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米中間の火花に隠された大人の事情

ニューズウィーク日本版 2018年12月4日 16時40分

<アメリカと中国はなぜにらみ合いを続けるのか......表層的な争いからは見えない構造問題>

貿易戦争に南シナ海の領有権問題と、米中の間ではもめ事が絶えない。先日行われた米中閣僚級による外交・安全保障対話で一旦は沈静化したかに見えるが、火種はいまだ消えていない。

11月30日からアルゼンチンで開催されるG20で、トランプ米大統領と中国の習近平(シー・チンピン)国家主席による首脳会談が予定されている。これに先立って11月9日にワシントンで行われたのが米中閣僚級による対話だ。アメリカ側はポンペオ国務長官とマティス国防長官、中国側は楊潔篪(ヤン・チエチー)政治局員(外交担当)と魏鳳和(ウエイ・フォンホー)国防相が、両国の関係修復を目指して一堂に会した。

こうした努力は歓迎されるべきだし、この対話で貿易戦争に伴う緊張が和らぐのでは、という期待が生まれたことは事実だ。しかし安心するのはまだ早い。ここでは、両国間に根を張るさまざまな問題、そしてそれによって増殖する「火種」について触れられることはなかった。

現在、中国国内ではアメリカの追加関税に対する怒りが増し、アメリカは中国の成長を封じ込めたいのだという批判が声高に叫ばれる。アメリカは中国政府による少数民族ウイグル人への弾圧など人権問題を批判し、中国メディアはそれを「偏見だ」と非難する。貿易についての話し合いは前進しても、根深い問題は未解決のままだ。

どうしてこんなことになってしまったのか? それは、両国とも敵対的な政策を取るのに戦略的かつ政治的な理由があるからだ。両国の関係は、「あちらを立てればこちらが立たず」という対立的構図に根差している。中国が世界のテクノロジー大国を目指せば、世界一の経済大国であるアメリカの地位が脅かされる。そのため、アメリカは妨害し、非難の応酬が始まる。

危機が勃発する確率は?

アメリカは、世界経済の中心となりつつあるアジアにおいて影響力を保持したい。しかし米政府のこうした戦略は、ユーラシア大陸で経済統合を主導しようという中国にとっては邪魔だ。

米高官たちは、中国が推し進める経済圏構想「一帯一路」政策を、中国の同盟国を困窮化させる「借金地獄外交」だと一蹴。他方で中国は、アメリカが提唱する「自由で開かれたインド太平洋戦略」を批判し、この地域におけるアメリカの軍事同盟圏を終焉させようと、従来の国防政策を転換し、先制攻撃も辞さないものにしようとしている。

トランプと習が敵対的な態度を崩さないのには、国内的な理由もある。トランプが中国の脅威を強調することは、支持層を喜ばせると同時に「中道派」や浮動票にアピールするのにも役立つだろう。一方で中国国内では、改革の遅れや経済成長に失速が見込まれていることで、習政権に対する不満が募っている。習がアメリカに強硬な姿勢を取りたくなるのはうなずける。



どちらも引かない状況下で、両国は2つの危険に迫られている。1つは、双方の計算違いによって危険な衝突が勃発する可能性が高まっていること。2国間関係において優位に立ち、面目がつぶれる結果を避けようと必死になれば、台湾や南シナ海など特に問題の多い地域で致命的なもくろみ違いを招く。

2つ目に、敵対心が増大すれば、危機を迅速かつ効率的に解決しようとする努力が阻まれるかもしれない。双方の政権が、「敵」への強硬姿勢を国民の支持集めに利用できると考えてもおかしくない。

今のところは、危機が勃発する確率は高くはない。しかし両国間の緊張の原因がここまで根深いと、状況がすぐに好転するとは思えない。米中両政府は相違点になんとか対処しながら、軍事衝突の危険性を和らげる道を探すことに注力するべきだ。

米中閣僚級会談のように2国間のコミュニケーションを強化することも1つの手だ。そうすることでリスクを減らすというのは、2つの大国にとって最も控えめな目標かもしれない。しかし、世界がますます不安定化するこの時代に米中関係を安定させるためには、達成しなければならない目標でもある。

<本誌2018年12月4日号掲載>




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ティモシー・ヒース(米ランド研究所国防問題担当上級研究員)

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