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風雲急!米主導の反イラン連合にロシアが対抗

ニューズウィーク日本版 2019年2月14日 18時0分

<イスラエルとスンニ派アラブ諸国を中心にイラン包囲網を築こうとするトランプ政権に対し、プーチンとトルコはイランの味方に>

「反イラン陣営」の勢力固めを急ぐアメリカに対抗し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はイラン、トルコの大統領と首脳会談を行う。

2月13日から2日間、ポーランドの首都ワルシャワで開催されている「中東の平和と安全保障の未来」に向けた国際会議は、表向きはアメリカとポーランドの共催という形をとっている。だが実際のところは、トランプ政権とイスラエル、そしてサウジアラビアが、共通の敵であるイランの封じ込めを狙って、欧州やアラブ諸国を味方に引き込もうと開いた会議だと見られている。当然ながら、イランは招待されていない。

この会議に日程を合わせるようにプーチンは14日、ワルシャワから約1500キロ離れた黒海沿岸のソチに、イランのハサン・ロウハニ大統領とトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領を招いて、シリア和平の道筋を探る三頭会談を開催することにした。

ロシア政府が11日に発表した声明によれば、会談の目的は「シリアにおける長期的解決を目指し、さらなる共同歩調を話し合う」こと。プーチンはロウハニ、エルドアンとそれぞれ別個に二者協議も行う予定だ。

イラン国内は反米一色に

1979年のイラン革命で欧米がテコ入れしていた王朝が倒れ、シーア派の宗教指導者が実権を握って以来、イランは欧米諸国と対立してきた。折しも2月11日に革命40周年を迎えたイランでは、トランプ政権の制裁強化で経済が悪化。生活苦にあえぐ国民が「すべてはアメリカのせいだ」と叫び、全土が反米一色に染まっている。

オバマ前政権時代の2015年にイランと欧米など6カ国の間で核合意が成立し、イランに対する経済制裁の解除が始まったが、トランプ政権は、イランが制裁解除をよいことに弾道ミサイルの開発を進め、中東各地でシーア派の武装勢力に資金を提供しているとして、核合意から離脱。中国、ロシア、イギリス、フランス、ドイツはアメリカ抜きでの合意の維持に腐心している。

シーア派の盟主を自任するイランは、シーア派の流れを汲むシリアのアサド政権を支援し、レバノンのシーア派武装勢力ヒズボラにもテコ入れしている。一方、2003年の米軍のイラク侵攻をきっかけに中東で勢力を広げた国際テロ組織アルカイダや、その後に台頭したISIS(自称イスラム国)は、イスラム教スンニ派主導の組織で、2011年にアメリカとその同盟国が支援する蜂起でリビアとシリアで内戦が勃発すると、支配地域を大きく拡大した。



トルコは米政府とも交渉

アメリカとイランはいずれも、イラクとシリアでISIS掃討に貢献したが、イランはアメリカに中東から出ていって欲しいと望み、アメリカはイランが中東で影響力を広げることを警戒している。アメリカは2014年、有志連合を結成してISIS掃討作戦を開始。空爆を行う一方で、地上での作戦ではクルド人を主体とする部隊を主要なパートナーとした。クルド人部隊をはじめ反政府派が支配地域を広げるなか、崩壊寸前のアサド政権を延命させるため、翌2015年にロシアが軍事介入に踏み切った。

以後、シリア政府軍は首都周辺など主要地域の大半を奪還。現在ではクルド人部隊を主体とする「シリア民主軍」が国土の3分の1を支配し、それ以外の反政府派組織は北西部のイドリブ県を掌握するのみとなっている。トルコは自国への内戦の波及を防ぐため、シリア和平のプロセスについてロシアと協議しているが、その一方で、ドナルド・トランプ米大統領とも交渉し、米軍の撤退を求めた。シリア北部で米軍の支援を受けているクルド人勢力を掃討するためだ。トルコは分離独立を目指す国内のクルド人の動きを警戒しており、シリア北部のクルド人部隊もそれと結び付いたテロ組織とみなしている。

EUは反イラン陣営に不参加

シリア政府は、ロシアとイランの軍隊だけが、自国に合法的に駐留する権利があるとみなしており、やはり米軍に撤退を要求。トランプは昨年12月、シリア東部のISISの最後の拠点が陥落したら、米軍を引き揚げると宣言した。米軍撤退を目前に控え、シリア民主軍とシリア政府は和平合意に向けた協議を進めており、サウジアラビアなどアラブ連盟加盟国もイランの影響力を排除すべく、シリア政府と折衝を進めている。

米政府は今回のワルシャワ会議で、反イランを旗印にアラブ諸国の結束を促す意向で、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相もアラブ諸国との数十年に及ぶ敵対関係を乗り越え、「イランとの戦争における共通の利益を追求する」と誓った(イスラエル政府はその後、「戦争」という表現を「闘争」と訂正した)。反イラン・キャンペーンを強化するイスラエルにいら立ち、イランの当局者は「死と破壊」で報いると述べている。

ロシアも、来週に予定されているプーチンとネタニヤフの会談を前に、イスラエルのシリア空爆を声高に非難している。

ロシアはワルシャワ会議に招待されたが参加を見送った。EUのほか、アルジェリア、レバノン、パレスチナ自治政府、イラク、カタール、トルコも反イラン陣営の会議には参加を見合わせた。



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トム・オコナー

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