イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイスラエル支援「中東におけるバイデン外交の転換点へ」
ニューズウィーク日本版 / 2024年4月23日 13時50分
エイミー・マッキノン(フォーリン・ポリシー誌国家安全・情報担当記者)
<イランのイスラエル攻撃の撃退に、ヨルダンやサウジなど湾岸諸国が協力した戦略的な理由とは? 中東での大展開に、バイデン外交の方向転換はあるか?>
長年にわたる「影の戦争」が、ついに直接攻撃になった。イランが4月13~14日、イスラエルに向けて300機以上のドローン(無人機)や複数のミサイルを発射。イスラエルの領土を標的にしたのは、これが初めてだ。
イスラエルが4月1日、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館を空爆したことへの報復だった今回の攻撃では、もう1つの前代未聞の出来事が起きた。アラブ諸国がイラン撃退に協力したのだ。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、ヨルダンはイランのドローンやミサイルを多数迎撃し、アメリカなどの戦闘機に領空使用を許可した。アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアはイランから得ていた攻撃情報を、アメリカやイスラエルと事前に共有したという。
パレスチナ自治区ガザで続く戦争は、中東各地でイスラエルへの怒りをかき立てている。それでも今回の出来事は、ふらつきながらも芽生え始めた「対イラン中東同盟」の最初の試金石になった。
「湾岸諸国の行動は国益を最優先する姿勢を維持していることの表れだ」と、複数の米政権で中東和平交渉に携わったアーロン・ミラーは指摘する。「重要なのは協力自体ではなく、協力があり得ない状況でそれが実現したことだ」
ガザでのイスラエル軍の焦土作戦や人道危機の悪化に、欧米がいら立ちを募らせるなか、イランの攻撃はイスラエルが直面する脅威に改めて注目を集めた。イスラエル政府はこれを機に、イランの孤立を深めようと動いている。
思惑どおりにいくかは、イランに対するイスラエルの反応次第だ。報道によれば、イスラエルは4月19日にイランへの攻撃を開始。中東の緊張がエスカレートし、全面戦争に発展する事態も考えられる。
アラブの現実主義ゆえ?
今回のアラブ諸国の協力を深読みしてはならないと、元米当局者はクギを刺す。現実主義の所産である可能性が高いからだ。「ヨルダンの行動は主に地域的計算に基づき、自国の領空保護が目的だ」と、米国防総省の元上級顧問ビラル・Y・サーブは語る。
サウジアラビアは自国の関与が目立たないようにしているようだ。サウジアラビア系のニュース専門衛星テレビ局アルアラビアは4月15日、匿名の情報提供者の発言として迎撃に参加したことを否定し、同国の微妙な立場が浮き彫りになった。
「ガザ戦争は終わっていない」と、ミラーは言う。「イランに敵対していると受け取られかねない連携を正式化することには、多くの国が慎重になるはずだ」
アメリカは1月、サウジアラビアとの防衛協定に向けた協議を再開した。協定の実現は、イスラエルとサウジアラビアの関係正常化を仲介しようとするジョー・バイデン米大統領の取り組みの大前提だ。
今回の出来事は、バイデン外交の転換点になるかもしれないと、オバマ政権でイスラエル・パレスチナ交渉特使上級顧問を務めたダビド・マコフスキーは話す。
「バイデン政権が(サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子と)新たな道を探っても驚きではない。『中東で大展開があった。この際、方向転換してはどうか?』と」
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