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イスラエルにもハマスにも「停戦の意欲」なし...そこで不可欠となる、和平の「4条件」

ニューズウィーク日本版 2024年3月15日 18時0分

<かたくなに合意を拒むイスラエルとハマス。和平交渉を前進させるには、周辺国の妥協が欠かせない>

米大統領ジョー・バイデンに頭痛の種は尽きない。国内での人気は一向に上がらず、ウクライナ支援では議会の賛同を得られず、ガザ戦争の終結に向けた交渉も思うように進まない。イスラム教徒の聖なる断食月ラマダンが始まる前に停戦合意を取り付けたかったが、駄目だった。

いや、努力が足りないとは言うまい。アメリカやエジプト、カタールやサウジアラビアの外交官は懸命に根回しをした。しかし、そもそも戦争の当事者(イスラエルとハマス)に戦闘停止の意欲がない。なぜか。この戦争には、双方にとって死活的に重要な利害が絡んでいるからだ。

イスラエルはハマスを解体するか、少なくともその幹部をガザ地区から追放しない限り、この戦争をやめない。一方のハマスはガザを死守する覚悟であり、先にイスラエルが戦闘を停止して軍隊を引かない限り、人質の全員を解放するつもりはない。

つまり、どう見ても両者の立場は相いれない。

イスラエル側の急先鋒は首相のベンヤミン・ネタニヤフだが、強硬なのは彼だけではない。挙国一致の戦時内閣に加わった前国防相のベニー・ガンツ(ネタニヤフの最大の政敵である)も同様で、ガザ地区南部の都市ラファへの地上侵攻も支持している。

第三者の関与が不可欠

1948年のイスラエル建国以来、度重なる紛争を仲介し、停戦や和解を演出し、時に押し付けてきたのは第三国だった。具体的にはアメリカと(エジプトやシリアに影響力のあった時代の)ロシア、そして(今よりも権威があって強力な平和維持部隊を出せた時代の)国連だ。今回も誰かが、今まで以上に本腰を入れて介入しない限り、状況は打開できないだろう。

3月初めにネタニヤフの許可なく訪米したガンツは、安全保障担当の大統領補佐官ジェイク・サリバンや副大統領のカマラ・ハリス、国防長官のロイド・オースティン、さらに親イスラエルの有力議員たちとも会談したが、耳が痛くなるほど苦言を聞かされた。

ガンツの勝手な訪米にネタニヤフ(もともとバイデンとの相性は悪い)は激怒したと伝えられるが、結果的には助けられたのではないか。おかげでアメリカの本音を聞けたからだ。

もっと人道支援物資の搬入を許し、民間人の犠牲を減らすようにしないと、最大の支援国であるアメリカに見放されかねない。そういう懸念を、中道派のガンツは右派で固めた戦時内閣に率直に伝えたはずだ。

南部のラファで食料を受け取るために集まった住民 IBRAHEEM ABU MUSTAFAーREUTERS

ただし、現段階でバイデン政権がイスラエル批判の姿勢を強めているとは言えない。

副大統領のハリスがバイデンよりも「強い口調」で「即時停戦」を求めたという報道もあるが、それは違う。確かにハリスは「直ちに少なくとも6週間の停戦」を求めたが、最初にその提案をしたのはイスラエル側であり、「交渉に応じる責任はハマス側にある」とも彼女は明言している。

しかし、今後はイスラエルへの圧力を強める局面もありそうだ。ネタニヤフはガザ地区を今後10年ほど、イスラエル軍の管理下に置く意向を表明しているが、そんなことは誰も──周辺諸国もアメリカも──望んでいない。

実際、バイデン政権はイスラエルの自衛権を認めつつも、「過剰な」報復は控えるよう圧力をかけてきた。一方、周辺のアラブ諸国がハマスに自制を求める気配はない。

そもそもスンニ派の大国エジプトやサウジアラビアはパレスチナ人の運命に無関心で、ハマスのような過激派には嫌悪感すら抱いていた。バーレーンやアラブ首長国連邦も同様、パレスチナ問題には目をつぶってもイスラエルとの「関係正常化」を目指してきた。全ては共通の敵であるシーア派の大国イランに対抗するためだった。

しかし今回の戦争で思惑が外れた。とりわけカタールの立ち位置は微妙だ。この国は一貫して、絶妙なバランス感覚で生きてきた。欧米の石油会社を受け入れ、米軍の基地も受け入れているが、ハマスに対する最大の支援国でもある。武器や資金を与え、ハマス政治部の指導者に豪奢な邸宅を用意してもいる。

対してバイデン政権が望むのは、停戦が6週間を超えて続き、1人でも多くの人質が解放され、もっと多くの人道支援物資が運び込まれ、さらにパレスチナ問題の恒久的な解決につながるような機運が生まれることだ。

だが今のところ、その可能性は低い。イスラエル紙ハーレツによれば停戦交渉は「決裂寸前」だ。

ハマスは完全な停戦とイスラエル軍の撤退を求め、南部への退避を強いられたガザ地区住民が北部に戻れることを人質解放の条件としている。とてもイスラエル側ののめる条件ではない。軍隊を引けばハマスの戦闘員は堂々と北部に戻るだろうし、人質が解放される保証もない。

2国家共存に踏み込め

どうすればこの戦争を終わらせられるか。最低限、次の4つが必要だろう。

まず、カタールがハマスへの支援をやめる。必要なら、ガザ地区の放棄を条件にハマス軍事部門の幹部らに安住の地を与えてもいい。

次に、サウジアラビアやエジプトなどのスンニ派諸国が支援してガザ地区を再建し、もっと穏健な勢力に統治させること(パレスチナ自治政府に委ねるという提案もあるが、それだけでは足りない)。

その次は、イスラエル政府がパレスチナ国家の建設に同意すると表明し、その方向で何らかの措置を取ること。そうしないとサウジアラビアも動けない。かつてのサウジは2国家共存に向けた「不可逆的」な措置を要求していたが、今は取り下げている。しかしネタニヤフは、そうした声明を出すことさえもともと拒んでいる。

そして最後に、アメリカが(イスラエルだけでなく)全ての当事者に対して、ある種の後見人の役割を果たす必要がある。

今回の戦争が始まる寸前まで、アメリカは水面下でイスラエルとサウジアラビアの関係正常化交渉を進めていた。その時点でサウジが求めていたのは、集団安全保障体制の確立と核技術の供与だ。

当時は、そこまでは踏み込めないという意見があった。筆者もそう思っていた。

しかし状況が変わった。この戦争を終わらせて平和をもたらすには、そこまで踏み込む必要があるかもしれない。さもないと、この戦争は中東全域に拡大しかねない。

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フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

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