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北朝鮮問題が今のアメリカで話題にならない理由 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2018年9月20日 11時30分

<トランプ支持のアメリカ孤立主義者も東アジア情勢の現状維持を望むその反対派も、国内問題に気を取られて北朝鮮問題に関心を払わなくなっている>

シンガポールで6月に行われた、トランプ大統領と金正恩・朝鮮労働党委員長の会談は、生中継もされて話題になりました。ですが、その後のアメリカでは北朝鮮外交の問題は、特に話題になっていません。今回、韓国の文在寅大統領が訪朝して、長時間にわたって金委員長と二度目の南北首脳会談を行なったニュースにしても、報道は限られています。

北朝鮮問題は、東アジアの安全保障環境を激変させる可能性も含む大きな問題です。それにもかかわらず、アメリカではどうして話題にならないのでしょう。

まずトランプ支持者ですが、この人たちは極端な孤立主義者です。「アメリカ・ファースト」という大統領のスローガンが象徴するように、「アメリカさえ安全ならいい」という考え方に加えて、「民主主義を広める」などということには興味はありません。

この「アメリカ・ファースト」という考え方からすれば、トランプ=金の「個人的な信頼関係」によって、とりあえず「北朝鮮からアメリカに核ミサイルが飛んで来る」ことが、「回避された」のなら、それで良いし、それ以上のことには興味はないのです。まして、韓国と北朝鮮が和解しようが、統一に向かおうが、別に「どうぞご勝手に」ということになりますし、その過程として「在韓米軍撤退」という話が出てきたとしたら、大いに結構というわけです。

次に反対派はどうかと言えば、基本的には韓国の自由と民主主義を守り、冷戦的なパワーバランスを維持して、中国やロシアに対抗するという、現在の東アジアの秩序を維持したいと考えています。では、そうした現状維持派は、どうして沈黙しているかというと、今、この点で論争を仕掛けても不利だと考えているからです。

アメリカの世論の中では、このような現実主義=現状維持派というのは、実はあまり人気がありません。トランプ支持派は、孤立主義に加えて、冷戦構造などを通じて「軍産複合体」が利益を得ているとか、多国籍企業が繁栄しているとか、同盟国への支援にカネが流れているという話を、嫌っています。一方で、民主党の左派、つまり現在は大変な勢いを持っているサンダース派なども似たような発想法をしています。

ですから、テレビにしても新聞にしても、現状維持派的な意見はあまり表には出てきません。そのかわり、現時点ではトランプが指名している最高裁判事候補の、ブレット・カバナー判事に関する「セクハラ告発が本物なのか?」といったニュースや、今回ハリケーン「フローレンス」による深刻な洪水被害が起きた、ノースカロライナ州を訪れた大統領の言動が「失礼」だというようなニュースでヘッドラインが埋め尽くされているのです。



ということは、本来は国際協調主義であるはずの、民主党支持者や、共和党の本流なども、国内問題に関心が向かうばかりで、その結果として、南北会談の進展などには無関心ということになっているのです。

ただ、気をつけておかねばならないには、その裏には、一つのスケジュール感覚があるということです。今回の南北会談では、米国のトランプ大統領が「北朝鮮外交で一定の努力をした」ことへの評価がされています。そして、この9月中旬というタイミング自体が、「米中間選挙へ向けてトランプを後押し」するかのようなメッセージ性を持っているわけです。

また、金正恩の言う「非核化の日程」については、当初は米大統領選に重なる2020年という期限が意識されていましたが、現在は、2021年という言い方に変わっています。「非核化という成果を見せて大統領選へ」というストーリーが、「トランプを当選させないと非核化は実現しないぞ」というストーリーに変わっているかのようにも見えます。いずれにしても、非核化交渉のスケジュールは、米国の政治日程を極めて意識したものになっています。

そのことを踏まえて、仮にこの11月の中間選挙で共和党、特にトランプ派の候補たちが惨敗した場合には、恐らく「大統領弾劾」へと米議会は進んでいく可能性があります。仮に、弾劾あるいは、その直前での大統領辞任ということになれば、アメリカの北朝鮮外交は完全に白紙に戻される可能性があります。アメリカの世論やメディアが、北朝鮮外交に関して極めて冷静なのは、その確率を計算しているという要素もあります。

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