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令和と天皇──皇室制度はこれからも時代に順応する

ニューズウィーク日本版 2019年4月11日 17時30分

<君主に求められる不変の役割と柔軟性。日本の歴史と未来を象徴する新天皇と共に皇室は変化する>



※4月16日号(4月9日発売)は「世界が見た『令和』」特集。新たな日本の針路を、世界はこう予測する。令和ニッポンに寄せられる期待と不安は――。寄稿:キャロル・グラック(コロンビア大学教授)、パックン(芸人)、ミンシン・ペイ(在米中国人学者)、ピーター・タスカ(評論家)、グレン・カール(元CIA工作員)。


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皇太子徳仁を次の天皇として迎えることは、日本にとって幸運だ。明るい笑顔と、しなやかな強さを思わせる表情。そのオーラは、失われた数十年と3月11日の二重三重の大惨事から、日本が立ち上がる姿を象徴している。

戦争と占領の時代から時を置いて生まれた皇太子徳仁は、イギリスのオックスフォード大学で学んだ。より自信に満ちた前向きな日本を体現するのに理想的な人物だ。

日本の皇室制度は、世界最長の君主制だ。ただし、天皇の役割が時代錯誤だという意味ではない。君主制が時代の変化に順応できる永続的な制度であることは、歴史が証明している。

ノルウェーやスウェーデン、デンマーク、ベルギーなど、世界でもとりわけ裕福で進歩的な国の一部は立憲君主制を取っている。スペインでは、残酷な内戦のトラウマを癒やすために王制復活が行われた。立憲君主制の君主は基本的に、政治指導者よりはるかに高い支持を国民から得ている。

一方で、私たちは君主について、かつてないほどいろいろなことを知っている。タイでは2016年12月に即位した新国王が、皇太子時代に偽のタトゥーを入れ、へそ出しのTシャツを着てショッピングモールをぶらぶらしている動画がフェイスブックに投稿された。

19世紀後半には、後の英国王ジョージ5世を含む英王子たちが横浜を訪れた際に刺青を入れた。だが、当時はソーシャルメディアが存在しなかった。私生活は私生活だった。

現代の君主は、完璧な存在である必要はないが、裕福さとライフスタイルの規範から懸け離れてもいけない。日本の皇室にも問題はあるかもしれないが、普通の家庭も同じような問題を抱えており、共感を得やすい。

もう1つ、君主の黄金律は、政治から距離を置くことだ。聡明で社会的に活発な人ほど、純粋に儀式的な立場を束縛だと感じるかもしれない。しかし、19世紀の思想家で『イギリス憲政論』の著者ウォルター・バジョットは次のように述べている。

「国は党派に分かれるが、王位に党派はない。(君主は)世の中の出来事から明らかに隔絶されることによって、憎しみと冒瀆から解放され、神秘性を保ち、対立する党派の気持ちを1つにまとめることができる」

この意味を誰よりも知っているのは、イギリスのエリザベス女王だ。65年を超えるその在位の間に、イギリスは政治も社会もあらゆる激変を経験してきたが、議論の分かれる問題に関して女王は慎重に中立を貫いている。



王位継承第1位のチャールズ皇太子は長い待ち時間の間に、女王とはかなり違う道を歩んできた。環境保護や都市計画、遺伝子組み換え食品、農業への補助金など、大きな政治的争点について、個人の意見を公言するだけではない。閣僚に度々書簡を出して働き掛けているのだ(即位したら、こうした活動はやめると表明している)。

皇太子徳仁は天皇として、これまでと違う新しい問題に直面するだろう。日本の社会はかつてないほど多様化され、進化している。皇室に対するメディアの敬意は薄れている。皇室制度は国民から強く支持されているが、生前退位をめぐる騒動や女性天皇問題が示すように、その役割は流動的だ。

一方で、皇室制度はこれからも時代に順応するだろう。目まぐるしく変わる世の中で、君主制はますます重要になる。その逆ではない。君主制は過去と未来をつなぎ、私たちがどういう国なのかを思い出させてくれる。

<2019年4月16日号掲載>

※この記事は本誌「世界が見た『令和』」特集より。詳しくは本誌をご覧ください。

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ピーター・タスカ(経済評論家、英国出身)

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