キロ圏内は立ち入り禁止、避難区域に指定されており、警戒監視活動は今も続いている。

現地では6万人が避難所生活

この影響でアグン山周辺地域の住民など約6万人が依然として225か所の避難所で避難生活を続けているという現実もある。インドネシアの新聞やテレビのニュースはこうした避難所での不便な生活を伝えており、少なくともインドネシア人はこの時期にあえてバリを訪れようとは考えていないとみられる。

さらにかつての日本人、オーストラリア人というバリ島を訪れる主要外国人観光客に代わって近年急増していた中国人観光客が噴火以降に激減していることもバリ観光業に大きな打撃を与えている。

こうしたことからインドネシア政府はこれから始まる長期休暇を海外で過ごそうとする外国人観光客を主要ターゲットにして、この「割引作戦」と「万が一噴火の際の無料サービス」を宣伝材料にして特にオーストラリア人、中国人そして日本人にバリ島に戻ってきてくれることを期待している。

【訂正】当初、「『アリフ・ヤフヤ観光相はこれからのクリスマス、年末年始の観光シーズンを迎えるにあたって「バリに観光客を呼び戻すために40~50%の割引を適用する』と発表した」とあったのは誤りでしたので、本文中で訂正しました。お詫び申し上げます。

[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など


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大塚智彦(PanAsiaNews)

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