Infoseek 楽天

トランプ外交をトーンダウンさせる、アメリカ国内の3つの問題 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2019年2月21日 16時0分

<外交への世論の関心は低く、ロシア疑惑の追及は進展中、そして政権人事は穴だらけ――トランプが思い通りの外交を繰り広げられる環境ではなくなっている>

来週27~28日には、ベトナムのハノイでトランプ大統領と北朝鮮の金正恩委員長による第2回の首脳会談が予定されています。また、3月1日は、米国と中国との間の新しい貿易協定の「期限(デッドライン)」とされており、この日までに何らかの米中交渉が行われて「通商戦争」の解決が期待されています。

では、こうした外交日程を通じて、「トランプ外交」は以前のように「ユニークな独自外交」というイメージを保つことができるのでしょうか? この点に関しては、昨年2018年までとは異なる状況があります。これまでのように大統領個人のキャラクターをいかして、独裁者と渡り合い、良くも悪くも話題性を獲得するということが難しくなっているのです。3点指摘しておきたいと思います。

1点目は、外交に関してアメリカの世論の関心が薄いという問題です。アメリカ国内は極端に内向きになっており、国際的なニュースが大きく取り上げられることはまれです。この冬についていえば、大雪の予報や被害のニュース、そして大統領をめぐる政局のニュースがほとんどで、例えば英国のEU離脱問題や日産のゴーン氏逮捕問題など国外の話題は経済ニュースにはなっても、一般の報道はきわめて限られています。

そんな中で、野党の民主党はすでに2020年大統領選へ向けての候補者選びに入っていますが、この予備選における争点も100%国内問題です。また、民主党がトランプ大統領に対して仕掛けるだろう論戦の内容も、現時点では国内問題がほとんどです。そのような中で、「トランプ外交」に対しては、批判も、期待もきわめて限定的であり、したがってリスクを冒してまで大胆な変更をするメリットは小さくなっています。

2点目には、いわゆるロシア疑惑の問題が連日報じられているという問題があります。ムラー特別検察官による全体的なレポートの公表が迫っているということもありますが、それ以上に今週は、一時期FBIの副長官代行を務め、その後解雇されたアンドリュー・マケイブ氏が「脅威」というタイトルで暴露本を出版し話題になっています。

マケイブ氏は、テレビ各局のインタビューに応じる中で「大統領が国家の脅威」である容疑が否定できないので、「FBIとしては大統領をターゲットとした捜査を計画した」と堂々と述べ、この件に関しては、議会の民主・共和両党の指導者に相談した際には「異論はなかった」などと発言しています。これに対して、トランプ大統領は烈火のごとく怒りのツイートを連投しています。



この問題ですが、何よりも「トランプ=プーチン」の親密な関係に対して、世論の多くが疑いを抱き始めています。また、マケイブ告発の中では、大統領が「北朝鮮の核武装の進展度合いについて、米国の諜報機関の報告よりも、プーチンの入れ知恵を信じた」という点が、政界の相当数から問題視されています。

ということは、大統領としては、外交を通じて「そうではない」ことを証明していかなくてはなりません。つまり、自分は「アメリカの諜報機関より他国の独裁者を信じることはない」し、「一対一の取引で米国に不利な外交へと引きずられるという印象は避けたい」という縛りの中にいると指摘できます。

3点目は、政権の陣容が不完全ということです。まず、国防長官についてはマティス前長官を更迭した後は、空席になっています。またヘイリー国連大使の辞任後、後任に指名したテレビキャスター出身のナウアート氏も辞退してしまっています。ということは、国防総省と相談し、また国連を通じて同盟国や、世界の主要国と協調しながらの外交を推進する体制にはなっていないということです。

そんな条件下で外交が進むわけですが、まず、中国との交渉に関しては、1年以上にわたって、この問題で株式市場が神経質な反応を示してきました。ですから、いくら中国に対する過激なまでの厳しい態度を政治的パフォーマンスにしたくても、それで株価が暴落してはマズいわけです。そうなると、できることは限られます。ある程度穏便な解決、あるいは問題の先送りということになる可能性が大きいと思います。

一方の北朝鮮外交についても、例えば朝鮮戦争の終結だとか、在韓米軍の引き上げといった「過激な」判断をして、その見返りに「非核化スケジュールの前倒し」を狙うような大胆な外交は難しくなっていると思われます。そのようにリスクの大きい判断を下して、結果が伴わなければ選挙戦で不利になるからです。一方で、完全に関係が壊れてしまっては、やはり株価下落などが怖いわけで、こちらも無難な内容にして問題を先送る可能性が一番高いのではないかと思われます。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。ご登録(無料)はこちらから=>>


この記事の関連ニュース