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トランプ型かリベラル型か、パンドラの箱が開かれた時代のリーダー論

ニューズウィーク日本版 2019年6月14日 11時0分

<これまで語られてきたリーダー像に欠如していたものは何だったのか、真のリーダーとはどのような素質を備えた人物なのか。リーダーシップ教育論の分野で権威的な評価を受けるサム・ポトリッキオ(米ジョージタウン大学教授)に、その答えを求めた>

いつの時代も人々はリーダーを語り、リーダーに希望を抱き、リーダーに失望し、それでも夢を託し続けてきた。

期待と裏切りのサイクルは現在も変わっていないが、今あらためてリーダー論を語る必要が出てきている。それはドナルド・トランプ米大統領の登場により、ポリティカル・コレクトネスというパンドラの箱が開かれたからだ。トランプに続けと各国でポピュリスト的指導者が台頭し、配慮や遠慮は悪とばかりに排斥的な直言を繰り返す指導者が世界に誕生している。

ただ、弱者や少数派に不寛容な国家指導者を非難するのはたやすいが、といってリベラルで包容力ある首脳が必ずしも国家運営に優れていたわけではない。

だとするならば、われわれが望むべき真のリーダーとはどのような資質を備えた人物なのか。これまで語られてきたリーダー像に欠如していたものは何だったのか。

ニューズウィーク日本版の最新号(6月18日号)では「名門・ジョージタウン大学:世界のエリートが学ぶ至高のリーダー論」特集を組み、その答えを米ジョージタウン大学のサム・ポトリッキオ教授に求めた。

ビル・クリントン元米大統領をはじめ、アメリカ行政の中枢機関である最高裁や国防総省、財務省やCIAのトップ、そして数々の各国首脳を輩出してきた全米有数の名門校ジョージタウン大学。そこで教鞭をとるポトリッキオは、29歳の若さで「全米最高の教授」に選ばれるなど、リーダーシップ教育論の分野で権威的な評価を受けている。同校だけでなく、毎年30カ国を訪れ各地のエリート校でも精力的に講演を行う。

ジョージタウン大学のサム・ポトリッキオ教授 Rashit Shiriyazdanov

ポトリッキオに出会ったのは2015年6月。筆者がジョージタウン大学リーダーシッププログラムに参加した時だ。翌年の大統領選挙を控えて、アメリカ政界では候補者選びが話題の中心だった。プログラムでは連邦制について講義をしていたポトリッキオに対しても、当然のように大統領選の見通しについての質問が相次いだ。

当時の風潮では民主党のヒラリー・クリントンが大本命。内部分裂状態だった共和党は、勝利はおろか候補者の選定もままならない状態で、誰もその後の展開を予想する人はいなかった。ポトリッキオは丁寧に両党の状況を分析しながら、こう展望を述べたことを鮮明に記憶している。「第3勢力が出てくる可能性を否定できない」

大統領選に勝利したトランプは共和党候補者だったため、形式上は第3勢力ではなかった。ただ、トランプの政治思想やマニフェストは従来の保守路線と大きく異なり、いわゆるティーパーティー(共和党内の草の根保守)のスタンスとも違った。その意味で、トランプは実質的に第3勢力と言っても過言ではない。



選挙期間中、一度は求心力を失ったトランプが終盤の追い上げから共和党候補者にのし上がり、本選でクリントンを打ち負かす――。その様子をCNNで見ていた時、ポトリッキオの慧眼な見立てに感嘆し、怜悧な分析力に舌を巻いた。

とはいえ、彼自身がこの結果を望んでいたわけではない。おそらくトランプは彼が求めるリーダー像からはかけ離れた存在のはずだ。それでも彼がトランプの台頭を「予測」できたのは、リーダーシップに対する誤った考えにアメリカ社会が流されていることを察知していたからだろう。

だからこそ、指導者に対する正しい認識と、次世代を担う指導者に対する適切な教育が求められる――。ポトリッキオはそんな思いを込めながら、特集の冒頭でこう述べている。「リーダーシップ論はもっと科学的な側面から体系的にアプローチする必要があるのではないか」

上辺だけでなく、人間の根源的な原理を解き明かしながら真のリーダー像を伝授する「全米最高の教授」による珠玉の誌面講義――。それが本特集の核となる部分であり、ほかに、リーダー候補に課される8つの目標を提示、ポトリッキオが選定した「最高のリーダーになるための必読書」を紹介し、日本人への提言も特別に寄せてもらった。

本当に夢を抱くべきリーダー像は、ここに描かれている。


※6月18日号(6月11日発売)は「名門・ジョージタウン大学:世界のエリートが学ぶ至高のリーダー論」特集。「全米最高の教授」の1人、サム・ポトリッキオが説く「勝ち残る指導者」の条件とは? 必読リーダー本16選、ポトリッキオ教授から日本人への提言も。



前川祐補(本誌記者)

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