《ハマス「休戦案受け入れ」はパフォーマンスか》イスラエル・ネタニヤフ首相が見据える「トランプ大統領復活」の追い風
NEWSポストセブン / 2024年5月8日 19時20分
休戦案をめぐり、イスラエルとイスラム組織ハマスの間で交渉が続くなか、双方で動きがあった。泥沼化する戦況に変化が起きるのか。元TBSアナウンサーで元駐イスラエル日本大使を夫に持つ、ジャーナリストの松富かおり氏が最新の中東情勢をリポートする。
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パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘の一時停止とイスラエル人人質の解放にむけた交渉で、イスラム組織ハマスは5月6日、カタールとエジプトの仲介役に対し停戦案を受け入れると発表した。一時的に休戦への期待も高まったが、内容をよく見ると、ハマスが「受け入れる」とした案は、42日間の休戦を実施し、最終的にイスラエルによるガザ封鎖の解除を求めるというものだ。『恒久的な停戦』のほか、『イスラエル軍のガザからの完全撤退』も含む。これではイスラエルは受け入れられず、ハマスの世界に向けてのパフォーマンスと言われても仕方がない。
イスラエルは一時、「40日間の休戦と引き換えに人質33人を解放する案」で休戦に応じようとしていた。しかし、ハマスが応じると発表した「休戦案」は、これとは距離がありすぎた。さらに人質解放に向けても、全体的な展望は示されていない。
ハマス側は様々な過激派分子が100人を超える人質を拉致しているうえ、最高指導者ハニヤ氏は全ての過激派分子を統率できていない。イスラエルからすれば、仮に休戦案が合意に至っても、人質が全て解放される保証はないのだ。
イスラエルは、今回のハマスの「休戦案受け入れ表明」自体を「世界にイスラエルが悪者である」という印象を広げるプロパガンダのひとつであり、「『時間稼ぎ』にすぎない」と見ている。
ネタニヤフが見据える11月のアメリカ大統領選
イスラエルへの軍事支援を続けているアメリカは最近、ガザでの人道問題を重視する立場を打ち出しつつある。イスラエルへの弾薬供給を一時的に止め、バイデン大統領は電話でネタニヤフ首相に警告。アメリカ国内でパレスチナ擁護のデモが拡大し、支持率が低下していることもバイデン大統領を焦らせているのだ。
一方でネタニヤフ首相の支持基盤は、極右勢力と熱心な信仰を持つ人々だ。故に、ネタニヤフ政権下でハマスとの恒久停戦は、まずあり得ない。しかも、ネタニヤフ首相にとって今は「背水の陣」だ。汚職などで起訴されており、パレスチナ人への度重なる攻撃にイスラエル国民の心も世界的な支持も離れつつある。彼を引きずり下ろすための選挙を求める動きも広がっている。今、弱腰になることは自身も右派であるネタニヤフ首相にとってはあり得ない選択肢なのだ。
そんなネタニヤフ首相にとっての大きなイベントは、11月に迫ったアメリカの大統領選挙だろう。不法移民に対する政策などで支持を伸ばし「ほぼトラ」と言われる状況下、もしトランプ氏が大統領に当選すれば、ネタニヤフ首相にとっては力強い追い風となる。
2人の相性は良い。トランプ氏は2018年、世論に逆らって、在イスラエル米大使館をテルアビブからエルサレムに移した実績がある。エルサレムは本来、イスラム教徒やユダヤ教徒に配慮した「国連が管理する国際都市」だ。日本や他の国の在イスラエル大使館はほとんどがテルアビブにあるなかで、トランプはエルサレムをイスラエルの首都として認める意思を示した人物なのだ。当時、イスラエルがこれを歓迎する一方で、パレスチナ人は激怒した。
ラファに残るパレスチナ人にとっても、アメリカ大統領選挙の行方は他人事ではない。ハマスとイスラエル間の緊張は続く。
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