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オプラが次期大統領候補になってはいけない理由

ニューズウィーク日本版 2018年1月18日 18時0分

<いくら人々を感動させるスピーチができても、政治という「専門職」にセレブは手を出すべきではない>

1月7日に開かれた米ゴールデングローブ賞授賞式で、映画界への長年の貢献をたたえるセシル・B・デミル賞を受賞した人気司会者のオプラ・ウィンフリーは、差別やセクハラ問題の克服を訴える素晴らしいスピーチを行った。その後、ウィンフリーに20年大統領選への出馬を期待する声が広がっている。

しかし、ここではっきりさせておこう。ウィンフリーを含め、セレブにはホワイトハウス入りする資格はない。出馬を考えることさえすべきではない。

連邦政府を率いる仕事は、政治的なものであると同時に、専門知識を要するものだ。有権者は指導者に知識と経験を求めるべきだ。

連邦政府の公職に就く人々は、国がどう機能しているかに精通していなくてはならない。私たちは教師や医師には、その職業にふさわしい学歴や経験を求める。それと同じことだ。

ウィンフリーのようなセレブたちがそれぞれの分野で驚くべき成功を収めているからといって、「だったら国も率いることができるだろう」と考えてはいけない。大統領の責任は広範にわたるだけでなく、非常に複雑で専門的だ。

15の行政機関と200万人以上の職員を監督する義務がある。さらに自らの政治目標を実行に移し、議会と協調して法案を成立させ、最高司令官と国家元首の任務をこなさなくてはならない。

そもそもセレブを大統領に選べば最悪の結果になることを、私たちは既に知っている。

ドナルド・トランプは大統領就任前に台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と電話会談を行い、アメリカの「一つの中国」政策を台無しにしかけた。これは政治的な決定ではなく、政治の知識と経験を持たない個人の「過ち」だった。

平均的なアメリカ人はなぜこれがニュースに、ましてやスキャンダルになるのか分からない。台湾が独立国かどうかをグーグルで調べる人も多かっただろう。しかし国際関係を学ぶ人にとって、「一つの中国」の微妙さは常識中の常識だ。



大企業のトップにも無理

ウィンフリーは社会に多大な貢献をし、先日のスピーチではアメリカ社会の「新たな夜明けは近い」と訴えた。しかし、それだけでは大統領候補になる資格はない。セレブどうこうだけではなく、政治に疎い人間は出馬すべきではないからだ。

ワシントンのエリートを軽蔑して「アウトサイダー」を求める声は確かにある。国民の75%は、政府内に腐敗が蔓延していると思っている。

しかし腐敗をなくすために素人を大統領に選ぶのは、戦艦で反乱を起こし、船長と一緒に船の舵まで海に放り出すようなものだ。政府を効率よく機能させるのに必要な経験と知識は、他の職業では得られない。

大企業のトップのスキルは国の運営に生かせるという主張がある。だが企業と政府では、その在り方も仕事の内容も全く違う。企業は商品を金に換える。政府は法を執行し、私有財産を保護し、個人の安全を守り、外敵から防衛するなど無数の仕事をこなす。何かを何かに換えることは考えない。

政府の根源的な役割は、株主に配当を出すことではなく、社会のルールを徹底させることだ。政府は熟練者を必要とするどんな職業よりも複雑なシステムを駆使し、ルールを絶えず更新しつつ執行している。

政治経験の全くないセレブやビジネスマンを大統領候補にまつり上げるのは、愚かであり危険なことだ。

<本誌2018年1月23日号[最新号]掲載>

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ヘイデン・フライ

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