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興奮! しつこく、粘り強く「はやぶさ2」とチームは一体となった

ニューズウィーク日本版 2019年2月26日 20時0分

<2月22日、小惑星探査機「はやぶさ2」は、小惑星リュウグウにタッチダウン成功。JAXA宇宙科学研究所プレスセンターでの興奮をお届けする>

2019年2月22日午前7時48分、モニターの中の「はやぶさ2」管制室に拍手と歓声を上げる様子が写った。JAXA 宇宙科学研究所のプレスセンターに集まった記者は意表を突かれてびっくり。それが見られるのは少なくとも30分以上は後だと思っていたからだ。

小惑星探査機「はやぶさ2」は、小惑星リュウグウで最初のタッチダウン(接地)と表面物質のサンプル採取を2月21日に開始した。プログラムの問題から、当初予定よりも小惑星への降下開始が5時間遅れたが、降下速度を早めて目標時刻2月22日午前8時6分のタッチダウンを目指した。

地球と小惑星リュウグウは3億4000キロメートル離れており、電波が届くまでに19分かかる。地球の管制室で、探査機の速度の変化の情報を元にタッチダウンを確認できるのは、午前8時25分だとされていた。「前後30分ほど時間がずれる可能性もある」と事前発表があり、記者は遅くなることはあっても早まるとは思っていなかった。それが早い方に、そして良い方に予想を裏切られたのだ。

JAXA宇宙科学研究所のプレスセンターでモニター越しに見た管制室。予想を良い方に裏切られ、驚きながらも成功の雰囲気が伝わってきた。撮影:秋山文野

午前9時20分ごろ、はやぶさ2チームの久保田孝教授からタッチダウン結果の速報発表があった。「タッチダウンのシーケンス(一連の行動)がすべて正常に行われたことを確認した。弾丸の発射コマンドも確認された。これをもってタッチダウン成功とする」

タッチダウン成功を宣言するプロジェクトチーム。左から吉川真ミッションマネージャ、航法誘導制御担当の照井冬人氏、 佐伯孝尚プロジェクトエンジニア、津田雄一プロジェクトマネージャ、久保田孝教授。撮影:秋山文野

はやぶさ2は小惑星の表面に投下された目印"ターゲットマーカ"を追尾しながら、探査機自身が自律的にチェックポイントと呼ばれる節目で動作を確認してタッチダウンの動作を行う。吉川真准教授によると、「秒速10センチで降下し、日本時間7時26分にリュウグウ表面から高度45メートルでのホバリングを確認、ターゲットマーカの追尾を確認。45メートルから高度8.5メートルへの降下し、ホバリング。7時46分に表面への最終降下を行い、7時48分にタッチダウン。その後すぐ秒速55センチメートルの速さで上昇し、アンテナを低利得アンテナから高利得アンテナに切り替えてテレメトリー(探査機からの情報)を確認したのが8時09分。8時42分に最終確認」(時間はすべて地上、日本時間)となっている。

タッチダウンはなぜこのように早く達成できたのか

タッチダウンという最も重要なミッションをなぜこのように早く達成できたのか。はやぶさ2はタッチダウンにあたってリュウグウ表面から高度5キロメートルまで降下すると、以後は自律的に行動する状態に切り替え、地上からのコマンドではなく探査機自身が判断して行動する。

久保田教授によれば、「探査機の速度変化を見ていると、ターゲットマーカのトラッキングが早く済んでいる。姿勢変更もそれほど時間がかからなかった。マージンを見ておいたが、どんぴしゃりですべて進んだ。比較的相対速度も小さく、ターゲットマーカの真上にいることができた」という。高度5キロメートルより下は、全てはやぶさ2自身がどれだけ事前の計画通りに行動できるかにかかっていたのだ。



「岩の数、高さまでしつこいくらい観測した」

今回素晴らしく賢く、津田雄一プロジェクトマネージャが「10月からこの4か月間計画を万全にして、昨日、今日と着陸に臨みました。想定の中ではベストで着陸できたと思います」と評したタッチダウンを成功させたはやぶさ2。事前の計画と準備を行ったチームの力がある。

当日のフライトディレクターを務めた佐伯孝尚プロジェクトエンジニアは「チーム全体の、ある意味しつこさが実ったのかと思います。訓練をしつこいくらいやって、到着したらしたでリュウグウ全体を観測した上で、L08の岩の数、高さまでしつこいくらい観測して、それが今回の成功に結び付いたかなと思います」と緻密な事前準備について述べた。

佐伯プロジェクトエンジニアが「しつこいくらい」行った準備のひとつがタッチダウン候補地点付近の3D地形図作成だった。クレジット:JAXA

最速タッチダウンを成功させたチームの力は、その精度にも現れたようだ。当初は2018年10月に予定されていたタッチダウンを2019年の2月まで延期したのは、小惑星リュウグウが事前の予想以上に岩が多い地形で、50~60センチメートル以上の岩がない、直径100メートルの開けた場所は見つからなかったことによる。そのため、当初予定の16分の1という直径6メートルのごく狭い領域を目指すことになった。

タッチダウンから1分後にはやぶさ2が撮影したリュウグウの画像には、上昇するはやぶさ2の小型エンジンの噴射または発射したプロジェクタイル(弾丸)によって巻き上げられた砂が濃いグレーに写っている。

この画像からリュウグウ表面の岩石の性質の手がかりを得ることができ、研究者を興奮に巻き込んでいる。それだけでなく、タッチダウン予定だったエリアをマーキングしてみると、砂の部分はほぼタッチダウン領域と一致。はやぶさ2はわずか6メートルの領域に予定通り降りたといえそうだ。

タッチダウンの約1分後にはやぶさ2が上昇しながらタッチダウン地点付近を撮影した画像。 広角光学航法カメラ(ONC-W1)で機上時刻(はやぶさ2とリュウグウの現地時刻)2019年2月22日07:30ごろに撮影された。クレジット:JAXA, 東京大, 高知大, 立教大, 名古屋大, 千葉工大, 明治大, 会津大, 産総研)


上昇するはやぶさ2が撮影した画像にタッチダウン予定地点を重ねた図。矢印の先の白い点は、目印としたターゲットマーカ。クレジット:JAXA, 東京大, 高知大, 立教大, 名古屋大, 千葉工大, 明治大, 会津大, 産総研)

人工的にクレーターを作る重要なミッションに

今後はやぶさ2は、3月から4月にかけて、インパクターと呼ばれる銅製の衝突体をリュウグウ表面にぶつけ、人工的にクレーターを作る重要なミッションに挑む。クレーターの直径は2~3メートルになると考えられており、このクレーター付近に降りて物質を採取するとすれば、第1回タッチダウン同様に精密な着陸を要求される。

第1回タッチダウンにあたり、はやぶさ2が事前に観測した情報を元に、着陸予定地付近の3D地形モデルを作成して準備に望んだ。佐伯プロジェクトエンジニアのいう「L08の岩の数、高さまで」調べたということだ。インパクター衝突後には地形が一変するため、改めて3D地形モデルの作成も検討しているという。しつこく、粘り強くはやぶさ2とチームは一体となって、次の重要ミッションに挑もうとしている。


秋山文野

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