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ロシア黒海艦隊の哨戒艇「セルゲイ・コトフ」を撃沈したウクライナの無人水上艇「マグラV5」

ニューズウィーク日本版 2024年3月7日 16時15分

<1艇およそ25万ドルの安価で小型な水上ドローンが約6500万ドルの大型艦船を破壊する、ウクライナらしい強さの象徴>

ウクライナ軍は3月5日、国産の安価なドローンを使ってロシア海軍黒海艦隊の哨戒艇を破壊したと明らかにした。

ウクライナの当局者らによれば、黒海艦隊の哨戒艇「セルゲイ・コトフ」の攻撃に使われたのは、ウクライナ製の無人水上艇(水上ドローン)「マグラV5」だ。マグラV5の製造コストは1艇あたり約25万ドル。一方のセルゲイ・コトフの建造には約6500万ドルもかかるという。

ロシアの侵攻以来2年超で、ウクライナ軍が破壊したロシア軍の艦船は26隻になるとウクライナは主張する(オランダのオープンソース調査会社Oryxによれば、セルゲイ・コトフで22隻目)。マグラV5も何度か、ロシア艦船の攻撃に成功している。

「マグラ(MAGURA)」は「海上自律警備無人ロボット装置」の略。ウクライナの英字紙「キーウ・ポスト」によれば、「マグラ」はスラブ民族の神話に登場する人物の名前でもあると伝えた。「雷神ペルーンの娘マグラは雲の乙女で、美しく、翼があり、好戦的。多くの人にとって、まさにこの水上ドローンを象徴している」

キーウ・ポストはまた、5日にX(旧ツイッター)のアカウントに、当初テレグラム上で共有されたマグラV5の写真を投稿した。

■【画像】マグラV5の実物写真

AP通信は4日付の記事の中で、マグラについて「ジェームズ・ボンドの映画に登場しても場違いではないだろう」と説明。詳しい構造も紹介しており、それによればマグラは全長約5.5メートル、重さ約1000キログラム、航続距離は約800キロメートルで、電池寿命は60時間。さらに「オペレーターに随時、映像を送信することもできる」という。

キーウ・ポストによれば、マグラの成功の秘訣は、「群れ」で襲う戦法を可能にした点にあるという。群でありながら、一隻一隻がそれぞれの使命を持っている。例えば先頭のマグラの標的がエンジンだとすれば、次の2隻は船腹に突っ込む。穴が開けられたら、後続がその中に突っ込む、という具合だ。

大型揚陸艦も破壊

ウクライナ軍は、マグラV5は監視、偵察、パトロール、捜索救助、機雷撤去をはじめとするさまざまな任務をこなすことができ、戦闘任務に使われることもあるとしている。

マグラは2023年のどこかで戦闘に投入されたとみられる。最初に注目された任務の一つが11月で、クリミア半島西部にあるロシア海軍の基地に停泊していたセルナ型の小型揚陸艇1隻とアクラ型の小型揚陸艇1隻を破壊した。

ウクライナ国防省情報総局のキーロ・ブダノフ局長によれば、2月1日にクリミアで行った攻撃でも、複数のマグラによりロシアのミサイル搭載艦「イワノベツ」を破壊したという。ウクライナ国防省はイワノベツ1隻の価値を約6000万~7000万ドルと推定している。

2月14日にクリミア近郊のアルプカ近海でロシアの大型揚陸艦「ツェーザリ・クニコフ」を撃沈した際の攻撃にも、マグラV5が使用されたとみられる。

英国防省はこのツェーザリ・クニコフ撃沈を受けて、ロシア黒海艦隊が「さらなる攻撃に対して脆弱」になったと宣言。「ウクライナ側の創意工夫が、ロシアが黒海西部で自由に作戦展開を行うのを阻み、ウクライナが海上でロシアから勢いを奪うのを可能にした」と述べた。

ブダノフは最近、ウクライナのメディア「ウクラインスカ・プラウダ」に対して、マグラ・ドローンは2014年にロシアに一方的に併合されたクリミアを奪還する目的を果たすための、パズルの一片にすぎないと語った。

「マグラ・ドローンは、ロシアに占領されているクリミア自治共和国から黒海艦隊を追放する手段の一つだ」と彼は述べた。

【画像】マグラ・ドローンの実物写真
Under #KyryloBudanov's stewardship, #Ukraine's military #intelligence agency has gained a reputation for audaciousness and thinking outside the box - the development of the sea drone exemplifies this.https://t.co/AtKdK0WUqw— KyivPost (@KyivPost) March 6, 2024

【動画】作戦中のマグラV5

【動画】マグラV5の使用と哲学



ジョン・ジャクソン

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