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優秀な人にばかり「仕事が集中」してしまう...この難問は「仕事の任せ方」で解決できた!

ニューズウィーク日本版 2024年3月19日 19時28分

<著書の『任せるコツ』が、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」マネジメント部門賞を受賞した山本渉さんにインタビュー>

「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」でマネジメント部門賞に選ばれた『任せるコツ』(すばる舎、以下「本書」)。

著者の山本渉さんは、国内最大手のマーケティング会社のジェネラルマネージャー兼部長を束ねる統括ディレクターとして、年間100近いプロジェクトをメンバーに依頼してきました。

受賞を記念して、山本さんに「メンバーへの任せ方」のポイントをうかがいました。(※この記事は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」からの転載です)

出版後、チーム内で流行った「あるフレーズ」とは?

──マネジメント部門賞受賞、おめでとうございます! まずは感想をお聞かせください。

受賞の一報をいただいて、とにかく驚きました。「うれしい!」よりも「本当ですか?」が先に出たくらいです。「読者が選ぶビジネス書グランプリ」の受賞者は著名な方が多い印象だったので、まさか自分が、と。

最初の驚きが落ち着いた後、気になったのは「どなたが票を投じてくれたんだろう」でした。

映画監督や映画俳優なら、映画館に行けば、作品を楽しんでいる人の表情を見ることができます。一方、本の場合は読者の顔が見えません。しばしば書店に行って、『任せるコツ』の近くで張り込みをしましたが、手に取ってくれる人を見かける機会になかなか恵まれなくて(笑)。

今回の受賞は、読者の方々が投票してくださった結果ですよね。お一人おひとりにお礼を言いに行きたい気持ちです。

『任せるコツ』
 著者:山本渉
 出版社:すばる舎
 要約を読む

──出版の経緯を教えてください。

自分自身もそうですし、周囲にも「任せ方」で困っている人が多くいたので、任せ方のコツをまとめた本を書けたらと考えていました。

出版のきっかけとなったのは、出版元であるすばる舎とTSUTAYA、そしてbizplayが共催する新人賞「第1回 日本ビジネス書 新人賞」に企画書を応募し、TSUTAYA賞をいただいたことです。受賞後、すばる舎とともに執筆を進めました。

TSUTAYA賞は出版前の賞、今回の賞は出版後の賞。どちらもいただけてうれしいです。

──本書の出版後、印象的な反響はありましたか。

SNSでは、経営者の方が「この本をマネジャーに配った」と書いてくださっているのをよく見かけます。経営層以外では「もっと早く読めばよかった」「これでメンバーとの関係が変わりそうです」といった声が多いように思います。こうした感想が一番うれしいですね。

一緒に仕事をしているメンバーだと、まだ役職に就いていない若い人たちも、チームやプロジェクトのリーダーになった際に実践してくれています。

また、身近な後輩たちからは意外な反応がありました。

本書で上手な断り方として紹介している「スピーディーに返信する」と「魔法の言葉 “またお声がけください” 」を気に入ってくれたようです。後輩たちに何かを頼むと即座に「またお声がけください」と返信がくるようになりました(笑)。

1on1で本音を引き出す「三談論法の法則」

──本書で提示されていた「本書を読めば(任せることは)必ずできるようになります。ただ任すだけでなく、相手を成長させて感謝される任せ方ができるようになります」というメッセージが印象的でした。

本書の副題は「自分も相手もラクになる正しい “丸投げ” 」ですが、ただ丸投げするだけだと、ブラックな上司になってしまいます。そうではなくて「相手のためになる丸投げをしよう」というのが、本書のメインメッセージです。

細かいポイントはさまざま書いていますが、任せる上でもっとも重要なのは「メンバーと真摯に向き合い、見返りを求めず与える」ということ。相手をしっかり思いやることが何より大切なのです。

もちろん、最初から相手のためだけを思って依頼しなければならないわけではありません。「あまりにも忙しいから、誰かに任せたい」から始めてもいいでしょう。でも、実行するときには「どう相手の役に立つのか」「相手に十分なキャパシティはあるか」を考えたいものです。

──本書では、頼み方の大前提として、意欲創出・目的の明確化・欲求充足・選択肢の提示・負担の配慮の5つを挙げていらっしゃいました。意欲創出(相手がやりたいと思える文脈になっているか)と「欲求充足」(利己的都合ではなく相手にメリットがあるか)は、相手のことを深く理解する必要があり、特に難しそうに思えます。

相手にうまく任せるためには、普段からコミュニケーションを取って「相手のやりたいこと」や「本人は気づいていないけれど他の人より得意なこと」を見つけておきたいものです。この2つにフィットする仕事を任せられれば、本人にとってステップアップのきっかけになりますし、成果もより良いものとなるでしょう。

