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それでも火星旅行の実現がまだまだ遠い理由

ニューズウィーク日本版 2019年4月15日 10時30分

<生命の痕跡を探し、環境の解明を目指す無人探査機による火星ミッションが始まる。トランプ米大統領もイーロン・マスクも有人の探査・旅行に意欲を燃やすが......>

宇宙探査の次なる大フロンティア、それは火星だ。2020年夏にはヨーロッパとロシアが共同で進めるエクソマーズ計画と、NASAのマーズ2020の無人探査機が火星に向けて飛び立つ。生命の痕跡を探し、火星を目指す人間が克服すべき過酷な環境について科学的に解明する手掛かりも集める構えだ。

数十億年前の火星は地球によく似ていたと、科学者は考えている。「火星には地球とよく似た大気も、液体の海もあった」と、2月の欧州宇宙機関(ESA)の探査車命名式で、イギリス人宇宙飛行士ティム・ピークは語った。「太陽系で生命の痕跡を探す場合、まず目を向けるには火星は理想的な場所だ」

エクソマーズの火星探査車(DNAの構造の解明に貢献したイギリス人科学者にちなんで「ロザリンド・フランクリン」と命名)は、かつて海が広がっていたが現在は乾いた粘土に覆われた地表に着陸。約2メートルの深さまで掘削できるドリルを使って地中を探査する。この手の探査は今回が初めてで、科学者はロザリンドが古代の生命の痕跡を掘り出す可能性に期待している。化石化した分子が地中深くで見つかるかもしれない。

「生命の痕跡探しがエクソマーズの目的」だと、ESAの有人およびロボット探査部門を率いるデービッド・パーカーは言う。「DNAは宇宙のどこにでもあるものなのか。それは分かっていない。火星で有機物が見つかったら、それは地球のものと同じ仕組みなのか。太陽系に共通する生命の起源が存在するのかどうか、ロザリンドが手掛かりを与えてくれるかもしれない」

こうした探査ミッションは、火星で人間が生き延びる方法を科学的に解明するのにも役立つはずだ。「問題は火星の物理的環境──大気や宇宙線やちりだ。そうした環境とそれらが人間に及ぼす影響は、まだあまり解明されていない」と、パーカーは言う。

パーカーによれば、干上がった海を調べれば、火星で水を調達する方法の手掛かりもつかめる可能性がある。「探査コストの80%は輸送費だ。もし(水を)現地調達できるなら、探査はずいぶん楽になる」

だがピークによれば探査車などの着陸成功率は約50%。「火星の大気は非常に薄い。パラシュートはあまりうまく開かず、空気抵抗も小さい。重い探査車を着陸させるだけでも大変だ」

2年の旅に耐えられない

2016年にはエクソマーズの探査車を積載した着陸機が着陸に失敗し、火星に激突した。コンピューターが着陸機の高度を読み誤り、地上約4キロを降下中にエンジンを停止させたという。「だが幸い、データは(周回機などを通じて)確保できた」と、ESAのヤン・ボルナー事務局長は言う。




ドナルド・トランプ米大統領は、火星での有人探査を2033年までに開始するようNASAに要請した。スペースXのイーロン・マスクCEOも火星旅行に意欲的だ。だが47歳のマスクと違い、64歳のボルナーは自分が生きているうちにドナルド・トランプ米大統領は、火星での有人探査を2033年までに開始するようNASAに要請した。スペースXのイーロン・マスクCEOも火星旅行に意欲的だ。だが47歳のマスクと違い、64歳のボルナーは自分が生きているうちに火星旅行が実現するとは思っていない。

「数十年以内の火星旅行の実現を夢見る人々は危険性を度外視している。エンジンや推進システムさえ向上すれば行けると思っている」と、ボルナーは言う。「火星に行くだけで約2年かかる。宇宙線が飛び交う過酷な環境で人間が2年も生きられる宇宙船は、まだ存在しない」

宇宙船内では対応できない健康面や技術上の問題にぶつかる可能性もある。「人間はいずれ火星に、さらにその先に足を踏み入れるだろう。ただし真剣にやれば、だが」

<2019年4月16日号掲載>



※4月16日号は「世界が見た『令和』」特集。新たな日本の針路を、世界はこう予測する。令和ニッポンに寄せられる期待と不安は――。寄稿:キャロル・グラック(コロンビア大学教授)、パックン(芸人)、ミンシン・ペイ(在米中国人学者)、ピーター・タスカ(評論家)、グレン・カール(元CIA工作員)。



キャサリン・ハイネット

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