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生涯賃金から見える日本の学歴格差、男女格差、地域格差

ニューズウィーク日本版 2024年2月28日 14時20分

<大卒女性の生涯賃金は高卒男性より少なく、東京と沖縄では1億円近くの差がある>

2022年の総務省『就業構造基本調査』に、正規職員の年収分布が出ている。それをもとに20代前半の大卒男性正社員の年収中央値を計算すると306万円。同年齢の女性大卒正社員は283万円だ。この時点で20万円以上の差があるが、定年間際の50代後半では男性が758万円、女性が625万円と、133万円もの違いになる。

大卒は22歳から59歳まで38年間働くのだが、毎年の賃金を累積した「生涯賃金」で見ると、男女でとてつもない差になっていそうだ。生涯賃金を出すには、個人を入職から退職まで追跡し、各年齢時点での年収を累積しなければならないが、単年の調査データによる便法推計もできなくはない。

上記の『就業構造基本調査』から、大卒男性正社員の年収中央値を計算すると、20代前半が306万円、20代後半が398万円、30代前半が481万円、30代後半が554万円、40代前半が610万円、40代後半が672万円、50代前半が747万円、50代後半が758万円。これら全部を足すと4525万円。8つの時点の年収の合計値だが、これを4.75倍すれば38年間の年収合計の近似値になる。

これによると、大卒男性正社員の生涯賃金は2億1721万円と見積もられる。<表1>は同じやり方で、男女正社員の学歴別の生涯賃金を試算したものだ。

大卒男性は2億1721万円であるのに対し、大卒女性は1億7160万円。同じ大卒正社員でも、生涯賃金に4500万円以上の開きがある。退職金も含めれば、差はもっと大きくなるだろう。

学歴の差も大きい。高卒を100とすると、男性は大卒が126、大学院卒は149となる。女性は大卒が157、大学院卒は200と、男性よりも学歴差が大きい。高等教育進学の効用は、男性より女性で大きいと言えるかもしれない。

性別と学歴を絡めてみると、女性の生涯賃金は一段下の学歴の男性より低くなっている。大卒女性は高卒男性より低く(黄色)、院卒女性は大卒男性より低い(青色)。就いている職種の違いにもよるが、女性の場合、家事や育児等の負荷がかかるためでもあるだろう。スーツ姿の男女が陸上競技のスタートラインについているものの、女性のコースには家具や家事道具といった障害物が配置されているSDGsのポスターが話題になった。上記のデータは、不当なジェンダー格差の表れとも見るべきだ。

予想されることだが、地域による差もある。<表1>と同じやり方で、47都道府県別に正社員男女の生涯賃金を計算してみた。値が高い順に並べたランキングにし、上位10位と下位10位を取り出すと<表2>のようになる。

男性を見ると、東京の2億4136万円から沖縄の1億4880万円までの開きがある。この両端では、同じ男性正社員でも生涯賃金に1億円近くもの差が出る。経済学者エンリコ・モレッティの「年収は住むところで決まる」というテーゼを彷彿させる。

分布の性差も明白で、男性では沖縄を除く全県で1億5000万円を超えるが、女性でこのラインを超えるのは東京と神奈川しかない。地方の女性正社員の40年間の稼ぎの総額は1億1000万円ほど。1年あたりの年収は280万円ほどで、自活するのも容易でない。

地方では物価が安いというメリットがあるものの、収入が少ないというデメリットのほうが大きいように思える。子どもの大学の学費などは、全国どこでも同じだ。これも地方から人口が流出する要因で、都会の大学で多額の奨学金を借りた若者は、稼げない地元にUターンするのをためらう。まずはこうした生活格差を埋めないことには、地方創生も進みそうにない。

<資料:総務省『就業構造基本調査』(2022年)>

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舞田敏彦(教育社会学者)

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