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来日するオバマに期待する「日韓合意」の後始末 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2018年3月6日 19時10分

<アメリカがトランプ政権の時代になったからといって、広島と真珠湾に共同で献花したオバマと安倍首相の親密な関係を否定する必要などないが>

退任して一年以上が経過しているものの、バラク・オバマ米前大統領は、いまだに「ただの人」とは言えない状態です。アメリカの場合、退任した大統領は生涯にわたって「プレジデント」という称号で呼ばれ、大統領の特使になったりして、純粋な私人に戻ることはないのですが、それにしてもオバマの場合、ミシェル夫人も含めてその人気は衰えるどころか、さらに上昇する気配すらあります。

民主党支持者を中心に、トランプ大統領への違和感や嫌悪感を持つ人は多く、その分だけ「オバマ時代を懐かしむ」感覚があり、それが人気を押し上げているのは間違いありません。

そのオバマが、3月下旬に来日するという発表がありました。安倍首相との会談も予定されているそうで、一部の報道では北朝鮮問題などに関する意見交換も行うそうです。

考えてみれば、長い間2人は「シンゾウ、バラク」というファーストネームで呼び合う親密さを誇ってきたわけですし、成果として広島と真珠湾における相互献花外交という、歴代首脳には誰もできなかった重たい歴史の1ページを進めることができました。

一方で現在のアメリカはトランプ政権の時代ですから、環境ということではオバマが大統領であった時期とは異なります。では、大統領を退任したオバマと安倍首相が会談するのは不適当なのかというと、そんなことはありません。

広島においてオバマがアメリカを代表して献花をした事実は消せるものではないし、また、いくら「アメリカ・ファースト」の時代だからといって消す必要もないでしょう。真珠湾で両者が献花した事実も、両国の歴史にとっては大切な一歩です。「シンゾウ、バラク」と呼び合って、この相互献花外交を両国にとって貴重なレガシー(遺産)として伝えていくのは大切なことです。

北朝鮮情勢についても遠慮は要らないと思います。対北朝鮮政策に関して、オバマ政権とトランプ政権の間に、大きな不連続があるわけではありません。ですから、安倍、オバマの両者が以前からの流れを確認しながら、現在の情勢について語ることは重要ですし、何も問題はないと思います。

仮にトランプ大統領が重大なメッセージをオバマに託しているのであれば、安倍首相はそれを受け止めればいいですし、また安倍=オバマ会談で、重要な論点が浮かび上がるようなら、オバマは大統領に報告するでしょうから、必要なだけ論じればいいのです。



また、オバマが2009年以来主張してきた「核なき世界」という理想論についても、この思想が最終的に「広島献花」に結びついたことを考えると、日本にとっては極めて縁の深い思想だと思います。仮に安倍=オバマ会談でこの話題が出るなり、あるいはオバマが日本での講演でこの思想に触れることがあったら、それはそれで立派なことと思います。

この「核なき世界」という考え方は、現トランプ政権の政治姿勢と矛盾することはありません。トランプにしても、大統領になってから「究極の理想は核なき世界」だということを述べています。もっとも、その発言は「その前に現状に関しては核弾頭の更新をする」という現実論に続くのですが、それはそれとして、別にオバマが日本で「核なき世界」を主張したとして、それが現在の日米関係を考える上で問題になるとは思えません。

むしろ、多くの国でそうであるように、「5大国を含む核兵器の禁止」か、「5大国独占を当面認めた上での拡散阻止」か、という論争があるわけですが、オバマとの会談などを契機に、日本政府が「不拡散の努力」をしながらも「核禁条約も批准する」という判断に、さらに少しでも近づけば良いと思います。仮にそうであっても、トランプ体制のアメリカとの関係には影響はないでしょう。

一つだけ問題があるとしたら、日韓関係です。オバマが主導した日韓合意については、韓国の政変によって政治力学が変化した結果、行き詰まった格好となっています。この状態を放置して日韓離反、米韓離反というモメンタムがさらに拡大するようでは東アジアの安定を損なう流れになってしまいます。

現状としては、韓国の文政権は「完全な解決のためには日本から被害者への心を尽くした謝罪が必要」などと外交上、不可解な主張をしています。これでは日本側としては関係を改善する知恵も努力も出しようがありません。

そう考えると、「当時の仕掛け人」であるオバマに事態を打開するだけの知恵を期待したくなります。仮に妙案が出て、日米韓の結束が少しでも改善すれば、安全保障上の安定に寄与するわけですし、トランプ政権としても歓迎できる方向性になると思います。相互献花外交とは違って、日韓合意については失敗しているのですから、オバマには当事者として何らかの努力を期待したいと思います。

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