ここでポイントになるのは傾聴力です。相手を知るために、とにかく聞いて、聞いて、聞くこと。徹底的に聞き手にまわり、人となりを把握するのです。

もっとも有効なのは1on1(1対1で行う面談)でしょう。1on1では、重要度が高くて緊急度が低い話、つまり「この先どんな仕事がしたいか」「2~3年後どうなりたいか」「長期の目標は?」「業務上の悩みや不安」などを引き出します。

ただ、いきなりこの領域を聞き出すのはハードルが高いので、「好きな食べ物は?」「休日の過ごし方は?」「一番安らぐときは?」などと答えやすい質問からはじめて、徐々に核心に近づいていくことをおすすめします。

コツは「重要度も緊急度も低い話=雑談と冗談」からスタートして、重要度が高くて緊急度が低い話に持っていくことです。本書では雑談・冗談→相談の進め方を「三談論法の法則」と名づけました。

私自身、話すのが得意なタイプではありません。だからこそ「聞くこと」を大切にしています。相手がぽろっと言ってくれたことを深掘りしていくと、徐々にビジネスの話に発展したりしますから。

相手はどう思っているのか。どんなことをしたいのか。何をして成功したのか、あるいは失敗したのか。こうした問いへの答えが見つかっていないなら、どんどん質問して引き出していきましょう。

「優秀な人に仕事が集中」問題を解決するには?

──どの組織でも優秀な人に仕事が集中しがちだと思います。任せ方の観点から、こういった組織やマネジャーへのアドバイスをいただけますか。

どうしてもパフォーマンスや評判によって仕事量の偏りが出てきてしまいますよね。

過去の経験から言うと、ただ優秀な人ではなく、意欲がある人や適性がある人に任せるのがおすすめです。

優秀な人はきっと、どんな仕事を依頼しても高いパフォーマンスを上げてくれるでしょう。でもあえて、ずば抜けて優秀ではなくても、意欲や適性がある人にチャレンジングな仕事を任せてみるのです。思いきって任せてみると、相手はどんどん成長していくはずです。

──同様に、ポジティブに受け入れてくれる人に仕事が集中し、仕事への姿勢がネガティブな人、やる気が見えない人には仕事を任せにくい......ということもありそうです。

そうですね。その場合は、やる気がない人はなぜやる気がないのか、その原因を探ってみるといいと思います。

本書では「モチベーションを下げる原因10パターン」として、「やりたい仕事ではない」「向いている仕事ではない」「期待されていない」などを挙げ、原因ごとの対応策を提案しました。

また、やる気がないように見える人は、単純に他の仕事が忙しすぎるだけかもしれません。その場合はサポート役をつけるという対応も考えられるでしょう。

単純に仕事の楽しさを実感していない人には、仕事を思いっきり楽しんでいる人と一緒のチームにして、仕事の楽しさを知ってもらってはどうでしょう。成功体験ができると、のびのび働いてくれるようになるかもしれません。

やる気がある人が増えると、そのやる気は組織の中に伝染していきます。逆に、やる気のない人がいると、そのやる気のなさが増殖し、組織の雰囲気が悪化するもの。一人ずつ、やる気を伝染させていくといいのではないでしょうか。

──最後に、本書をどんな人に読んでほしいですか。想定読者層にメッセージをいただけますと幸いです。

執筆時に想定していたのは「マネジャーになったばかりの会社員」でした。ですが出版してみると、マネジャー経験を問わず、また会社員だけではなくアルバイトスタッフを抱えるショップの店長さんなどにも読んでもらえているようで、意外と幅広い層に受け入れられている印象です。

任せるコツは、ビジネスに限らず、さまざまな側面で役立つものです。「配偶者にもっと家事をやってほしい」「PTAやマンション理事の会長を引き受けてしまった」「結婚式の2次会の幹事になって、いろいろな人を巻き込まないといけない」など、プライベートでもチームで動く機会は多々あるでしょう。

手に取っていただけたら、ぜひSNSなどで感想を教えてください。褒め言葉だけでなく「ここは納得いかなかった」「これは特殊な会社でしか使えないのでは?」といった指摘もぜひ聞いてみたいです。

山本渉(やまもと わたる)

引きこもりを経験し、高校を中退後アメリカに留学。大学でマーケティングとエンターテインメントを学び卒業。帰国後、国内最大手のマーケティング会社に入社。プレイヤーとして結果を残し、30代でマネージャーに任命され数多くの失敗を経験する。チームメンバーの話をとにかく訊いて深く理解し、最後はメンバーを信じて完全に任せることでメンバーも組織全体も成長し活性化していく。

現在はジェネラルマネージャー兼部長を束ねる統括ディレクターとして、小さなプロジェクトから100億円を超える大型案件まで、年間100近いプロジェクトをメンバーに依頼している。

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flier編集部

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