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インドネシア・スハルト一族に復活の動き──3男トミーが大統領狙う

ニューズウィーク日本版 2018年3月27日 17時32分

<2019年の大統領選は、現職の庶民派・ジョコ・ウィドド大統領に対し、軍・財界・スハルト一族などの旧体制側が挑戦する構図になりそうだ>

インドネシアで32年間の長期に渡り独裁政権を率いてきたスハルト元大統領の一族が2019年の国会議員選挙、大統領選挙を前に政治の前面に躍り出てきた。

スハルト元大統領の3男、フトモ・マンダラ・プトラ(55歳、通称トミー)氏が新党を立ち上げ、その党首に選出されたのだ。今後トミー氏は2019年の国会議員選挙での国会議席確保を目指し、最終的に大統領選への出馬を虎視眈々と狙っている。

トミー氏はこれまで所属していた第2党のゴルカル党を離党して自党を立ち上げた。ゴルカル党では党首や主要幹部になることが厳しいと判断した結果といわれている。

3月10日に中部ジャワの古都ソロで開催された新党「ブルカルヤ党」の全国大会で党首に選出されたトミー氏は、2019年の総選挙で定数575議席の国会で80議席獲得を目指す方針を明らかにした。

その議席数を背景に、国民の直接選挙で選出される大統領選に立候補することを視野に入れている。

2019年の大統領選には主要政党がすでに現職のジョコ・ウィドド大統領への支持を表明しており、再選の公算が高まっている。

対抗馬としては前回大統領選と同様、グリンドラ党のプラボウォ・スビヤント党首の出馬が確実視されている。

プラボウォ党首はエリート軍人の出身でスハルト元大統領の次女シティ・ヘディアティさんと1993年に結婚。スハルト・ファミリーの一員でもある。

汚職、殺人教唆で有罪も恩赦で釈放

トミー氏はスハルト政権時代には財閥「フンプス・グループ」を率いるビジネスマンとして父親である大統領の威光を背景に活躍。インドネシア特産の丁子たばこ市場を独占し、優遇税制措置で安価な国民車「ティモール」の販売を手掛けるなど巨万の富を築いた。

一方ではレーシング・ドライバーとしてハンドルを握り、女優と浮名を流すプレイボーイだった。

土地の不正取引事件に関する汚職容疑で2002年に有罪判決を受けたが、収監を拒否して逃走。その間に有罪判決を下した最高裁判事を手下に命じて殺害し、殺人教唆でも有罪判決を受け、最終的に収監されて服役した。

しかし複数回の恩赦を受けて2007年に釈放、ゴルカル党に加わって政治活動を始めた。

ゴルカル党は国会第2党だが、スハルト独裁政権を支えた政権与党ゴルカルの流れを受け継ぐ旧勢力、元軍人、元政商・財閥も多く参加しており、スハルト元大統領の長女シティ・ハルディヤンティ・ルクマナさんなど一族も党員として参加していた。



だが、国会議長だったスティア・ノファント党首が汚職容疑で逮捕されて党内刷新に迫られ、旧体制の象徴であるトミー氏ら古参メンバーに逆風が吹き始めたこともトミー氏の離党、自党結成の一因とされている。

独裁体制への回帰は否定

トミー党首は「現代は殺人や強盗が横行し、宗教指導者が襲撃される不安定な時代である。スハルト時代に逆戻りすることはないが、経済5カ年計画などよい政策は引き継ぐべきで、インドネシアをさらに発展させたい」と言った。

スハルト独裁体制への回帰は否定しながらも「古き良き時代」をアピールしている。

国民の間にはスハルト元大統領のような「強い指導者」による「安定した経済」の時代を熱望する声もあることも事実。それでも、トミー氏の求心力には限りがあるかもしれない。

「プラボウォ党首は元軍人で強い指導者のイメージがあるが、トミー氏は汚職、殺人教唆、遊び人などマイナスなイメージが先行しており、スハルト元大統領の実の息子とはいえ、もはや求心力はない」(インドネシア紙記者)との見方が有力だ。

政治評論家のトビアス・バスキ氏も「トミー氏の動きはスハルト一族の政治的復権を目指す最後の試みになるだろう。あまり拙速に大統領などを目指せば失敗に終わる可能性は高い」と分析している。

トミー党首の新党が多数の議席を確保することは厳しいとみられているが、プラボウォ党首とペアを組んで正副大統領に立候補する可能性はあると取りざたされている。

この2人にはジョコ・ウィドド大統領にない強みがある。プラボウォ党首は軍人出身、そして2人共スハルト元大統領のファミリーで、ビジネス界での経験が豊富で巨額の富をもつ。

2019年の大統領選挙は総選挙結果にもよるが、庶民派のジョコ・ウィドド大統領と軍・財界・スハルト一族による対決の構図になりそうな雲行きだ。


大塚智彦(PanAsiaNews)

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