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「潔白とは言ってない」──トランプ出馬を認めた米最高裁判断のウラを読む

ニューズウィーク日本版 2024年3月5日 14時47分

<トランプは議会襲撃事件についての事実上の潔白証明を求めていたが最高裁はその点には踏み込まなかった>

米連邦最高裁は3月4日、ドナルド・トランプ前米大統領の2024年米大統領選への立候補は可能との意見書を公表した。だがトランプにとってこれは、必ずしも起死回生のホームランとはいかない。

今回の判断は、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件への関与を理由にトランプの予備選立候補資格を認めなかったコロラド州最高裁の判断を覆すものだ。連邦最高裁の判事9人全員が「誰が大統領選挙に立候補できるかを個々の州が選ぶことはできない」という意見で一致した。

  

ただし、立候補の資格はく奪条項の提供範囲については、判事らの意見が分かれた。また判事らは、トランプが連邦議会襲撃事件に関与したかどうかの判断には(その機会があったにもかかわらず)踏み込まなかった。

バラク・オバマ元米政権下で倫理担当法律顧問やチェコ共和国駐在米大使などを歴任したノーム・アイゼンは本誌に対し、「連邦最高裁には、連邦議会襲撃に関するコロラド州裁判所の判決に直接対処し、(同じく立候補資格なしと判断した)メイン州とイリノイ州の判決も覆すという選択肢があったが、彼らはそれを行わなかった」と指摘した。「そのこと自体が力強いメッセージだ。これまで連邦議会襲撃について行われてきたあらゆる捜査がトランプの関与を認めてきたことを、今回の判断は暗に認めている」

「暴動関与」についての潔白証明はなし

法律の専門家たちは、連邦最高裁がトランプの連邦議会襲撃への関与について言及しなかったことに注目した。コロラド州最高裁の過半数の判事は、トランプ側の主張が本質的に、合衆国憲法修正第14条第3項(資格はく奪条項)はあらゆる官職にはあてはまるが「大統領だけは例外」と判断するよう求めるものだと感じていた。

元連邦検事のマイケル・マコーリフは本誌に対して、「連邦最高裁は今回の判断の中で、『暴動や反乱に関与した者』の定義や、コロラド州の裁判所がトランプを『暴動や反乱に関与した者』と事実認定したことについては異論をはさまなかった」と述べた。「これらの事実認定は存在しているが、連邦最高裁は今回、コロラド州という一州に合衆国憲法修正第14条第3項に基づいて資格はく奪を行う権限はない、という点のみについて判断を下した」

オバマ元米政権で訴訟長官代行を務めたニール・カティヤルも同意見だ。ただ今回の連邦最高裁の判断はトランプにとって勝利ではあるものの、全面勝利ではない。トランプが求めていた「暴動への関与」の否定はなく、これが将来的にトランプにとって不利に働く可能性があると指摘した。

カティヤルはX(旧ツイッター)への投稿の中で、「トランプは連邦最高裁への提出書類の中で、議事堂襲撃事件当日の自分の言動は平和的なものだったと主張していた」と述べた。「トランプは連邦最高裁に対して、暴動について自身の潔白を証明するよう求めていたが、連邦最高裁はそれを行わなかった。連邦最高裁はこの春に、トランプの免責特権の有無について審理を行うが、その判断の結果とタイミングによってはトランプの刑事裁判が行われる可能性がある」

トランプの弁護団は連邦最高裁への提出書類の中で、トランプは「暴動に関与しておらず」、「トランプ氏の当日の言葉は、平和で愛国的な抗議を呼びかけ、法と秩序を尊重するものだった」と主張していた。

弁護団は提出書類の中で、「2020年大統領選の結果へのトランプ氏の反応や、彼が2021年1月6日に行ったことは、『暴動や反乱』にはまったく当てはまらない。従って連邦最高裁は(コロラド州最高裁の)判決を覆すべきだ」と主張し、さらにこう続けている。「21年1月6日から3年が経過し、トランプ氏に対して執拗に捜査が続けられているものの、これまでトランプ氏を合衆国法典第18条2383項違反の罪に問おうとした検察官は一人もいない」

  

免責特権についても連邦最高裁が審理へ

トランプの立候補資格はく奪を目指して訴訟を起こしたコロラド州の有権者グループを支援した非営利団体「シティズンズ・フォー・エシックス」も、連邦最高裁がトランプの暴動関与の有無についての判断に踏み込まなかったことを強調した。

同団体はXに「重要なことに、連邦最高裁は暴動への関与でトランプは潔白だと判断しなかった。彼らにはその機会があったが、そうしないことを選択したのだ」と投稿した。「連邦最高裁は法律上、トランプの名前を投票用紙に記載することを可能にしたが、これはトランプにとってまったく勝利ではない。この問題を実質的に検証した全ての裁判所または意思決定機関が、1月6日の出来事が暴動・反乱であり、トランプがそれを扇動したと結論づけている」

今回、連邦最高裁がトランプの立候補資格について迅速に判断を示したことを受けて、法律の専門家たちは、免責特権の問題についても最高裁が今回同様に迅速に対処することを求めている。トランプは自らが前大統領であることを理由に、刑事責任を問われないはずだと免責特権を主張しており、連邦最高裁は2月28日、これについて審理を行うと発表した。

アイゼンは「最高裁は(免責特権の審理にも)今回と同じ基準を適用すべきだ」と述べ、さらにこう続けた。「今回、連邦最高裁がスーパー・チューズデーの前夜にこの判断を下したのは、候補者が暴動・反乱に関与した者かどうか、有権者には知る権利があると認識しているからだ。免責特権の審理にも、それと同じ主張が当てはまる。米国民には、ドナルド・トランプが大統領としての権限を乱用したのかどうかを知る権利がある」

カティヤルは、連邦最高裁が25日間の審理で今回の判断を発表したことを指摘し、免責特権の問題について判断を下すのにそれ以上の時間がかかれば「一貫性に大いに欠ける」ことになると主張した。

  

キャサリン・ファン

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