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脅せば脅すほど台湾と韓国で「シンパ」が負ける......中国と北朝鮮が「不合理な恫喝」に走る訳

ニューズウィーク日本版 2024年1月31日 11時47分

<中国が台湾を、北朝鮮が韓国を脅せば脅すほど、それぞれ親中派、親北派が選挙で負ける現象が常態化している。なぜ中朝はこんな非合理的な選択をしてしまうのか>

台湾総統選挙で与党・民進党の頼清徳(ライ・チントー)が当選した。中国は以前から台湾の独立を目指す「完全なトラブルメーカー」だと警戒してきた。

とはいえ、今日の台湾における選挙で中国による激しい批判はむしろ、批判される候補者の側に人々を結集させ、その支持率を上げる効果があった、と言われる。中国が強硬な姿勢を見せれば見せるほど親中派候補者が不利になり、逆に台湾独立派に近い候補が有利になる、という皮肉なメカニズムをそこに見ることができる。

同様の現象は韓国でも見受けられる。得票率にして数㌽以下の差で勝負が決まる韓国の大統領選挙では、選挙戦最中の支持率の動きはわずかであっても時に決定的な意味を持つ。そして、その支持率に影響を与える要素の1つが北朝鮮の動きである。

北朝鮮が韓国に対して強硬な姿勢を取れば取るほど、これに対する警戒の必要性を説く保守派候補者の支持率が上がり、逆に北朝鮮との対話を主張する進歩派候補者の支持率が低下するという現象である。

事実、歴代の韓国大統領選挙では、この「北風」が大きく影響して保守派の候補者の勝利に貢献した、と言われる事例がいくつかある。

しかし、考えてみればおかしな話だ。韓国が民主化されたのは1987年で、それから8回も大統領選挙が行われている。このうち一度たりとも、北朝鮮の韓国に対する恫喝が北朝鮮に近い進歩派に有利に作用したことはない。台湾における総統直接選挙が初めて行われたのは96年で、こちらも8回目になるが、中国からの恫喝が中国に近い候補者の支持率向上に大きく貢献しているようには思われない。

なぜ、北朝鮮や中国はこのような非合理的な行動を繰り返すのだろうか。この点を、北朝鮮の政軍関係を専門にする聖学院大学の宮本悟教授は次のように説明する。

第1に、北朝鮮にせよ中国にせよ、韓国の保守派や台湾の独立勢力に対する批判は選挙時のみではなく、日常的に行われている、ということだ。重要なのは、むしろ選挙前になると韓国の保守派や台湾の独立派のメディアがこれを大きく報道するようになる現象であり、これにより北朝鮮や中国の恫喝があたかも通常より激しく行われているようにみえるのだという。

確かに韓国ではとりわけ近年、大統領選挙の年が近づくと保守紙が進歩紙に比べて2倍以上の頻度で北朝鮮の脅威について報道している、という数字もある。問題は中国や北朝鮮の側以上に台湾や韓国の側にもある、という見方はある程度的を射ている。

そもそも「民主主義と何か」を理解できない人々がいる

とはいえ、恫喝が逆効果しか持たないなら、選挙前にあえてこれを自制して融和姿勢を見せることはできないのか。これについても宮本教授は「難しい」と説明する。

北朝鮮や中国にとって韓国や台湾との軍事対立の可能性は常態化しており、相手の選挙に配慮して軍備増強や演習をやめることは難しい。そもそも北朝鮮や中国では外交当局者はともかく、高位の政治家や軍人に韓国や台湾社会が持つ民主主義のメカニズムは感覚的に理解し難い。だからこそ、彼らは一見不合理にみえる「選挙前の恫喝」を当たり前に行ってしまうのだ、と。

そして韓国では今年も、4月の国会議員選挙を前に同じことが繰り返されている。北朝鮮による「いつもの恫喝」を、韓国の保守メディアが大々的に扱い、北朝鮮に対して強硬な保守政権の必要性を強調する。与党の支持率は少しずつ上昇し、選挙はいつの間にか接戦になっている。

中国の「東風」も北朝鮮の「北風」も、北東アジアの緊張を高めるだけなのかもしれない。

北朝鮮が発射した戦略巡航ミサイルが目標を爆破した瞬間(朝鮮中央通信)



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