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ネオナチに飲ませる酒はない! 住民がビール買い占め ドイツ夏フェス

ニューズウィーク日本版 2019年6月28日 15時40分

<旧東ドイツのオストリッツで開かれるロックフェスティバルは、多くのネオナチが集まることで有名になったが、今年は混乱を懸念した地元住民たちが結束して、町のスーパーからビールを買い占めてしまった......>

旧東ドイツはザクセン州、ポーランド国境に接するオストリッツは、人口2,400人程度の小さな町だ。この町で開かれるロックフェスティバルはだが、各地から大勢のネオナチが押し寄せることで知られている。昨年の参加者は約1,200人以上だった。

今年も先週末、同フェスティバルが開かれた。だが開催に先駆け、ザクセン州上級行政裁判所が、出演者や参加者の暴力的な性質を考慮してフェスでのアルコール販売を禁止。さらに、ネオナチたちが酒を求めて町に繰り出すことを見越した住民たちが協力して、フェスティバル前に町中のビールを買い占めてしまった。

小さな町で、住民が立ち上がった

夏のヨーロッパは、週末に泊まり込みで参加する音楽フェスティバルが目白押しだ。ポーランド国境からわずか数メートルのオストリッツのホテル敷地内で開催される「シルト・ウント・シュウェルト(盾と剣)」ロックフェスティバルもそんな夏フェスの1つだ。ただし、他都市のフェスティバルが比較的穏やかなのに対し、オストリッツのフェスティバルは出演者・参加者ともに極右の白人至上主義者が多いことで知られている。

今年も6月21、22日に同フェスティバルが開かれた。しかし、ザクセン州上級行政裁判所が同イベントでのアルコール販売・消費を禁止。金曜日に警察により4,200リットルのビールが没収され、土曜日にさらに200リットルが没収された。主催者側は「過去のイベントではアルコール可でも問題は起きなかった」と主張したが、裁判所は「アルコールにより暴力が増加する確率が高くなる」としてこれを退けた(ドイツ通信社)。

Auch heute setzen wir das Alkoholverbot in #Ostritz weiter durch. Bei Vorkontrollen konnten wir bisher mehr als 200 Liter sicherstellen. pic.twitter.com/fIg1B4XKkx— Polizei Sachsen (@PolizeiSachsen) 2019年6月22日

さらに、ネオナチ集団を徹底的に排除したい地元住民たちが結束し、町のスーパーからビールを買い占めてしまった。買い占めはとくに1箇所のスーパーで行われたようだ。自家用車に荷台を連結し、数十ケースも購入していく人もいた。この変わった作戦の計画はフェスティバルの約1週間前に住民によって自発的に始まったようだが、同州のカトリック団体IBZもこれに参加した。

Wir haben das Bier. Und tschuss!!#Ostritz pic.twitter.com/NFmaLPoLXv— Hanz Christian (@HanzChristianNL) 2019年6月23日


Ostritz in Sachsen: Bürger kaufen Biervorräte auf - aus Protest gegen Neonazis https://t.co/ektLXuPW3T pic.twitter.com/DHDmGlaGBN— DER SPIEGEL (@DerSPIEGEL) 2019年6月22日


会場には他地域からの応援部隊も含めた1,400人の警官が配置され、警察もアルコール没収の様子などをこまめにツイートした。今年のフェスティバルでは開催前に750人の参加登録があったようが、土曜日には600人、さらに夜までには500人に減り、結果として昨年の半数以下になったようだ。

ザクセンのミヒャエル・クレッチマー州知事は「このような小さな町で......ここには極右の居場所はないということを明確にするために住民が立ち上がったことをとても誇りに思う」と、地元住民の対応を称賛した。



極右の代名詞になりたくない

オストリッツは今回、なぜこのような強い意思表示をしたのだろうか。

経済格差により旧東ドイツ圏は極右思想や白人至上主義が誕生しやすい傾向にあったが、政府の移民受け入れを拡大した2015年頃からさらにその勢力は増し、昨年は同じくザクセン州にあるケムニッツで数度にわたって暴動が発生、世界中で報道された。また、昨今の反ユダヤ思想の高まりや、今月初めの、移民擁護派の政治家が極右主義者に射殺された事件などで、社会全体が極右に対して敏感になっているところだ。

ケムニッツと同じザクセン州にあるオストリッツでも極右は勢力を強めている。BBCによると、2017年の連邦選挙において、この地域の約30%が極右政党であるAfD「ドイツのための選択肢」に投票したが、多くの住民はこの町を極右の代名詞のようにはしたくないと思っている。

実は今回、地元住民だけでなく、他の地域からも極右に反対する人たちがオストリッツに集い、その数は3,000人にものぼったという。住民とこれらの同志たちは、レインボーフラッグ(性的マイノリティの象徴とされる)を掲げて集会を開き、ビール買い占めと同時に平和的な手段で反極右の立場を明示した。

警察と一般市民の協力の甲斐あってか、今年のロックフェスティバルでは、壇上で覆面をしたミュージシャンが警察に拘束された(公共の場での覆面はドイツでは禁じられている)ものの、とくに大きな暴力沙汰はなかったようだ。

購入されたビールはどうなるのだろう? 平和集会のオーガナイザーでもあるIBZのミヒャエル・シュリット会長は、市民参加の規範を示せたことを讃えたうえで、購入されたビールは今回の抗議に関わった人々に飲まれるべきだとし、「すぐに素敵なパーティーを開き、人々を招待する」と語っている。



OSTRITZ: Strenge Auflagen für Treffen von Neonazis und Rechtsextremen







モーゲンスタン陽子

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