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財務省はスタバの危機管理に学べ! - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2018年4月26日 18時10分

<人種偏見と言われて批判を浴びたスターバックだが、その後の対応で企業イメージを損なわずに済んだ>

アメリカでスターバックスと言えば、一連のコーヒー・ブーム、カフェ・ブームの草分けであり、またチェーンのカフェとしては最大規模のネットワークを誇る企業です。同時に、「進歩派(プログレッシヴ)」な企業文化で知られ、またそれを誇りにしてきました。

店内での無料wi-fiサービスを始めたとか、労働条件を改善したというだけでなく、銃保有派に対して毅然とした態度で「銃を携行しての入店はお断り」という措置を発表した際には、銃規制派の喝采を浴びたのでした。そうした「進歩的な姿勢」がブランドイメージの維持に繋がり、ビジネスとしても良い循環を実現しているのです。

そのスターバックスに大変な不祥事が持ち上がりました。ペンシルベニア州フィラデルフィアの中心街にあるカフェで、2人の客が「待ち合わせなので友人が来てから注文する」と言って店内にいたところ、店長が「注文しないで店内に留まっている」として警察に通報、駆けつけた警官が2人に手錠をかけるという事態に発展しました。

2人の客はアフリカ系だったのですが、店内にいた他の客が一部始終をビデオに撮影して「みんな同じことをやってるけど、白人なら警察は呼ばれないですよね」というコメントを付けて拡散したところ、社会的に大きな批判を浴びることになったのです。

警察はいったん逮捕したものの、何の違法行為もないことが判明して、2人を釈放しています。一方で人種差別に敏感なグループは、即座にこの店への抗議行動を開始しました。人々は、店の周囲でデモを行ったばかりか、店内に座り込んでの抗議行動まで行い、それが全国ネットのニュースで大きく取り上げられるという事態になりました。

これに対して、スターバックスの経営陣の行動は迅速でした。ケビン・ジョンソンCEOとハワード・シュルツ会長は、すぐにフィラデルフィアに駆け付けて、2人の若者に会って謝罪するとともに、警察当局や地域の指導者とも会談を持ちました。そして、同時に2つのメッセージを発信したのでした。



「事件の背景にあるのは『本人が意識していない差別意識(unconscious bias)』である」

「この『本人が意識していない差別意識』に関する従業員の理解を改めるため、5月29日の午後、全米にある8000店のスターバックスは全店が一斉閉店をして従業員への教育を行う」

というのが、そのメッセージです。この謝罪に続いて、フィラデルフィア市警も、「通報に従って安易に逮捕した」ことを謝罪しました。

一部の専門家からは「半日では足りない」とか「一回ではダメでフォローアップが必要」という指摘もあるのですが、ジョンソンCEOの迅速な対応もあって「スタバ=先進的なカルチャー」というブランド価値は守られた形になっています。

何よりも、今回の事件では、人種差別反対派や専門家ではなく、著名な企業のトップが「本人が意識していない差別意識」が元凶だということを認め、この問題の教育のために「半日一斉閉店」という措置を決断したということは評価してもいいと思います。

特に、この「本人が意識していない差別意識」というのが重要です。差別の問題には、常にこの問題がつきまとうからです。例えば、いま日本で話題になっている前財務次官のセクハラ問題、そしてこの問題をめぐる大臣や官房長の発言がさらに批判を浴びている問題でも、まさに女性に対する「本人が意識していない差別意識」が深いところで組織に蔓延していると思います。

スターバックスの場合は半日閉店ですが、財務省の場合は半日ではおさまらないように思います。ただし、そもそも財務省の場合は、トップである大臣、前次官、官房長の3人が「教育の対象」(次官は退任)であるばかりか、この「本人が意識していない差別意識」を認めてもいないわけで、そう考えると何ともやりきれない思いがします。

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