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一帯一路「5G+4K」フォーラムと中国の「5G+8K」分野別年度別市場規模

ニューズウィーク日本版 2019年4月24日 15時0分

25日から始まる「一帯一路」フォーラムを前に、22日北京で「5G+4K」フォーラムが開催された。中国国内の「5G+8K」戦略の分野別・年度別市場規模を、工信部シンクタンクが昨年発布した白書から読み解く。

「長安からローマへ」:一帯一路「5G+4K」戦略

4月22日、北京で<一帯一路「5G+4K」伝播イノベーション国際フォーラム>が開催された。25日から始まる<「一帯一路」国際合作(協力)サミット・フォーラム>に先駆けて、特に「5G+4K」に焦点を当てたフォーラムだった。

中共中央(中国共産党中央委員会)宣伝部の副部長で中央広播電視(テレビ)総台の台長(日本語的には局長)でもある慎海雄氏は、「中央広播電視総台は、5G世代の到来という歴史的チャンスをしっかり捉え、コア技術を集中させて皆さんとともに"5G+4K+AI"全新戦略の局面を融合させ加速させようと思っている」と述べた。

印象的だったのは「長安からローマへ」(長安は陝西省の古都で西安の古称)という4Kドキュメンタリーが開幕式で上映されたことで、これはまさに習近平国家主席がイタリアを「一帯一路」に参画させ、G7の一角を切り崩した時に使った言葉「古代シルクロードの両端は中国とイタリアだった」を想起させた(詳細は3月26日付けコラム<G7切り崩す習近平「古代シルクロードの両端は中国とイタリア」>)。やはり習近平の胸中には、かつてのローマ帝国のような「中華帝国」という「中国の夢」が描かれているのであろう。

このフォーラムでは「シルクロード・テレビ国際合作共同体 "5G+4K"伝播イノベーション提議書」が発布され、習近平政権が唱える「人類運命共同体」に対して新しい貢献をすることなどを強調した。

まさにデジタル・シルクロードが徐々に正体を現している。

ならば、中国自身の国内における「5G+8K」戦略はどうなのか。少しつぶさに考察してみよう。

中国の「5G+8K」の分野別市場規模と成長率

中国の2022年までの「5G+4K・8K」戦略に関して国家が4兆元(約66兆円)を投資するということを、4月11日のコラム<中国政府が遂にHuaweiと組む――「5G+4K・8K」で>で述べた。これは、中国政府の中央行政省庁の一つである「工業と情報化部(工業和信息化部)」(略称:工信部)が今年3月1日に国家広播電視総局と中央広播電視総台(台=局)とともに発布した「スーパーハイビジョン映像産業発展行動計画」(2019-2022)(以下、「行動計画」)に明記してある数値だ。ちなみに国家広播電視総局は国務院系列で、中央広播電視総台は中共中央の系列である。同じ「総局」という名称では区別しにくいので、「総局」とほぼ同じ意味である「総台」を用いたものと思われる。



66兆円という、この途方もない経費を前にして、日本のビジネスマンならきっと「それなら日本はどれくらい中国市場に踏み込んでいけるだろうか」「中国は日本の関連企業の製品を、どれくらい必要としているだろうか」あるいは「そのニーズはないのか」それとも「分野によってはあるのか......」などと、さまざまなビジネスチャンスを思い描くにちがいない。

そこで、先ずは、工信部のシンクタンクである中国電子信息(=情報)産業発展研究院(China Center for Information Industry Development=CCID)が2018年9月に発表した「2018年中国スーパーハイビジョン映像産業進展と投資価値に関する白書」(以下、白書)を考察してみよう。

CCIDは1995年に当時の中央行政省庁の一つである信息(=情報)産業部によって設立されたシンクタンクだが、2008年の中央行政省庁の改変によって現在の工信部直属のシンクタンクとなった。持ち株の関係上、俗称的に賽迪グループと呼ばれることもある(経緯は複雑なので省略)。

白書では、2022年の「5G+4K・8K」産業、特に「5G+8K」産業に重きを置いた分野別の生産高と年平均成長率を以下のように予測している。

1.テレビやハイビジョンスクリーンなどのハードウェアの生産高は15681.7億元(約25.87兆円)で、年平均成長率(CAGR、Compound Annual Growth Rate)は20%。

