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「台湾を中国から守りたいなら、日本がカネを出せ」トランプ大統領再選で想定される現実的なシナリオ

プレジデントオンライン / 2024年4月7日 12時15分

ミシガン州の支持者集会で演説するトランプ元大統領(2024年4月2日) - 写真=AFP/時事通信フォト

もしトランプ氏がアメリカ大統領に再選した場合、日本にはどんな影響があるのか。国際政治学者の篠田英朗さんは「トランプ第2次政権が成立した場合でも、『FOIP』や『クアッド』に象徴される外交路線を大幅に変更することは考えにくい。それでも、さらに具体的な内実については、大幅に不透明な要素が残る」という――。

■「FOIP」も「クアッド」も第1次トランプ政権時代に生まれた

トランプ氏は、大統領時代に、日本の右派層に人気があった。その大きな理由の一つは、対中政策であっただろう。前任者のオバマ大統領は、中国との間の超大国間対立を避ける穏健な態度をとっていた。トランプ大統領は、それを変更して、厳しい姿勢で中国との関係を見直す路線をとった。

日本の安倍首相が提唱していた「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の考え方に賛同し、もろもろの政府文書にその概念を盛り込む際にも、トランプ政権は中国に対する警戒心を隠さない態度をとった。アメリカ・日本・インド・オーストラリアという中国を取り囲む4カ国が、「クアッド」として外交協議を継続・実施する仕組みを作り出したのも、トランプ大統領時代の2019年からだ。

「FOIP」と「クアッド」はバイデン大統領も継承したため、党派を超えたアメリカの外交路線となった。トランプ大統領が確立したアメリカの外交政策の指針は、珍しい。これについては日本も当事者として加わっており、関心を持たざるを得ない。

このような経緯を考えると、トランプ第2次政権が成立した場合でも、「FOIP」や「クアッド」によって象徴される外交路線を大幅に変更することは考えにくい。それでも、さらに具体的な内実については、大幅に不透明な要素が残る。

しかし、たとえ予測することがほとんど不可能であっても、日本にとってのアメリカの重要性を考えれば、さまざまな可能性は検討しておかざるを得ないだろう。

■対中政策は「貿易戦争」が中心に

現在トランプ氏は、自分が大統領在職時代に、中国との「貿易戦争」で強い態度をとったことが、アメリカに利益をもたらした、と繰り返し主張している。そして改めて大統領に就任したら、在任中に中国に対して課した25%の関税を大幅に上回る60%の関税を新たに導入するといった派手な発言も行っている。

サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジを通過するコンテナ船
※写真はイメージです(写真=Nicolas Vigier/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

選挙キャンペーン中の発言ではあるが、従来の「アメリカ・ファースト」の路線にそった岩盤支持者層に向けた発言ではあるので、冗談と受け止めることはできない。もっとも「取引」好きのトランプ氏ゆえに、実際にこの政策を追求するかどうかは中国の出方次第というところもある。コロナ禍の時期から経済が不調の状態にある中国としては、アメリカとの熾烈(しれつ)な「貿易戦争」の再来は避けたいところだろう。

とはいえ、中国に切ることができる有効なカードがあるだろうか。台湾問題はもちろん、北朝鮮やロシアとの関係など、安全保障に関わる分野で、中国が弱腰の対応をとってくるとは思えない。

トランプ氏による「貿易戦争」の挑発を、中国が受けて立つ態度を示す可能性もあるだろう。トランプ氏が本当に関税60%などの本格的な「貿易戦争」を開始した場合、日本経済を含めた世界経済への影響がどのようなものになるのか、なかなか想像はできない。

いずれにせよ、トランプ政権が成立すれば、アメリカは安全保障上の考慮を中心にして東アジア政策の内容を決めていく余裕を見せなくなるのではないか。「アメリカ・ファースト」の姿勢の貫徹と、それによる中国との「貿易戦争」の激化は、東アジアにおけるアメリカの安全保障分野での重しの減退を招く恐れが強い。アメリカは、貿易政策の推進を中心にして、東アジア政策の内容を決定し、安全保障政策をその従属変数としていくのではないか。

