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新型核兵器もアジア配備も──INF後の米ロ軍拡競争が始まった

ニューズウィーク日本版 2019年9月9日 18時0分

<ミサイル軍拡競争はもう始まっている。ロシアはアメリカにまだない最新兵器の売却を打診、「最新兵器の売り込み」も>

9月初め、米軍が核搭載可能な中距離ミサイルの発射実験を行ったのと相前後して、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はアメリカに対し最新鋭兵器の売却を持ちかけたことを明らかにした。

米海軍は6日、「ミサイル発射実験を予定通り、4回にわたり行った」と発表した。カリフォルニア州サンディエゴ沖でオハイオ級潜水艦ネブラスカから潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)トライデントIIを、4日と6日にそれぞれ2回ずつ発射したという。ただし「世界で現在進行中の出来事への対応として行われたわけではいっさいない」としている。

その前日の5日、プーチンは東方経済フォーラム全体会合で、6月にドナルド・トランプ米大統領に対し、軍事大国同士「あらゆる点で釣り合いを取る」ために核ミサイルや超音速ミサイルなどロシアの最新型の武器を購入してはどうかともちかけたと述べた。プーチンによれば、米高官らは「すぐに同じようなものを自前で作れるようになる」と言って断ったという。

<参考記事>アメリカも抜いた?ロシア製最終兵器、最新の実力

ちなみに6日にも米高官が、ロシア製兵器の購入について似た発言を行っている。ロシア国営タス通信はあるトランプ政権高官の話としてこう伝えた。「アメリカにとって、ロシアから先進的なミサイル技術を購入する理由はほとんどない。ミサイル技術の安全な開発、実験、利用における競争で、アメリカはロシアを大きくリードしている」

最新鋭の兵器開発に意欲見せる両首脳

トライデントは潜水艦発射弾道ミサイルで、戦略爆撃機、大陸間弾道ミサイルと併せて各戦略3本柱全体の70%を占めている。トランプは昨年2月、トライデント向けの低出力の核弾頭W76の開発計画を含む新たな「核態勢の見直し(NPR)」を発表。核戦争の可能性を高めるのではと懸念を呼んだ。

プーチン政権はトランプ政権に対してくりかえし、この問題を提起してきた。一方でトランプ政権は、ロシアこそ以前から低出力の核兵器を研究してきたと批判している。両首脳とも、何らかの形で自国の核兵器の優位性を確立する決意は固い。NPRの発表から1カ月後、プーチンはいかなる既存の近代兵器や将来の防衛システムでも歯が立たないような新型ハイテク兵器の開発を明らかにした。

<参考記事>ロシア「撃ち落とせない極超音速ミサイル」を実戦配備へ

この新型ハイテク兵器には、ICBM(大陸間弾道ミサイル)のサルマートや極超音速滑空弾頭アバンガルド、極超音速空対地ミサイルのキンジャール、原子力巡航ミサイルのブレベストニク、水中ドローン(無人機)のポセイドンが含まれる。また、今年に入りプーチンは、極超音速潜水艦発射巡航ミサイル「ツィルコン」の実験を行っていることも明らかにした。



プーチンに言わせれば、新型兵器の開発は2002年にアメリカが弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約を離脱して以降の「軍拡競争」への対応として、そして東欧諸国にアメリカが配備したミサイル防衛システムへの対抗上、欠かせないものだった。トランプはミサイル防衛システムの構築をさらに進めると明らかにしているし、8月には冷戦期に結ばれたもう1つの軍縮条約、中距離核戦力(INF)全廃条約を離脱している。

アメリカに言わせれば、ロシアによる巡航ミサイル、ノバトル9M729の配備はINF条約違反だし、ロシアに言わせればルーマニアやポーランドのミサイル防衛システムにおいて攻撃用ミサイルに使われるのと同じ発射装置をアメリカが配備したことこそ条約違反だ。双方とも相手の主張を否定しているが、本誌の取材ではアメリカは8月下旬、この発射装置を使って巡航ミサイルの発射実験を行った(米国防総省はスペックが異なるとしている)。

プーチンは5日、アメリカが中距離ミサイルの配備を行わないなら、ロシアも配備を控える用意があるとの考えを示した。プーチンはまた、8月にアメリカが行った中距離ミサイルの発射実験を受けて、同様のミサイルの開発を命じたと述べた。

また、アジアへの地上発射型の中距離ミサイルの配備を検討しているとするマーク・エスパー米国防長官の発言にも、ロシア政府は警告で応じている。ちなみに日本の安倍晋三首相は5日、東方経済フォーラム全体会合の席上、アメリカからミサイル配備の打診は受けていないと発言しているし、韓国政府が8月に発表した2020~2024年国防中期計画にも配備案は含まれていない。

(翻訳:村井裕美)


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トム・オコナー

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