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トランプのロシア疑惑、捜査「終結」の意味 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2019年3月26日 10時40分

<ムラー特別検察官によるロシア疑惑の捜査で、トランプ選対とロシアの共謀は認定されなかったが、トランプへの疑惑が完全に晴れたとは言い難い>

米時間3月24日(日)、ウィリアム・バー司法長官は、トランプ大統領とその周囲に関する「ロシア疑惑」について、ムラー特別検察官による捜査が終結したとして、その要点を議会へ向けた書簡として公表しました。

結論としては、2016年大統領選挙に関してロシアが干渉したという疑惑については、
▼トランプ選対とロシアとの「共謀(コルージョン)」は認定せず。
▼トランプ大統領が捜査への司法妨害を行った容疑については証拠不十分。
としています。

これを受けて、ホワイトハウスのサンダース報道官は「大統領の無実が完全に証明された」としていますが、実際のところはどうなのでしょう? 現時点で指摘できることを整理してみました。

(1)特別検察官がロシア疑惑の捜査結果として起訴を推奨したり、これを受けて議会下院が大統領への弾劾を発議するという可能性はほぼ消滅しました。

(2)また、これは今回のバー司法長官の書簡より、少し以前に発表されていた件ですが、このロシア疑惑捜査により、大統領の家族や側近について、新たな訴追はされない見込みです。ですから、一部で噂されていた、大統領の長男であるドン・ジュニア氏、娘婿のジャレッド・クシュナー氏などの訴追はないということです。

(3)議会民主党は、先回りするかのように、ペロシ下院議長などが「選挙で勝ってトランプ政権を終わらせよ」として「無理に弾劾裁判を行うことは求めない」としていました。今回の書簡は、これに符合する形です。

(4)その民主党内では、左派のオカシオコルテス下院議員などが「あくまで大統領弾劾」を主張していました。同議員は、今回の書簡を受けて「弾劾もアリだろうし、選挙で打ち負かすのもアリだろう。だが、トランプを除いても、怪しいカネやネットによる扇動、人種差別主義など共和党の抱える問題を除かなくてはダメだ」という意味深長なツイートをしています。彼女が、何が何でも即時弾劾という主張を引っ込めたということの影響は大きいでしょう。

(5)その結果として、民主党としては即時弾劾論がほぼ消滅し、2020年の大統領選へ向けて、候補者を絞り込む予備選に集中できる環境が整ったとも言えます。

(6)トランプ大統領の指名したバー司法長官は、ブッシュ(父)政権時にレーガン政権の「イラン・コントラ事件」の幕引きを図った人物として、一部に批判があります。疑惑の幕引きを図ったということでは前回と同様で、民主党はカンカンです。ですが、今回はムラー報告書について強権を発動したわけではない、つまり無理に却下したり、隠蔽したわけではないので、何とか生き延びるのではと思われます。



では、大統領の疑惑は完全に晴れたのかというと、必ずしもそうではありません。個人の脱税疑惑、リゾート・カジノ事業など法人との公私混同疑惑、さらには、ロシアとの関係における不道徳な行為の噂など、「弾劾には値しないが、公表されると困る問題」はまだまだ残っていそうです。

また、司法妨害に関しては、大統領個人への捜査ができなかったために証拠不十分になったという、何とも微妙な判断が下されました。そこで、焦点となるのは、
▼ムラー報告書の具体的な内容がどこまで公表されるのか?
▼その他、議会(特に下院)の国政調査権発動で、大統領の確定申告書などの公表は可能か?
という問題です。特に「ムラー報告書の具体的な内容」には関心が集まっています。今回の「共謀なし、訴追もなし」という決定を受けても、大統領自身の「機嫌」は直っていないようですが、それはこうした点への警戒感・不安感があるからかもしれません。

そんなわけで、今回の「バー司法長官書簡」は、トランプ政権をめぐるスキャンダルにとって、一つの大きな転換点になるとは思いますが、これで大統領の再選の可能性が大きくなった、とまでは言えないという評価になるでしょう。

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