■引き続き中国との「取引」の材料になる北朝鮮

トランプ第1次政権が大きな労力を払いながら、ついに何も成果を出せなかったのが、北朝鮮との関係だ。経済的インセンティブなどを見せながら核兵器の放棄を求めたトランプ大統領に対し、金正恩はそれなりの対応はした。少なくとも、アメリカの大統領に異例と思える真面目な対応はした。かし、それでも安全保障政策を変更するところまで説得されることはなかった。

金星3地対艦ミサイルの写真
※写真はイメージです(写真=平壌冷麺/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

注意すべきは、かつてトランプ大統領が、在韓米軍の撤退の可能性も視野に入れた交渉態度をとろうとしていたように見えたことだ。

もっとも一気に全面撤退することは、さすがのトランプ大統領でも難しかった。アフガニスタンでは、トランプ大統領は、撤退の約束をタリバン側と取り交わすところまでをなした。ただし実際の全面撤退の負担はバイデン政権が背負うことになり、結果としてバイデン政権が無残なアフガニスタン撤退の責めを負うことになった。アフガニスタン情勢のその後の推移も見ると、トランプ第2次政権がもし登場したとしても、あまりに安易な在韓米軍の撤退までを行うことはないように思われる。

しかしそれにもかかわらず、引き続き朝鮮半島は、東アジアにおける安全保障の「取引」の材料になりうる。中国の北朝鮮に対する影響力を削(そ)いでいきたいという考えを、トランプ氏が持つとは思えない。また、北朝鮮が良好な関係を持つロシアとの関係は、トランプ氏は好転させていくはずである。

むしろトランプ氏は、安全保障問題にアメリカを深入りさせることなく、韓国の自主防衛能力の向上を求める方向で、あるいは日本にも関与を求める方向で、朝鮮半島でのアメリカの軍事的関与の度合いを減らす可能性を模索するのではないだろうか。

■台湾防衛については日本の役割増大を要求か

世界に名だたる半導体産業などを持つ台湾を、中国に差し出したいという気持ちまでは、トランプ氏も持っていないだろう。ただしトランプ氏はかつて、台湾の半導体産業がアメリカの半導体産業を圧倒するのを、高い関税をかけることで防ぐべきだったという見解を示したことがある。安全保障でアメリカの傘に依存している台湾は、トランプ氏にとって重要な「取引」交渉の議題になるだろう。

いずれにせよ、同盟関係を重視し、台湾防衛に関してしばしば踏み込んだ発言を行ったバイデン大統領の時代と比べれば、トランプ氏が大統領に就任した場合には、アメリカの台湾への関与の度合いは減っていくと思われる。

MGLグレネードランチャー
※写真はイメージです(写真=SatoruGojolovessweet/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

日本では、トランプ氏が大統領になると、在日米軍の駐留経費負担の問題が浮上してくるのではないか、と言う人が多い。しかし実際には、すでに日本は在日米軍の駐留経費の大半を負担しており、あまり伸びしろはない。より重要なのは、日本に周辺領域を防衛する能力を高める要請をしてくるかどうか、である。

日本の防衛費倍増の流れともからめ、台湾海峡危機の可能性も視野に入れた日本の島嶼(とうしょ)防衛能力の向上を、アメリカは今以上に期待するだろう。「トランプ大統領」であればより具体的に、アメリカの防衛産業に利益が出る形での日本の防衛費の増大を、強く求めてくるだろう。

■超大国化し中国と競合するインドとの関係は

次の大統領が任期を全うするまでの今後の5年間で、インドの超大国化は進み続ける。その5年のうちには、インドが国内総生産(GDP)世界3位の地位を手に入れている可能性が高い。そうした変化は国際社会におけるインドの政治力だけでなく、軍事力の増強にも反映されていくだろう。BRICSなどを通じた対話の機会は維持しつつも、インドは中国との競合関係を強めていくだろう。

インドの超大国化という国際政治の構造転換に、アメリカの大統領がどのように対応していくかは、一つの大きな注目点である。インドとの関係を重視して中国を封じ込めようといった発想は、「アメリカ・ファースト」のトランプ氏には希薄であると思われる。インド太平洋地域における自由貿易圏の形成といった多国間主義的な議題にも、おそらく関心がないのではないか。すでにトランプ氏は、自分が大統領に就任したら、バイデン政権が推進している「インド太平洋経済枠組み(Indo-Pacific Economic Framework: IPEF)」からは離脱すると発言している。

