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「ショーンKに騙された、恥ずかしい日本人」『国体論』著者・白井聡インタビュー

ニューズウィーク日本版 2018年6月27日 15時40分

<今の日本は自発的に主権を放棄し、国民は政治的自由を自ら放棄している――『国体論』の著者・白石聡による現代日本への警告>

『国体論――菊と星条旗』(集英社新書)の著者・白井聡へのインタビュー後編。日本はどうすれば対米従属から抜け出せるのか。

<インタビュー前編はこちら>

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――日本を取り巻く国際情勢の緊張を目前にして、日本はどう主体性を取り戻すのか。

対米従属を止める一番確実で簡単な方法を言うなら、中国と戦争して負けることだ(笑)。そうすれば今度は対中従属の時代が始まって、これまで対米従属の合理性を説いてきた識者たちが「日本文明はそもそも中華文明の一部だった」などと理屈をつけて従属を合理化してくれるだろう。

冗談はさておき、人口や経済規模の観点から巨大な国家から圧力を受けることは避けようがない。主権国家といっても孤立して生きていける国はない。問われるべきは、そうした現実的な制約の下、どれだけの努力をしているのかということだ。少しでも自由でありたい、制約を脱したいというのが本来の人間だ。今の日本は自発的に主権を放棄し、その国民は政治的自由を自ら放棄している。かつて批評家・東浩紀氏が「動物化」という概念を提起したが、その通りだろう。こういう在り方は人間的とは言えない。

――まずは対米従属を脱してから合理的に日中同盟や日ロ同盟の可能性を......。

あらゆる可能性を吟味したうえで日米同盟が最も合理的な選択肢として選ばれるのならば、それは理解できる。しかし、現実はそうではない。弁護士・猿田佐世氏が「ワシントン拡声器」という概念によって明らかにしていることだが、日本の政官メディアがやっていることは、言うなれば「アメリカの神社化」だ。

対米従属エリートたちは、渡米してアメリカの政財界やシンクタンクなどに、日本国民の血税を原資とする「賽銭」をばらまいて拝む。そうすると、「神のお告げ」、つまり日本の親米派に都合のいいことが書かれたレポートが出て来るので、日本に持ち帰って、「神様はこう言っておられる!」と言って触れ回る。公金を何億円も使って命令してもらっているのだ。

――中国の脅威に日米同盟で対抗するのは合理的だが。

戦後日本の対米従属の理由づけは、対ソ連、対北朝鮮、そして対中と、ころころ変わってきた。外交は常に相互関係だ。中国からすれば、日本は世界がどう変わろうが言い訳を見つけて、アメリカと一緒に中国を封じ込めようとしているように見えるだろう。それならこっちにも考えがあると、中国は習近平政権になってから強硬姿勢を増している。

――対米従属からの自立はこれまでも反米保守派からも唱えられてきた。

石原慎太郎なんかが典型だが、威勢のいい発言は全て日本国内向けで、ワシントンに行けば対中脅威論をあおって、日米同盟を称賛する。かつて占領憲法はけしからんといいながら、政権を握ったら「ロン・ヤス」「不沈空母」と言いだした中曽根康弘首相も同じだ。

当世流行のネトウヨの諸君もそうだが、戦後日本では、「愛国的」「右翼的」であればあるほど対米従属的であるというのが常識となっている。だから、この国の右側にはナショナリズムなど存在しない。愛国ごっこに姿を借りた奴隷根性があるだけだ。

冷戦構造が厳しかった時代でさえ、アジアの親米国家の指導者でアメリカと軋轢を生じさせて暗殺された人物は、その疑惑を含め複数いる。日本の親米保守派は面従腹背を気取ってきたかもしれないが、誰も暗殺されたことがない。

あらためて2010年に沖縄米軍基地問題のために退陣した鳩山政権の挫折の異様さを肝に銘じるべきだ。普天間基地の沖縄県外移転という方針に、アメリカが直接怒ったのではなく、「アメリカの言いそうなこと」を日本のメディアや官僚、民主党政権の閣僚までが先回りして騒いで倒閣した。アメリカに対していささかなりとも主体性を見せることが、「反国体」的なのだ。





――日本の野党はどうか。

民進党の解体は見苦しかった。自民党と根本的に対決しようとするのなら、真の争点になるのは「対米自立」のはずだ。彼らが日本共産党との共闘から逃げ出した、あるいは及び腰である理由は、煎じ詰めればこの問題なのだ。共産党こそ、対米自立を一貫して唱えてきた勢力だからだ。だから、共産党と本格的に連携するとこの課題に取り組まざるを得なくなるのであり、それが怖いから、クラゲのように浮遊する国民民主党が生まれた。

立憲民主党はと言えば、腹を決めるしかないのに、選挙では共産党の候補に推薦を出そうとしない。対米自立という野党共闘の真の意味を理解しているのは、共産党の志位和夫委員長と自由党の小沢一郎共同代表だけだ。

――結局、日本は対米従属を脱せるのか。それとも破綻に向かうのか。

破綻はこれから起こるのではなく、すでに起こっている。安倍政権が腐敗と失政にもかかわらず長期本格化している、つまりこんな政権が相対的にであれ国民から支持されているという事実は、まさにこの国の破綻を物語っている。国民、とりわけエリート層の立て直しにしか、本当の解決はないだろう。日本の対米従属はきわめて異様であるという認識が広がることが大事だ。

そのことに気づかされる機会には事欠かないのだ。例えば、ショーンKの経歴・学歴詐称事件。バタ臭い顔にハーバードのMBAという肩書をぶら下げていたわけだが、日本のテレビ局は、それにひれ伏すかのように事実を確かめることすらしなかった。日本人が彼に騙されたのは、現代日本が単に軍事的にアメリカに従属しているだけでなく、魂の次元で従属し、そのことを自覚すらできないような恥ずかしい在り方をしているからだ。

皆、対米従属を批判したらおこぼれにあずかれないと恐れているのかもしれない。けれども、『国体論』は売れており、印税も入って来る(笑)。私は「そんなことを言ったら干されるぞ」と言われそうなことを遠慮なく発言してきたが、それでも食っていけることを証明している。


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深田政彦(本誌記者)

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