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「逆にいやらしい」忖度しすぎなインドネシアの放送規制

ニューズウィーク日本版 2018年1月31日 18時50分

<検閲に力を入れ過ぎるあまり、運動選手やリスのビキニ姿にまで...>

イスラム教徒の多いインドネシアでは、「ドラえもん」の放映も一苦労だ。香港英字紙サウスチャイナ・モーニングポスト(SCMP)が報じるところによると、保守的なイスラム教徒からの批判を恐れたインドネシアのテレビ局は海外から輸入したコンテンツの放映に神経をすり減らしている。漫画はシーンによってカットされたりぼやかされたり、女性の運動選手やミスコン出場者にもモザイクがかかる。

SCMPによると、検閲の対象は今後、インターネット配信にまで広がる可能性があるという。ただ、子供を持つ一部の親たちはこの動きを歓迎しているようだ。


(女性の競泳選手は顔から下にモザイクがかけられる)

警告3回で放送許可を取り下げ

インドネシア情報省のもと、国内の放送監督を行うインドネシア放送委員会(KPI)は、行動規範と放送規格に違反していると思われるコンテンツに警告を出す機関。罰金は設けられていないが、段階的に警告を発し、3回目の警告の後には放送事業者の放送許可を取り下げる権限を持っている。ただ、放送されるコンテンツの検閲は放送事業者の責任の範疇で、この警告を恐れて過度な放送規制が自主的に行われているようだ。

例えば、KPIは今年、キスシーンを含んだ番組を放映しようとしたテレビ局に対し、警告を出した。その番組は愛憎渦巻く昼メロドラマかと思いきや、日本でも人気のイギリスアニメ「ひつじのショーン(Shaun the Sheep)」。問題とされたキスシーンは性的に見えるものではなかったという。

KPIは、児童保護に関する法律と、放送行為規範および放送規格の性的内容制限に関する法律に違反すると判断したそうだ。KPIの広報担当アンディ・アンドリアントによると「該当するシーンは女性の胸の谷間にリングが落ちるところから始まり、それからカップルはお互いを見つめ合ってキスした」そうだ。それで、この番組は幼い子供たちにとって不適切だと判断したとSCMPに説明した。



リスのビキニ姿もNG

法に触れると言われたらそれまでだが、KPIの圧力によって放送事業者の検閲が行き過ぎた状態になっているのは事実だ。近年、子供が読む漫画などで、数々の「やりすぎ検閲」の事例が挙げられている。

インドネシアの西ジャカルタ市に拠点を置く民間局「Global TV」は2015年に、子供向け番組における暴力コンテンツの制限に違反したため、「ドランゴンボール」の戦闘シーンを複数カットした。さらにその数ヶ月後には、世界中で愛される人気アニメ「スポンジ・ボブ(SpongeBob SquarePants)」の主要キャラクターのリスのサンディがビキニ水着を着ていたという理由でモザイク処理された。「ドラえもん」のしずかちゃんも同様の対応がされている。

Censorship on Indonesian TV channel is ridiculous. pic.twitter.com/BUJGhMJSHK— KH_Quotes (@KH_Quote) 2018年1月8日

(モザイク処理されたリスのサンディ)

Sometimes, my country is that funny. If it's easy, I'll leave and change my nationality. It's just sad, depressing and disappointing despite to the glorious history of how this country established. Very very sad. https://t.co/BdLNIL76MW— fika aditya (@fikadit) 2018年1月31日

(行き過ぎた報道規制を嘆くインドネシア人男性の投稿)


KPIは放送事業者に責任をなすりつけ

一方ですべての国民が「やりすぎ検閲」に甘んじているわけじゃない。SNSに目を向けた多くの視聴者は、KPIと御上に忖度する放送事業者に怒りをあらわにした。

KPIのユリアンドレ・ダルウィス議長はSCMPのインタビューに対し、検閲をしているのはあくまで放送事業者だと強調。KPIは単に放映された番組を監視するだけで、検閲自体の責任は放送事業者にあることを示唆した。

ダルウィスによると、法律に違反するのは、人の胸、腿または臀部の接写という。しかし、この規制がアニメキャラクターにも適用されるかどうかについては言及されていない。

ダルウィスは「放送事業者が法律を明確に理解する必要がある」と言うが、事業者はグレーゾーンに切り込むよりも保守的な検閲をしたほうが得策だと考えた結果が今の状況だろう。

そして規制はさらに加速しそうだ。インドネシアでは現在、放送規律機関の設置等の規定が盛り込まれた放送法の見直しが進められている。見直しでは、インターネットストリーミングサイトも監視の対象に含まれる。ダルウィスは、インターネットの規制がテレビ放送事業者と同等かどうかについて明言を控えており、雲行きの怪しさを感じずにはいられない。

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ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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