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家庭料理に求めるレベルが高すぎて、夫の家事分担が進まない日本

ニューズウィーク日本版 2019年4月17日 16時45分

<夫が妻と対等以上に料理を分担する割合が、日本は他国と比較して極端に低い。家庭料理に求めるレベルが高すぎることも原因の一つ>

ある調査によると、既婚女性が夫に最も分担してほしいと思っている家事は料理だ。料理は毎日欠かさずしなければならず、それなりに手間もかかる。これを夫が対等に分担してくれたらどれほど楽になるか。こう考えている女性は多いだろう。

しかし、現実はうまくいかない。無理にまかせてみてもスキル不足で、出された料理は食べられたものではない。料理は単純作業ではなく、一定のスキルが求められる。人間形成のジェンダー差によって、男子は家庭で料理を手伝う経験が乏しいためだろう。学校の家庭科教育に関わる問題でもある。

データで見ても、日本の男性の料理分担率は非常に低い。ISSP(国際社会調査プログラム)が2012年に実施した調査では、既婚女性に夫との料理の分担についてたずねている。日本の共働き夫婦の妻の回答をみると、94.9%が「自分の方がする」と答えている。「夫が対等以上やる」と答えた人は5%(20人に1人)しかいない。

一般的に見れば違和感のない数字だが、他国の状況は大きく異なる。アメリカでは、妻との料理分担率が半分を超える夫が4割もいる。夫の料理分担率が高い順に37カ国を並べると、<図1>のようになる。韓国、カナダ、インド、トルコは共働きの妻のサンプルが少ないので分析から除外した。



上位には北欧の諸国が多い。スウェーデンとノルウェーでは、夫の半分が妻と対等以上の割合で料理をしている。このような夫がどれほどいるかは国によって違うが、1割にも満たないのは日本だけだ。世界で最も男性が料理をしない国らしい。

<図1>の国別順位は伝統的なジェンダー観の強さと重なっているようにも思えるが、それだけではないだろう。北欧を取材した記者によると、北欧では料理は非常に簡素で、冷凍食品で済ませることも多々あるという。子どもに持たせる弁当も簡単なサンドイッチ程度。日本の母親が作る「キャラ弁」を見せると、「これを毎日作るのか」と目をむいて驚かれる。



日本では家事に求められる水準が高い。「男は仕事、女は家庭」という明瞭な性別役割分業で社会が築かれるなか、家事に求められるレベルがすっかり高くなってしまった。専業主婦の妻が手間暇かけて作った料理(一汁三菜)で、疲れて帰宅する夫をねぎらう。これが高度経済成長期の日々だった。

今では、個人・社会双方の要請から夫婦の共働きが求められるようになっている。しかし家事労働の見方・考え方は変わらないままなので男性の分担が進まず、女性が家事・仕事のダブルワークを抱え込むことになっている。それが女性を疲弊させ、男女共同参画社会の実現を阻んでいる(佐光紀子『家事のしすぎが日本を滅ぼす』光文社新書、2017年)。



最近になってようやく料理にも「時短」「手抜き」が推奨されるようになってきた。冷凍商品への支出額が増えている<図2>。国民食のカレーもレトルトのシェアが増えてきている。共働き世帯向けの時短メニューも好評で、食品業界もこの分野に力を入れ始めた。

家庭科の教科書を見ると、手の込んだ調理のやり方が指南されているが、「時短」「手抜き」の術をもっと取り上げてもいい。冒頭で男性のスキル不足を問題視したが、根本的な問題は別の所にあると言えるのではないか。

<資料:ISSP「Family and Changing Gender Roles IV - ISSP 2012」、
    総務省『家計調査年報』>


舞田敏彦(教育社会学者)

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