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空から実用化が進む世界の無人兵器事情:ボーイングやカラシニコフも

ニューズウィーク日本版 2019年3月7日 18時20分

<スーパーのセルフレジなど、我々の日常生活も今、徐々に無人化が進んでいる。しかし、ある意味で最も現場を機械任せにしたいのは軍隊かもしれない。有史以来、無数の命を消費してきた「戦争」が今、無人兵器の台頭により様変わりしようとしている>

戦争を変える「ゲームチェンジャー」

先月末、オーストラリア・メルボルンで開かれた航空ショーで、ボーイング・オーストラリアが新しいタイプの無人機を発表した。エアパワー・チーミング・システム(ATS)と呼ばれるもので、同社(旧マクダネル・ダグラス社)製F/A18-E/Fスーパーホーネットなどの有人機と連携し、4〜6機編隊で運用される。単独の自立飛行も可能という。

ショーでは実物大の模型が披露されたが、全長11.7m、航続距離約3,700kmということ以外は、詳細なスペックは明らかにされていない。ボーイングは、既存のエンジンを搭載して一般的な長さの滑走路で離着陸でき、空母搭載仕様にも改造できるとしている。

ATSの開発は、米ボーイング社の豪州現地法人、ボーイング・オーストラリアと、オーストラリア国防省との共同で進められている。2020年に初飛行し、オーストラリア国内で生産される予定だ。オーストラリア政府は国内使用と合わせて、アメリカを含む西側諸国への輸出を目論んでおり、4,000万豪ドル(約31億円)をプロトタイプの開発に投じている。輸出にあたっては、相手国の要請に応じてカスタマイズ可能とし、現地でのライセンス生産も視野に入れるという。

ボーイングは、「迅速に任務仕様を変更できるマルチロール機」という触れ込みでATSをPRしている。まず、有人戦闘機との編隊飛行による人工知能(AI)を使用した戦闘機としての運用。高性能センサーを搭載しているのも特徴で、当面は、電子戦機としての使用が最も期待されている。ほかに、情報収集、警戒監視、偵察等の任務が可能。プレスリリースでは、ATSを採用した空軍は、「ゲームチェンジャーとなり、優越性を獲得することができる」とアピールしている。

Revealed! Our new smart, reconfigurable unmanned system teams with other aircraft to protect & project air power. The Boeing Airpower Teaming System - Australian investment & innovation at work! #TheFutureIsBuiltHere #AirpowerTeaming #ausdef More: https://t.co/77LPYPO93b pic.twitter.com/g0CQjQjxty— Boeing Australia (@BoeingAustralia) 2019年2月26日

最大の動機はコスト削減か

ATS開発の背景には、まず、人命尊重の観点が挙げられる。ボーイングの研究開発部門ファントム・ワークス・インターナショナルのディレクター、シェーン・アーノット氏は、無人機自体の能力の高さもさることながら、戦闘機の編隊を無人機によって"水増し"することにより、リスクを分散できるという考えを示している。同氏は、「有人機が撃たれるよりは、無人機が撃たれる方がましだ」と語る(ロイター)。

また、無人機であれば人間のパイロットよりも強いGに耐えられるし、連続飛行時間も長く取れる。一度により多くの情報を処理することもできるだろう。臨機応変な判断や柔軟性など、まだ人間に分がある面も多く残されているだろうが、AI技術が進めば、無人機の方が人間よりも優秀な兵士となる日が来るかもしれない。

とはいえ、現状では、リスク回避や性能面以上に、コスト削減が無人機開発の大きな動機になっていると言えよう。米シンクタンク、ミッチェル航空宇宙研究所は昨年、有人機と無人機を組み合わせることで、米軍機の数量不足を補うべきだという提言をしている。ATS1機あたりの価格・運用コストは不明だが、人件費も含めれば、F-35といった高価な第5世代機よりはかなり割安になると見られる。



新興勢力が運用する「自爆ドローン」

遠隔操作による無人航空機(ドローン)は、既に今世紀初頭から対地攻撃、偵察任務に実戦運用されている。米軍がイラク戦争やアフガン戦争で使用したRQ-1プレデターやRQ-4グローバルホークが有名だ。

これらの大型の機体は高価で、衛星通信サイトなどの設備も必要なことから、使用国は今の所アメリカなどの超大国に限られる。

一方、近年小国や中東の武装勢力によって運用されているのが、通称「自爆ドローン」または「カミカゼ・ドローン」と呼ばれるミサイルサイズの「徘徊型兵器」だ。映像でつながったオペレーターの操縦により、敵軍事施設や要人といった目標を見つけるまで敵地上空を何時間も旋回してチャンスを伺うことができる。技術的には、事前にプログラミングすれば自立攻撃も可能だ。単価が安く、目標を発見できなかった場合は無傷で帰投できるため、懐にも優しい。

現在、この自爆ドローンのシェアをほぼ独占しているのはイスラエルで、中国などにも輸出している。イエメンのフーシー派武装勢力も独自開発の自爆ドローンの使用実績がある。ここに来て、ロシアでも先月、AK-47アサルトライフルで有名なカラシニコフ社が超小型自爆ドローンを発表。イスラエルもこれに近い新型ドローンで対抗している。アメリカ、中国も独自開発中だ。今や無人航空機の開発競争は、世界に広がっている。

カラシニコフ社の自爆ドローン

ロシア製無人戦車は散々なデビュー

着々と進む航空戦力の無人化に対して、陸はまだまだだ。ロシアは、無人戦車「ウラン-9」を昨年5月にシリア派遣軍に配備したが、その後のデビュー戦は散々だったと伝えられている。「ウラン-9」は30mm機関砲・機関銃・ミサイル・火炎放射器を備えた複合戦車で、後方のオペレーターの操縦で前線の兵士を援護する。

ロシアの無人戦車「ウラン-9」

国内での運用試験では成功が伝えられていたものの、実戦は全く勝手が違ったようだ。まず、安定して通信できる距離が想定よりもだいぶ短かった。『ポピュラー・メカニクス』のレポートによれば、せいぜい基地から1,000〜1,500フィート(約300〜480メートル)の範囲内でしかまともに操縦できず、約1分間通信が途絶えたのが17回から19回、1時間半にわたって操縦不能に陥ったことも2度あったと伝えられている。市街戦に使用したところ、建物によって電波が遮断されたのが原因らしい。

武装のリモコンシステムもトラブルに見舞われた。30mm機関砲の発射に際して、6回タイムラグが生じ、完全な不発も1回あった。また、移動しながらでも火器を正確に発射できるという触れ込みだったが、実際は火器管制装置が移動中に安定せず、いったん停止してからでないと発射できなかった。索敵能力も、謳っていたスペックの3分の1以下しか発揮できなかったようだ。シャーシとサスペンションの機械的なトラブルにも見舞われた。

『ポピュラー・メカニクス』は、「ウラン-9」のデビューを「シリアでの経験により、システムの深刻な問題が明らかになった」と結論づけている。ともあれ、無人戦車が実戦デビューしたのは事実だ。海では、無人潜水艦などの研究が進んでいる。もちろん、究極的には戦争そのものを無くすことを目指すべきだ。目の前の現実は、その前段なのか、逆に向かっているのか。ロボットが人を殺し、ロボットがロボットを破壊するSFの発想は、もはや絵空事ではなくなっている。




内村コースケ

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