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トランプの新たな対イラン防衛戦略、欧米、湾岸諸国とも相手にせず?

ニューズウィーク日本版 2019年7月1日 16時0分

<イラン近海を航行する船舶の護衛に欧州やアジア、湾岸諸国を巻き込みたいが>

イラン情勢をめぐり緊張が高まるなか、ポンペオ米国務長官は6月下旬、湾岸諸国を訪問して新たな防衛計画「センチネル」への協力を要請した。中東や欧州、アジアの同盟国と連携し、ホルムズ海峡を含む湾岸地域の海運の要所を航行する船舶の安全性を高めるための戦略だ。

しかし専門家の間では、同盟国から十分な協力を得られるのか懐疑的な声が広がっている。「欧州諸国が一部の負担を担うだろうが、主にアメリカ中心の取り組みに終わるだろう」と、米ランド研究所のアナリスト、ベッカ・ワッサーは言う。計画が実施されれば、湾岸諸国とイランの間に衝突が起きた場合に米軍が戦闘に引きずり込まれるリスクが高まるとの指摘もある。

詳細は不明だが、この計画ではイランの脅威に備え、ホルムズ海峡を航行する船舶に監視カメラなどの機材が提供される見込みだ。また艦艇による護衛が付くケースもあるとみられる。

ただし、カメラの提供や船舶の護衛をどの国が担うかは明らかでない。センチネル計画はイランの攻撃的な姿勢に対抗する「象徴的」な対応の意味合いが強いと、米ブルッキングス研究所のスーザン・マロニーは言う。イランのタンカー攻撃などを「抑止して状況を一変させる」ほどの力はないが、米軍の軍事攻撃よりは「ずっとましだ」。

もっとも、テロの脅威から商業船舶を守る国際的な枠組みは既に存在する。米、豪、カナダ、韓国、欧州諸国などからなる多国籍海上部隊CTF150は、ホルムズ海峡、バベルマンデブ海峡、スエズ運河などの海域を通過する計2700万バレル相当の石油タンカーを監視している。

さらに、アメリカや湾岸諸国が中心となる多国籍海上部隊CTF152もペルシャ湾の監視を担っている。

イラク戦争の再現を期待

湾岸諸国の護衛能力についても疑問がある。アラブ首長国連邦やサウジアラビアをはじめとする湾岸諸国の多くでは海軍の能力が「非常に低い」と、ワッサーは言う。「センチネル計画において大きな役割を果たすことは期待できない」

そうなると、アメリカはCTF150に参加している欧州諸国に協力を求めるだろう。しかし、イランとの核合意を破棄したトランプ政権の対イラン政策に欧州諸国が積極的に協力する可能性は低い。

アメリカとイランの対立激化を受けて、イランと貿易関係を持つ欧州やアジアの大半の国々は既に微妙な舵取りを迫られている。そうした国がセンチネル計画の護衛活動に加われば、イランから「潜在的な敵国」と見なされかねない。



トランプ政権は、中東の石油を必要とするアジアの同盟国にも協力を依頼するかもしれない。折しも6月13日には、日本の企業が運航するタンカーがホルムズ海峡近くで攻撃を受けた。

ランダル・シュライバー米国防次官補は、アジア諸国との議論は始まっていないとしながらも、イラク戦争など「過去にも(アジアの同盟国の)協力を得られたよい前例がある」と語る。

「中東のエネルギー資源への彼らの依存度を考えれば、同盟国の多くが利害を共有している」

一方、ワッサーはアジアの同盟国は中国の脅威への対応で手いっぱいで、センチネル計画に参加する可能性は低いと指摘。仮に参加したとしても、彼らの海軍能力は「未熟だ」と言う。

「彼らは自国の周辺で多くの懸念材料を抱えている。資源の一部を(太平洋地域の外に)移し、(中東まで)動かしたくはない」

From Foreign Policy Magazine

<2019年7月9日号掲載>


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ララ・セリグマン

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