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クリミアを守るためにはプーチンが手段を選ばない理由

ニューズウィーク日本版 2023年9月11日 17時17分

<プーチンはクリミア半島を支配し続けるためには核攻撃も含めて何でもやるだろうと、ウクライナ国防省の高官は警告した。なぜそこまで拘るのか>

【映像】クリミアとロシア結ぶ橋で爆発、3人死亡 供給路に打撃

ウクライナ国防情報局(GUR)のバディム・スキビツキー副局長は9日、ウクライナの首都キーウで開かれたヤルタ欧州戦略サミットで、クリミア半島はロシアの地域的な勢力拡大のカギを握っていると語った。一方、ウクライナにとってもクリミア半島の奪還は決して譲れない、と。

ロシアは現在、占領したドンバス地方東部とウクライナ南部、クリミア半島をロシアからの「陸の回廊」として、物資や兵員を運び込み、ウクライナ国内に42万3000人の軍隊を展開しているとスキビツキーは言う。

ウクライナ国土の20%は今もロシアに占領されているが、そのなかでもクリミア半島は特別な位置にある。「クリミア自治共和国はウクライナの一部だ」

2014年のロシア軍によるクリミア半島併合以来、「ロシアは半島を強力な軍事基地に変え、旧ソ連時代の軍事施設をすべて復活させた」。

反攻作戦の標的は陸の回廊

「ロシアはあらゆる手段を講じて、占領したヘルソン州、ザポリージャ州、クリミアなどの占領を維持している」と、スキビツキーは言う。そしてクリミアは、黒海を地理的に支配する位置にあり、それがロシアの戦力投射の拡大に役立っている。「クリミアはロシア軍が黒海一帯を完全に支配し、地中海方面まで軍事力を展開する役に立つ」

「シリアやアフリカ諸国でロシアが存在感を発揮できるのも、黒海におけるロシアのプレゼンスによるところが大きい。海外拠点に必要なものはすべてここから供給できる」と、スキビツキーは付け加えた。

ウクライナの反攻作戦は、ザポリージャからアゾフ海に向かって南下しようというものだ。これが成功すれば、クリミア半島とロシア西部を結ぶ陸路を断ち切れる。

陸の回廊は、ロシアが1年半の戦争で得た最大の成果のひとつだ。これを失うことは、ウラジーミル・プーチン大統領にとって深刻な政治的打撃となり、クリミアとウクライナ南部におけるプーチンの勢力を危険にさらすことになる。ウクライナがすでに数回攻撃しているクリミア大橋を破壊すれば、この問題は特に深刻になる。

「現在、ロシアはクリミア半島を積極的に利用して、ヘルソンとザポリージャの部隊に補給を行っている」と、スキビツキーは言う。「物資の供給、軍需品や人員の輸送はすべてクリミアを通っている。クリミアでは最近、新たに第18連合部隊が結成され、ウクライナの反攻を阻止するため、ザポリージャを拠点に活発に活動している」

 

もっとも、ロシア軍はひどい打撃を受けている。黒海艦隊も例外ではない。

昨年は黒海艦隊の旗艦のミサイル巡洋艦「モスクワ」がウクライナ製の地対艦巡航ミサイルで撃沈された。ロシアの軍艦は今も定期的に黒海海域からウクライナの都市に向けて巡航ミサイルを発射しているが、対艦ミサイルの射程内には入らないように注意している。

「ロシアはクリミアに兵士を集め、軍備を増強し、黒海一帯を支配するためにあらゆる手を尽くすはずだ」と彼は付け加えた。

ウクライナは、クリミアをはじめとするロシア占領地をすべて解放すると言ってきた。だが、クリミアはプーチンの新たな帝国主義で重要な位置を占めていることから、クリミアの支配が危うくなれば、核兵器の使用にもつながるのではないか、という懸念が強まっている。ロシアの核ドクトリンは、「国家の存立が危うくなったとき」には大量破壊兵器を使用する可能性を示唆している。

ドミトリー・メドベージェフ前ロシア大統領兼首相は、もはや閣僚ではないが、最近では最も声高なタカ派の一人だ。今年初め、クリミアが脅かされた場合、「核抑止の基本ドクトリンに規定されているものを含め、あらゆる防護手段を用いる」と発言している。

 


デービッド・ブレナン

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