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『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』撮影現場で見た監督のこだわり

ニューズウィーク日本版 2019年6月7日 17時0分

<世界同時公開されたハリウッド版ゴジラの最新作。モスラ、ラドン、キングギドラの人気怪獣たちがハリウッド・デビューを果たした超大作だ。一昨年、アトランタのスタジオに潜入し、出演する渡辺謙やチャン・ツィイー、ドハティ監督に話を聞いた>

(※この記事はPen+(ペン・プラス)『完全保存版 ゴジラ、再び。』より)

2014年に世界中で大ヒットしたハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』、17年に大反響を巻き起こした『キングコング:髑髏島の巨神』に続く、"モンスター・バース"シリーズの待望の最新作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』が日本に上陸!

神話の怪獣が次々に目覚め、壮絶なバトルを繰り広げる。

舞台はゴジラがムートーと大格闘を繰り広げ、サンフランシスコが壊滅した前作の5年後。ゴジラの抹殺に向けて動き出すアメリカ政府に対し、芹沢博士を始めとする未確認生物特務機関・モナークの幹部は「ゴジラは人類の味方だから、保護すべきだ」と訴えるが、モナークが秘密裏に怪獣の調査を進めていたこともあり、その対立の構図が崩れることはなかった。

同じころ、中国奥地のモナークの施設をテロリスト集団が襲撃し、純古生物学者エマ・ラッセルとその娘マディソンを拉致。エマが開発した、とあるテクノロジー「オルカ」も強奪する。芹沢はその事実を、いまは動物学者としてコロラドの大自然でひとり暮らすモナークの元幹部でもあるエマの別れた夫マークに報告。実は5年前のサンフランシスコの事件でラッセル家は幼い息子を失い、それをきっかけに怪獣に肯定的なエマと否定的なマークは離婚したのだが、マークは愛娘の救出のためにモナークに帰還する。

だが、やがてモナークの南極基地で、キングギドラが覚醒。メキシコの火山で眠っていた翼獣ラドンも復活し、中国のモナークの施設では監視されていたモスラがサナギから美しい成虫になって大空にはばたく。さらに世界中で神話の怪獣が次々に目覚める中、ゴジラもついにその姿を現して......。

3つの長い首で人類を威嚇するキングギドラ。神々しさと不気味さを併せ持つゴジラよりデカい巨体は圧巻! ゴジラを空中から地上に叩きつけたり、凶暴さを全開させる。 ©2019 Legendary and Warner Bros. Pictures. All Rights Reserved.

ゴジラだけではなく、モスラ、ラドン、キングギドラの人気怪獣がハリウッド・デビューを果たし、壮絶なバトルを繰り広げる本作は、前作以上に「ザ・怪獣映画」の趣(おもむき)が強いものになっていて、スケールも迫力も倍増! その一方で、54年の第1作のメッセージを継承した、怪獣たちと関わる家族や科学者たちの葛藤のドラマがリアリティを持って描かれるので、彼らの複雑な動向からも目が離せない。怪獣たちがただ暴れるだけの、子ども向けエンタテインメントではないのだ。

これは、前作のギャレス・エドワーズからメガホンを受け継いだ「ゴジラおたく」のマイケル・ドハティ監督が脚本も兼任(共同)した大いなる成果だろう。その証拠に、『ゴジラ』映画の壮大な世界観と心揺さぶられるストーリーに魅了されたトップクラスの演技派たちが集結。

怪獣たちの復活とともに、エマとマディソンの母娘の関係にも変化が。マディソンは何を思い、どんな行動をとるのか? 彼女の動向から目が離せない。 ©2019 Legendary and Warner Bros. Pictures. All Rights Reserved.

己の正義を信じて暴走するエマに『マイレージ、マイライフ』(09)やドラマ『ベイツ・モーテル』(13〜17)などのヴェラ・ファーミガが扮し、苦悩するマークを『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(16)などのカイル・チャンドラーが体現。映画のカギを握るマディソンに全米大ヒットドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(16〜)で人気沸騰中のミリー・ボビー・ブラウンが挑み、モナーク幹部の生物学者ヴィヴィアン役で『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)のサリー・ホーキンスが続投。



さらに、モスラに詳しいモナークの考古人類学者チェン役で日本でも人気のある『グランド・マスター』(13)などの中国人女優チャン・ツィイーが参加し、本作では大きな決断を迫られる芹沢博士を渡辺謙が熱く演じる魅惑のキャスティングが実現しているのだ。

前作より貫禄が増した我らがゴジラ。果たして"彼"は人類の敵なのか、味方なのか? 身体や背びれを美しく光らせるその雄姿がその答えを代弁している。 ©2019 Legendary and Warner Bros. Pictures. All Rights Reserved.


そんな超注目作の撮影現場に潜入したのは、一昨年の8月下旬。場所は米・アトランタ。聞くところによると、ハリウッド大作の多くは少し前までカナダのバンクーバーで撮影されていたが、いまはさらに税率が低いアトランタで制作するのが主流になっているのだとか。

というわけで、この日も市街地から車を20分ほど走らせたところにある巨大な家具倉庫を使ったスタジオに向かったのだが、中に入ってそのあまりの大きさに驚いた。移動にカートを使うその広大な敷地の複数のステージには、モナークの基地や南極基地のセットが。脇には巨大な輸送機の実物大の美術(大道具?)が転がり、屋外には怪獣たちの激闘で破壊されたと思われるボストン・レッドソックスのホーム球場"フェンウェイ・パーク"の巨大な瓦礫が散らばっていて、それを見ただけで本作のとてつもないスケールを実感することができた。

孤軍奮闘の渡辺謙。 ©2019 Legendary and Warner Bros. Pictures. All Rights Reserved.

