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「おカネの若者離れ」で、どんどん狭くなる趣味の世界

ニューズウィーク日本版 2018年5月30日 15時40分

<過去25年の若者の趣味の変遷を見ると、より金のかからないもの、アウトドア系からインドア系へと趣味が移行していることがわかる>

戦後から高度経済成長期にかけて、日本社会は大きな変化を遂げたが、その後の90年代以降の四半世紀の変化も実はかなり大きい。

人口減少の局面に入り、少子高齢化が進行している。未婚率の上昇に伴い、単身で暮らす人が多くなっている。仕事面では雇用の非正規化が進み、労働者の給与も下がり、自由に使えるお金(可処分所得)が少なくなっている。ITの普及に伴い、人々の生活様式も大きく変わった。

このような変化が、人々の意識や行動に影響を与えないはずがない。社会の動向を敏感に反映する若者は特にそうだろう。博報堂生活総研が、その変化を可視化できる資料を公表している。『生活定点1992-2016』という統計調査で、同じ設問(定点)の回答結果を1992~2016年の四半世紀にかけてたどることができる。

20代が好む趣味・スポーツの変化を示すと、<表1>のようになる。「よくする」と答えた人の割合の増加ポイントが高い順に、34の項目を配列したものだ。



愛好率が減っているものがほとんどだが、自動車、スキー、テニス、ゴルフ、パチンコ、競馬、水泳は10ポイント以上の減だ。

対して増えているのは、パソコン、映画鑑賞、カメラ・ビデオ撮影、ジョギングの4つだ。パソコンで何をしているかは定かでないが、ネットサーフィンや動画視聴といったものだろう。カメラ撮影は、スマホによるものが多いと想像される。カネがかからない簡素なものへの志向、そして<表1>を全体的に見るとアウトドア系からインドア系への移行が見られる。

同時に、若者の生活世界が狭くなっているようにも見える。スキー板を車に積んで遠出するのではなく、自宅でパソコンしたり、近辺をジョギングしたりするだけ。青年期は、アイデンティティ確立のための試行錯誤を許される「モラトリアム」の時期で、色々なことをするのを期待されるが、そうした体験が貧相になっていると言ったら言い過ぎだろうか。

この変化をもって若者の内向化と言うのは容易いが、その基底には、若者の所得の減少があるのを見落とすべきではない。よく言われる「若者の**離れ」の背景には、「おカネの若者離れ」が背景にある可能性が高い。

<表1>によると、自動車・ドライブを愛好する20代の割合は50.7%から17.5%に低下している。人口自体が減っているので、愛好者の絶対数はかなり少なくなっている。自動車業界にとっては大打撃だ。



博報堂の調査の対象は20~60代だが、この年齢層全体の愛好率を当該年齢人口にかけて、愛好者の絶対数を計算してみた。<表2>は、四半世紀の増加倍率が高い順に34項目を並べたものだ。



書道、囲碁、お茶といった古風な趣味の愛好者は7割以上減っている。パチンコは6割減、自動車・ドライブは半減だ。読書人口も3077万人から2303万人と、4分の3に減じている。この影響により、街のリアル書店も淘汰されている(「書店という文化インフラが、この20年余りで半減した」)。

<表2>の数値はそれぞれの趣味の愛好者数だが、各業界の躍進(衰退)を示すバロメーターとも読める。数としては顧客を減らしてしまっている業界が多い(細線より下)。人口減少・高齢化により、モノが売れない、サービスの需要が生まれない社会になっているが、その現実の一端が表れている。

ただ、この表に掲げられているのは「伝統的」なもので、新たなものも出現してきている。博報堂調査では「よくする趣味・スポーツ」の項目として、2012年からモバイル・ゲームを追加した。20代の愛好率は12年の15.1%から16年の37.5%に激増している。

時代の変化に即して、新たな製品やサービスへの需要は必ず出てくる。それを見越して柔軟に業態変化を遂げることが、企業にとって生き残りの必須条件となるのだろう。

<資料:博報堂生活総研『生活定点1992-2016』、
    総務省『人口推計年報』>




舞田敏彦(教育社会学者)

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