■アメリカとの「軍事同盟」は望まないインド

ただしインドの超大国化が、例えばアメリカの軍事産業を潤(うるお)す形で進むのであれば、トランプ氏はそれをもちろん歓迎するだろう。モディ首相らがロシアのウクライナ全面侵攻に批判的な発言をしたりしながらも、結局インドはロシアとの関係の冷却化は避け続けている。その背景には、冷戦時代に培われたインドの兵器体系のロシアへの依存があると言われる。だがインドはこの状態に甘んじているわけではない。アメリカの最新兵器の導入には関心を持っており、アメリカも当然そのようなインドの動きをすでにもう歓迎している。

2019年9月22日、ヒューストンで開催されたモディ首相を称える集会で、舞台裏で子供たちと対面するドナルド・トランプ大統領(当時)とインドのモディ首相
2019年9月22日、ヒューストンで開催されたモディ首相を称える集会で、舞台裏で子供たちと対面するドナルド・トランプ大統領(当時)とインドのモディ首相(写真=The White House/PD-USGov-POTUS/Wikimedia Commons)

「アメリカ・ファースト」のトランプ第2次政権で、軍需産業を接点としたアメリカとインドの関係強化の流れが加速する可能性はあるだろう。「クアッド」では軍事問題が話し合われたことがないが、トランプ氏はそのような慣例にはとらわれないだろう。そもそもトランプ氏がインドとの関係を強めるとしたら、それは(疑似)軍事同盟を形成するためではなく、経済的利益を追求するためであるはずだ。

それはインドの基本的姿勢にも合致する。インドはアメリカとの軍事同盟は望まない。アメリカが遠方からインドを防衛に来るはずはないし、核兵器をすでに自国で生産しているインドにとっては、アメリカとの同盟関係で得られる国防上の利益は少ない。

ただしインド太平洋地域における航行の自由といった議題には、海軍力の増強を図っているインドも関心を持つだろう。共同作戦の可能性は視野に入れながら、兵器体系の強化への関心を通じて、アメリカとの関係を進展させていく政策は、インドにとって合理的である。トランプ氏とインド政府の意向が合致して、両者の軍事面での協力関係に、さらに日本とオーストラリアの参加が要請される事態も想像できないわけではない。

■「実利強調」の外交政策でFOIPの未来を守れ

トランプ氏が理念的な話題を好んで取り上げることは、めったにない。理念的な部分に共鳴して、トランプ氏が「FOIP」を強く推進する、といったことは起こりそうにない。多国間協調主義を推進する枠組みとして「FOIP」を解釈しようとするバイデン政権の姿勢は、トランプ氏はおそらく継承しないだろう。

しかし、それにもかかわらず、トランプ氏が「FOIP」に強く関与する可能性は、第1次政権のときと同様に、必ずしも低くはない。日本にとっては防衛努力向上の要請は、大きな負担になるかもしれない。それでも、アメリカとインドが関係を深めていく際に「FOIP」の枠組みを通じてそこに関わっていくことには、日本の外交政策上の利益もあるだろう。

トランプ氏が本当に大統領になった場合には、実利的な関心を話題の中心に据えて、外交政策を展開していく姿勢が求められてくる。しかしそれは必ずしも「FOIP」の理念の放棄を意味しない。トランプ政権が成立したときこそ、きめ細かい配慮を施した外交政策の発展が模索されていかなければならない。

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篠田 英朗(しのだ・ひであき)
東京外国語大学教授
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程修了、ロンドン大学(LSE)大学院にて国際関係学Ph.D取得。専門は国際関係論、平和構築学。著書に『戦争の地政学』(講談社)、『集団的自衛権で日本は守られる なぜ「合憲」なのか』(PHP研究所)、『パートナーシップ国際平和活動:変動する国際社会と紛争解決』(勁草書房)など

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(東京外国語大学教授 篠田 英朗)

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