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ベネズエラ国会議長が緊急寄稿「マドゥロの居座りを終わらせよう」

ニューズウィーク日本版 2019年4月11日 15時0分

<暫定大統領就任を宣言したグアイド国会議長が不逮捕特権を剥奪されて本誌に緊急寄稿>

昨日(4月2日)の晩、私の不逮捕特権は剥奪された。この国の、およそ正統性を欠く制憲議会によってだ。いや、私を待ち受ける運命はどうでもいい。問題はベネズエラに民主主義を取り戻そうと闘う全ての国民の運命だ。これはアメリカ大統領と、自称「革命の指導者」との争いではない。自由を求める人々と独裁者の闘いだ。

マドゥロ独裁政権は初めからベネズエラにとっての悲劇だった。彼が政権を掌握して以来、この国のGDPは半分に減った。インフレ率は世界一となり、今や超の付くインフレで何百万もの国民が逃げ出した。貧困率は90%に達し、国民の65%以上はいつも腹をすかせている。記録のある限り最悪の事態だ。数え切れないほどの子供や高齢者が栄養不良や通常なら治療できる病で命を落としている。

この間にベネズエラは世界でも指折りの暴力社会になった。この国の人口は約30万だが、過去15年で25万人以上が暴力事件の犠牲となった。住民10万人当たりの殺人件数は南北アメリカ大陸を通じて最高だ。

加えて政治的弾圧の犠牲者がいる。マドゥロ派の特殊部隊は平気で人権を無視し、既に9000人ほどを超法規的に処刑している。チリのピノチェト独裁政権下で「失踪」したとされる人数の3倍だ。

しかもこの国の軍隊には多数のキューバ人が加勢している。コロンビアの左翼ゲリラの残党も加わっている。

我々は暴力を拒否するが

諸悪の根源は権力の座にしがみつくニコラス・マドゥロの存在だ。この男は15年の議会選で民意を無視し、17年には現行憲法に背いて何の正統性もない制憲議会をでっち上げた。そして任期が満了した今年1月10日以降も大統領の座に居座り続けている。一方で、4つの民主的政党は活動を禁じられた。

この国に政治の秩序を取り戻すため、私たちは3段階のプランを提案した。マドゥロの居座りを終わらせ、暫定政権を樹立し、自由で公正かつ透明性のある選挙を実施することだ。この選挙には全ての国民が参加できる。もちろんマドゥロ派の人たちも参加できる。

また多くの国民が絶望的な状況に置かれている現状から、私たちは人道支援物資の搬入を認めるよう求めている。



こうした私たちの取り組みは欧米の民主国家の過半に支持されている。17年夏には南米のほとんどの国が「リマ・グループ」の結成に加わり、ベネズエラが民主主義を取り戻す努力を支援してくれている。国外から私たちを支援してくれる全ての人々に心から感謝する。アメリカの政府と議会の、超党派の支援にも感謝する。

私はベネズエラ国会の議長として、また憲法の定める手続きに従って暫定大統領となって以来、こうした努力の先頭に立ってきた。この仕事にはリスクが伴う。家族や協力者、私自身の命や自由が奪われることもあるかもしれない。

しかし私が最も憂えるのは私自身の運命ではない。私が憂慮するのは、この国の人々が子供に与える薬もない状況に置かれ続け、この先も高齢者が栄養不良で死んでいく事態だ。この先もマドゥロ独裁が続き、大勢の国民が飢えや苦難に耐え続けなければならない事態だ。

私たちは今後も、状況を暴力的な方法で打開することは拒否する。しかし南アフリカの故ネルソン・マンデラが言ったとおり、「闘いの形を決めるのは抑圧者の側であり、抑圧された人々ではない」のだ。

<本誌2019年04月16日号掲載>



※4月16日号(4月9日発売)は「世界が見た『令和』」特集。新たな日本の針路を、世界はこう予測する。令和ニッポンに寄せられる期待と不安は――。寄稿:キャロル・グラック(コロンビア大学教授)、パックン(芸人)、ミンシン・ペイ(在米中国人学者)、ピーター・タスカ(評論家)、グレン・カール(元CIA工作員)。


フアン・グアイド(ベネズエラ国会議長)

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