Infoseek 楽天

南アフリカの白人農場主の土地収用にトランプ反発 これも「虐げられた」白人のため

ニューズウィーク日本版 2018年8月24日 19時0分

<白人農場主が苦しんでいると聞いて、俄然やる気を出したトランプ。白人と黒人の格差解消に取り組む南ア政府は猛反発しているが>

南アフリカ政府が進めている白人農場主の土地収用について調査せよ──。8月22日放送の米FOXニュースの報道を受けて、ドナルド・トランプ米大統領が出した指示だ。

FOXのプレゼンター、タッカー・カールソンは南アフリカの土地収用について、「世界中が注目すべき、倫理に反する行為だ」、と主張。沈黙している「アメリカのエリート層」や、南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領を称賛したことがあるバラク・オバマ前米大統領を名指しで批判した。

トランプは放送の数時間後、「南アフリカの土地収用と、農民の大規模な殺害の実態を詳しく調査するよう、マイク・ポンペオ米国務長官に指示した」、とツイートした。

ラマポーザは7月31日、白人農場主の土地を補償なしで収用できるように憲法を改正する、との政府方針を発表。全ての主要政党が、白人から黒人に土地を再配分する改革の必要性で一致した。南アフリカでは、人口の8%しかいない白人農家が、72%の土地を所有している。土地所有を巡る不平等な構図は、アパルトヘイト(人種隔離政策)廃止から20年以上経った今も、白人と黒人の間に根強く残る貧富の差を象徴している。

初めて「アフリカ」に関心

トランプのツイートの翌8月23日、南アフリカ政府はツイッターで、「われわれの国を分断し、植民地支配を思い起こさせる偏狭な見方を断固拒否する」、と反発。さらに、「慎重で包括的なやり方で土地改革のペースを上げていく。国を分断しない方法でだ」、と説明した。

トランプのツイート発言をまとめたサイト「Trump Twitter Archive」を検索すると、大統領就任以降、トランプが「アフリカ」という単語を使用したのは今回が初めて。今年1月には、移民政策を議論するための会合で、アフリカ諸国やハイチを「肥だめのような国」とも言っている。逆に「ノルウェーのような国」からの移民をもっと増やすべきだと主張したため、人種差別だと国内外で批判された。

いかにトランプが南アフリカの白人農場主を助けようとしても、アメリカの駐南アフリカ大使はまだ指名されておらずポストは空席のままで、うまくいかないだろうと、米紙ワシントン・ポストは書いた。



南アフリカ政府は補償金を巡って白人農家との交渉が行き詰ったケースで、すでに土地収用を始めている。現地紙シティー・プレスの8月19日の報道によれば、同国北東部リンポポ州にある2つの農場が、政府が提示した補償金額を拒否した結果、強制収用された。補償金は、農場側が求めた額のわずか10分の1だったという。

南アフリカの白人のロビー団体「アフリフォーラム」は、政府が土地収用を計画していると見られる190の農場のリストを公開した。だが南アフリカの農村開発・土地改革省は、リストの内容を否定した。

白人農家に対する圧力が強まるにつれて、世界各地の右派団体、とりわけ英語圏からの反発が高まっている。南アフリカの国会が土地改革に向けた政府方針を支持した今年3月以降、「南アフリカにいる白人のジェノサイド(大量虐殺)」に際し、「白人のボーア人(オランダ系やドイツ系)がアメリカに移住できるようにする緊急移民計画」をトランプに求める嘆願書に、2万3000人近くが署名した。

ジンバブエと同じ失敗の恐れも

アメリカだけではない。オーストラリアのピーター・ダットン前内相は、南アフリカの白人農家は「特段の注目に値する」と言い、彼らのビザを優先審査することを提案した。南アフリカ政府はダットンの発言を侮辱的として、撤回を求めた。

今、南アフリカの白人農家の殺害の発生率は過去20年間で最低水準だ。ただし襲撃事件に関しては、2016~2017年に478件だったのが、2017~2018年は561件まで増加した。南アフリカ最大の農場所有者団体、アグリSAによれば、2017~2018年に殺害された白人農場主は47人。最も多かったのは1998年で、152人だった。2003~2011年は年間80~100人が殺害されたが、その後2016年までに年間60人まで減少した。もっともこれらの数字は、南アフリカの農場主を代表する別の複数の団体が否定している。

白人系の野党など土地改革の反対派は、不景気の中で強制的な土地収用を行えば経済危機になる恐れがある、と警告する。隣国ジンバブエでは2000年以降、ロバート・ムガベ前政権の下で白人の土地の強制収用を実施した結果、農地の荒廃と経済の破綻につながった。

(翻訳:河原里香)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>


デービッド・ブレナン

この記事の関連ニュース