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トランプがムスリム同胞団のテロ組織指定で失うもの

ニューズウィーク日本版 2019年5月11日 14時0分

<穏健な巨大組織をテロリスト呼ばわりすれば、中東の数千万人を敵に回すことになる>

トランプ米大統領は4月30日、1928年にエジプトで結成され、国際的に活動を展開しているイスラム主義運動「ムスリム同胞団」をテロ組織に指定する意向を表明した。歴代の米大統領の政策と一線を画す動きであり、アメリカと中東の政治的関係に影響を及ぼしかねない。

そうは言っても、テロ組織指定までの道のりはまだ遠い。トランプ政権の対テロ当局はまず、国務長官、司法長官と財務省に対し、ムスリム同胞団がテロ組織であることを裏付ける証拠を示さなければならない。その後さらに連邦議会が指定の阻止を試みる可能性もあり、ムスリム同胞団には決定を不服として法廷で争う機会も与えられる。

それでもテロ組織としての指定が承認された場合はどうなるのか。専門家はその決定が、アメリカと中東の合法的・民主的な各勢力との関係を悪化させる可能性があると指摘する。

影響が及ぶのは「トルコやカタールなどムスリム同胞団寄りの国との関係だけではない」と、米シンクタンク、アトランティック・カウンシルのH・A・ヘリヤー客員上級研究員は言う。「クウェートやヨルダン、バーレーンなどとの関係にも悪影響が及ぶ可能性がある。ムスリム同胞団はこれらの国でも活動を展開しており、出身者が政府の要職に就いている例もある」

ヘリヤーはムスリム同胞団には世界中に多くの支部や関連組織があるとして、こうも指摘する。「トランプ政権が世界中の関連組織を標的にしているのか、あるいは特定の国で活動する単一組織を標的にしているのか、それとも全く別のものを標的にしているのか。それによって影響は異なる」

テロ組織に指定されれば、そのメンバーだけでなく、ムスリム同胞団と取引をしている側にも制裁が科される。そうなれば、中東の数百万、数千万の人々がアメリカと敵対することになりかねない。

テロ組織の基準満たさず

「テロ組織の指定は、普通ならアルカイダやISIS(自称イスラム国)のような小規模な過激派組織について行われるものだ」と、ブルッキングズ研究所のシャディ・ハミドは最近のインタビューで語っている。「これは前例のない動きだ。自由世界のリーダーであるアメリカが、何百万、何千万という数の人をテロリスト呼ばわりすることになるのだから」



専門家は以前から、ムスリム同胞団はテロ組織の基準を満たしていないと主張している。元メンバーの一部がアルカイダなどのテロ組織に参加しているとはいえ、活動はおおむね非暴力的だ。イギリスの過去の調査でも、ムスリム同胞団がテロに関与しているという主張を裏付ける十分な証拠はなかった。

ムスリム同胞団は、トランプ政権がテロ組織の指定を目指す方針を発表したことを受けて声明を発表。「われわれは今後も、穏健で平和的な思想や、自分たちが正しいと信じることに沿った取り組みを続け、地域社会や人類全体に貢献するために誠実かつ建設的な協力を続けていく」と宣言した。

それでも中東の全ての指導者が、ムスリム同胞団を支持しているわけではない。

エジプトのシシ大統領はムスリム同胞団を脅威と見なしていて、4月9日にトランプと会談した際にテロ組織指定を要請したと報じられている。サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)もムスリム同胞団を敵視しており、テロ組織に指定されることを望んでいる。

<本誌2019年05月14日号掲載>


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クリスティナ・マザ

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