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中国のスパイ技術はハイテクだけじゃない

ニューズウィーク日本版 2018年11月17日 14時20分

<ハッキングと「人頼み」の情報収集活動を併用する能力こそが彼らの強み>

米情報当局者らは長年、最新技術を使ってアメリカの知的財産を盗み出す中国工作員の脅威について警告してきた。

だが、中国の工作員が起訴された最近の複数のケースでは、それとは違う傾向が目立つ。彼らは最新技術のほか、人間のスパイ活動という昔ながらの方法も使っている。

例えば、米司法省が10月30日、中国の諜報機関である国家安全省の職員2人とハッカーチームを起訴した件。彼らは、米仏企業が共同開発する最新ジェットエンジン技術を盗もうとした罪に問われている。

国家安全省はフランス企業のサーバーに侵入させるマルウエア(不正ソフトウエア)を開発。これをシステムに組み込ませるときは昔ながらのやり方に頼った。その企業の中国人従業員を獲得し、USBメモリーを使ってインストールさせたのだ。

中国政府は、25年までに製造大国としての地位を築く戦略「中国製造2025」を提唱。目標達成のため国内のさまざまな企業を後押ししようと、積極的なスパイ活動を展開している。

こうしたなか、セッションズ米司法長官(当時)は11月1日、中国による米企業の機密情報窃取に対抗する特別チームの設置を発表。急増する中国の産業スパイ活動を「これ以上は看過できない」と、会見で語った。

セッションズは、産業スパイ容疑で中国と台湾の企業を起訴したことも明らかにした。台湾の半導体メーカー聯華電子(UMC)が中国企業と共謀して、米半導体メーカーのマイクロン・テクノロジーから技術を窃取した疑いがあるという。

ここで情報収集に使われたのも、昔ながらの手法だった。起訴状によれば、UMCはマイクロン・テクノロジー台湾法人の幹部を買収して、半導体製造に関する企業秘密を盗ませた。

「ハッカー大国」も健在

米国家安全保障局(NSA)の元職員で現在はサイバーセキュリティー企業で戦略的脅威対策を担当するプリシラ・モリウチは、米司法省が起訴する産業スパイの半数以上は「サイバー活動と人間の活動を融合させたものだ」と指摘する。「それが中国の好みのやり方のようだ」

11年に発覚した事件もそうだった。中国の工作員たちは、米風力発電部品大手のアメリカン・スーパーコンダクターの従業員を170万ドルで買収。同社のタービン制御ソフトウエアのコードを、提携先である中国の風力タービンメーカー、華鋭風電科技(シノベルウインド)にひそかに提供させた。



こうした買収工作はいまだに中国のスパイ活動に不可欠な要素だが、ハッキングが激しさを増していることも事実だ。情報セキュリティー会社クラウドストライクによれば、18年前半に同社が追跡した国の中で最も頻繁にハッキングを行っていたのが中国。バイオテクノロジー、防衛、製薬、運輸など幅広い分野の企業が標的だった。

デジタル技術の発達でスパイ活動は飛躍的に容易になっていると、専門家は指摘する。

「(20世紀に英諜報員でソ連の二重スパイだった)キム・フィルビーは機密ファイルをブリーフケースに入れて、英情報機関からこっそり持ち出していた」と、コモド・サイバーセキュリティーのフィリップ・ハラムベーカーは言う。「約1GBのデータを紙に印刷するとトラック1台分。今ではUSBメモリーにトラック250台分のデータが入る。家庭用インターネットでも、トラック1台分のデータが8秒で送受信できる」

<本誌2018年11月20日号掲載>



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イライアス・グロル

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