絶対に妥協しない、ドハティ監督のこだわり。

この日撮影されていたのは、芹沢やチェンらの乗る潜水艦が海中で何かに激突するくだり。乗組員たちがその衝撃で吹っ飛んだり、物につかまって必死に転倒を避けようとする姿をカメラのアングルを変えながら撮っていくのだが、そのテイク数の多さは渡辺謙が「前作のギャレスも相当だったけれど、マイケルも負けないくらい執念深い」と現場で苦笑いするほど。

そう言いたくなるのも無理はない。何しろ、日中から夜の9時過ぎくらいまでずっとその一連のシーンを撮っていたのだから。だが、それは「僕はソウル(魂)が感じられる芝居を常に俳優たちに求めている」という絶対に妥協しないドハティ監督のこだわりの証し。

「だから、ソウルが感じられるまで何度でもテイクを重ねるし、話し合いもする。本作をただの怪獣映画だと思っているキャストには、『ゴジラ』映画の根底にある精神を徹底的にレクチャーしたよ」

ラドンには日本のオリジナルのラドンの描写が忠実に受け継がれている。高速で飛行するその雄大なシルエット、衝撃波で家々の屋根が吹き飛ぶ驚愕の映像はハリウッド・デビューの名刺代わり!? 本作オリジナルの攻撃スタイルも必見だ。 ©2019 Legendary and Warner Bros. Pictures. All Rights Reserved.

とは言え、スタジオの中は別にピリピリしているわけでなく、心地よい緊張感が漂っている。そんなドハティ監督の現場の印象を、セットの脇で台本を片手にセリフを頭の中に叩き込んでいたチャン・ツィイーが教えてくれた。



「私はこれまで感情を揺さぶられる悲しい役や涙を流す役が多かったので、怪獣映画に出られることにまず興奮したし、怪獣という生き物が存在していると信じて毎日演じているわ。実際、昨日は怪獣が目の前にいるというシーンをグリーンバックで撮影したし、怪獣に追いかけられるシーンでは『とにかく逃げろ!』と言われて全力で走った。そんな、いままでやったことのない想像力を必要とする芝居を要求されるので、刺激的ですごく楽しいわ」

周知の通り、チャン・ツィイーと渡辺謙は05年の『SAYURI』以来となる2度目の共演だ。「でも、前回は私が英語をほとんど話せなかったので、コミュニケーションがとれなくて。今回ようやくお互いのことを知ることができたし、謙さんはプロフェッショナルだけど、ユーモアもある方なので、リラックスした状態でお芝居ができるし、とても演じやすい」

ミリーを演出するドハティ監督。 ©2019 Legendary and Warner Bros. Pictures. All Rights Reserved.

怪獣の謎をめぐる、濃密で複雑なドラマ

そんな、キャスト陣も全力で血肉を注いだ『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』はどんな姿をスクリーンに映し出すのか? 詳細が明らかになるにつれて期待が膨らんだ本作をひと足先に観たが、ノンストップでスピーディに駆け抜ける怒濤の展開に圧倒されながらも、神話の怪獣たちがなぜ現代に蘇ってきたのか? の謎をめぐる濃密で複雑なドラマに唸ることもしばしば。

しかも、そこには「いままで作られたすべての『ゴジラ』映画に敬意を払いたい」と語るドハティ監督の過去作に対するオマージュやイースターエッグ(小ネタ)もちりばめられているし、怪獣たちのバトルの見せ方もバラエティに富んでいて、スリルと興奮が最後の最後まで途切れなかった。

往年の『ゴジラ』映画ファンも、本作で初めてゴジラやキングギドラを知るデジタル世代の十代も間違いなく魅了されるだろう。小栗旬も出演する来春公開の『ゴジラVSコング(仮)』との繋がりを明確に見せるラストまで、目にしっかりと焼きつけてほしい。

本作のモスラはより凶暴で攻撃的。ボロボロの肉体で、キングギドラに何度でも戦いを挑む姿は痛々しく壮絶! ラドンとの決死のバトルも、映画史に残る見逃せない名シーンだ。 ©2019 Legendary and Warner Bros. Pictures. All Rights Reserved.

<Pen+(ペン・プラス)『完全保存版 ゴジラ、再び。』掲載>

Pen+『完全保存版 ゴジラ、再び。』(CCCメディアハウス刊)1954年11月3日、日本が世界に誇る唯一無二のキャラクター、ゴジラが誕生した。東京湾から上陸したゴジラが銀座の街を破壊する圧倒的迫力に、観客は心を奪われた。その後、これまでに30作以上のゴジラ映画が製作され、シリーズ累計動員数も、日本だけで1億人を突破。2016年の『シン・ゴジラ』の大ヒットも、記憶に新しい。そして、ゴジラ生誕65周年となる今年、ハリウッド版ゴジラの最新作であり超大作、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』として、銀幕に再びゴジラが帰ってくる。ゴジラ、ラドン、モスラ、そしてキングギドラ――怪獣たちの壮絶なバトルに息をのむ。マイケル・ドハティ監督が、ゴジラ愛全開でつくった最新作紹介はもちろんのこと、誕生秘話から全作品解説、ライバル怪獣まで、ゴジラのすべてがわかる完全保存版。







『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』
2019年5月31日(金)全国東宝系にて世界同時公開

出演:カイル・チャンドラー、ヴェラ・ファーミガ、ミリー・ボビー・ブラウン、サリー・ホーキンス、渡辺謙、チャン・ツィイー他
監督:マイケル・ドハティ
脚本:マイケル・ドハティ、ザック・シールズ

イソガイマサト

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