2.ネット・インフラやビデオ制作などに関する生産高は10386.2億元(約17.14兆円)で、年平均成長率は80%。

3.アプリケーションやサービスなどに関する生産高は7546.2億元(約12.45兆円)で年平均成長率は90%。

中国の「5G+8K」の年度別市場規模と成長率

白書では、これらを総合した、「2017年から2022年までのスーパーハイビジョン映像産業の年度別生産高と年平均成長率」を以下のようなグラフで示している。このグラフは白書にある中国語表記を日本語に翻訳して筆者が描き直したものである。


【2017年-2022年スーパーハイビジョン映像産業の年度別生産高と年平均成長率】

横軸にある「E」という文字は、「予測値」を表すために"Expect"の「E」を表している。2018年9月に発表された白書なので、2018年も年末までを考慮に入れて、白書執筆時点では「予測値」に過ぎないので、「E」の文字があるのだろう。



青の棒グラフは年度別の「スーパーハイビジョン映像産業生産高」で単位は「億元」。日本円に換算するには、為替レートが日によって異なるが、概ね「16.5」倍にすると、日本円の概数が出てくる。

赤の折れ線グラフは年平均成長率で、分野によっては20%~90%までの幅があるので、全体としては25%~37%程度の成長率となっているのであろう。

今年2019年までの成長率の変化が最も大きく、まさに「今がチャンス」を示唆していると言えようか。

来年2020年からの成長率の推移に関しては、そう大きな変化はない。と言っても35%以上の成長を保ち続けるということは相当なポテンシャリティを持つことになろう。

工信部が発布した「行動計画」は、この「白書」を基にして出されたものである。

中国における「5G+8K」戦略の目的

5Gの目的は、世界の通信インフラだけではなく、IoTや自動運転あるいはドローンや軍事産業など、あらゆる社会インフラを形成することになるのは、今さら言うまでもない。

では中国では「5G+4K・8K」戦略、特に「5G+8K」戦略の目的を、どのように位置づけているのだろうか。先日、中央テレビ局CCTVの特別番組でCCIDの主任研究員との対談があったので、その発言から読み解いてみよう。

目的には大きく分けて以下の6項目があると研究員は解説している。いくつかの項目に対する説明文は筆者が加筆したものである。

一.セキュリティ監視制御

中国で「5G+4K・8K」を発展させなければならない最大の理由は、この監視体制の強化にあり、一党支配体制下にあっては、これは不可避の国家的な最大の目的だと言っていいだろう。ここには日本企業は入り込めない。

二、遠隔医療診察・手術やヘルスケア

中国は国土が広く、かつ病院があまりに混んでいるので、遠隔医療はかなり以前からニーズの高い領域である。解像度がよほど高くなければ手術までは出来ない。情報伝達では音においても画像においても遅延がなく解像度が高いことが要求される。またAIによる遠隔医療もニーズが高く、「5G+8K+AI」の組み合わせが要求される。高齢者が多くなることから、ヘルスケアにも適用される。ここには日本企業が入り込む余地がある。



三、スマート交通管理

四、工業製造

ハイテク国家戦略「中国製造2025」の完遂とサポート。中国が日本の参入を歓迎する領域と拒絶する領域がある。特にここは知財権や特許が、いつの間にか中国のものになっている危険性を孕んでいるので、日本の関連企業は慎重に動かなければならない。

五、広播電視

六、文教娯楽

遠隔教育に関しても、中国は国土が広いので90年代から世銀が入り込んで人材育成のサポートをしていた。娯楽は日本が入り込めそうな分野だが、中国政府が娯楽を戦略目的の一つとしているということは、そこには「イデオロギー」が潜んでいることに注意しなければならない。

このように中国にはもともと、「5G+4K・8K」産業が発展するニーズと素地ができ上がっていた。14億の人口と広大な国土に加え、「一帯一路」イニシアティブに対して習近平政権は野心を隠さない。

「5G+4K・8K」産業は、おそらく向こう数年の間に爆発的に発展するだろう。国家予算の注ぎ方の桁も違えば、白書に見られるように市場規模も桁違いに高まるであろうことが予想される。日本は8K技術に関してリードしているが、国家予算のスケールや市場規模から見て、中国ほどに普及しない可能性が高い。

となると、中国の発展性を求めて動きたくなるのが日本の関連企業だろう。

日本の半導体は沈んでしまったものの、レンズなどの未だに強い領域が健在だ。日本企業の活躍の場はまだありそうだが、しかしかつての半導体や新幹線のようにコア技術がいつの間にか他国のものにならないように用心しなければならない。心は逸るだろうが、日本企業には、どうか中国に、特に「一帯一路」には呑みこまれないようにしてほしいと切に望む。理由に関しては拙著『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』で詳細に考察した。


[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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遠藤誉(筑波大学名誉教授、理学博士)

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