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共和党の大票田テキサスに民主党旋風が吹く?

ニューズウィーク日本版 2019年9月13日 17時30分

<共和党が推し進める企業寄りの政策が支える好景気を目当てに、白人の若いリベラル層が増えている>

伝統的に共和党寄りの「赤い州」として知られてきたテキサス州が、2020年の米大統領選では民主党支持の「青」に転じるかもしれない。同州の共和党や民主党系世論調査会社は、好景気に惹かれて移住してきた主として白人の有権者たちの存在がその背景にあるという。

<参考記事>露骨すぎる米共和党の民主党支持者差別(パックン)

リック・ペリー前知事など共和党の政治家たちは長年、テキサス州の経済が2008年の金融危機にも負けずに成長を遂げたことを「テキサスの奇跡」と自慢してきた。だがその奇跡の一部であるエネルギー産業とテック産業の好況が、これまで多かったキリスト教保守派ではなく、リベラル派の有権者を引きつけているのは皮肉なものだ。

左派寄りのシンクタンクや共和党のストラテジストたちはいずれも、2020年の選挙でテキサス州を「青」に変える有権者層がいるとすれば、それはヒスパニック系住民ではなく、若い白人のリベラル派だと指摘する。

リベラル系シンクタンク「アメリカ進歩センター」のルイ・テシェイラは、ブルームバーグのインタビューに対して「ヒスパニック系住民の増加が大きな注目を集めているが、問題はそこじゃない」と語った。「過去20年のテキサス州の変化を理解するには、白人の人口の推移にこそ目を向けるべきだ」

全米2位の大票田

テキサス州は、大統領選の勝利に必要となる大統領選挙人の数がカリフォルニア州に次いで2番目に多く、これまでに同州を制した民主党の大統領候補はジミー・カーター元大統領だけだ。だが近年は左傾化が進んでいる。長年共和党を支持してきた同州ウィリアムソン郡では、2018年の中間選挙の連邦上院選で、民主党のベト・オルーク候補の得票数が、共和党の現職テッド・クルーズよりも6000票以上多かった。

「仕事目当てで移住してきた人々の中には、共和党員でも保守派でもない人もいる」と、共和党の活動家であるナンシー・ラージは言う。「これまでの実績に安心してはいられない。戦わなければ」

ドナルド・トランプ大統領は2016年の大統領選の際、前述のウィリアムソン郡で民主党のヒラリー・クリントン候補より2万票以上多くの票を獲得。クリントンに9ポイントの得票差をつけてテキサス州を制し、今も同州の共和党員の70%の支持を得ている。

<参考記事>共和党はなぜトランプを見限らないのか

テキサス州の経済は、減税や企業の規制緩和、企業に有利な法制度改革といった企業寄りの政策に下支えされている。だが共和党によるこうした政策が生み出したエネルギー産業とテック産業の好況が、逆に幅広いリベラル派の大卒有権者たちをテキサス州に引きつけている。



「皮肉なことに、共和党が主力となって実現した自慢の好景気が一因となってテキサス州の人口構造が変化しており、それが今、共和党の影響力を弱体化させつつある」と、ヒューストン大学のブランドン・ロッティングハウス教授(政治科学)はブルームバーグに語った。

内国歳入庁(IRS)の統計によれば、テキサス州の住民の約40%が州外の出身で、うち半数以上が他州からの移住者だ。民主党の牙城であるカリフォルニア州、ニューヨーク州とイリノイ州の3州から、テキサス州への転入組が増えている。

そうした転入組すべてがリベラル派な訳ではない。テキサス州在住のヒスパニック系住民は、伝統的に他州のヒスパニック系よりも保守的だ。テキサス州の共和党員たちは長年、主にカトリック教徒の彼らに合わせて同性愛者の権利擁護や妊娠中絶に反対することで、ヒスパニック系住民にアピールしてきた。

だが複数のシンクタンクは、トランプが「肌が茶色い人々の悪口を言っている」ことが彼らの反発を招いていると指摘。それが一因となって、2018年の中間選挙ではヒスパニック系有権者の74%がオルークに票を投じたと見ている。

一部のアナリストは、主に大卒で若い白人の民主党支持者たちが他州から大量に移住してきているが、それでテキサス州が「赤(共和党支持)」から真の「青(民主党支持)」に変わる可能性は低く、むしろ同州は「(両党の支持が拮抗する)紫」になっていくだろうと指摘する。

「最終的に青になるというよりは、ずっと紫の状態を維持すると予想している。」とロッティングハウスは言う。「テキサス州は、激戦州になりそうだ」

(翻訳:森美歩)


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ベンジャミン・フィアナウ

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