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頭のいい人=学歴やIQが高い、ではない...「頭のよさは他者が決める」時代に、最も大事な能力とは?

ニューズウィーク日本版 2024年3月21日 11時20分

<仕事の難易度が上がり、「自己完結」の仕事がほぼなくなった現代における頭のよさは、人間関係の中でできる>

読者が選ぶビジネス書グランプリ2024でビジネス実務部門賞を受賞したのは、『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社、以下「本書」)。

著者は、ティネクト株式会社代表取締役を務め、累計1億2000万PVを誇るビジネスメディア「Books&Apps」を手がける安達裕哉さんです。

コンサルタントとしての22年間で得た知見を、7つの黄金法則と5つの思考法に凝縮したのが本書です。48万部突破の大ヒットとなった理由とは? 安達さんの「人生に影響を与えた本」についてもお聞きします。※グロービス経営大学院の教員である米良克美さんから安達さんへのインタビューを再構成しています。(※この記事は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」からの転載です)

この20年で「自己完結」の仕事がほぼなくなった

──ビジネス実務部門賞受賞、おめでとうございます! まずは感想をお聞かせください。

知らせを聞いたとき、とても光栄に思いました。本書の「7つの黄金法則」は、私がコンサルティング会社に勤めていた当時に部署全体で徹底していたこと。中小企業の社長と話す際に実践していたことが評価されて、いろいろな方に読まれたのは驚きでしたし、とても嬉しいですね。

──本書がさまざまな立場の方に刺さった理由は何だとお考えですか。

まずビジネスの世界では、ここ20年で仕事の難易度が上がったことが大きいと考えています。知識労働が増えるなか、ほとんどの仕事が一人では完結せず、人との連携や協働によって成り立つものになった。また、押しが強い一方的なコミュニケーションをとっていると、職場ではパワハラ、プライベートではモラハラといわれるようになりました。

こうした背景から、人の話を聞いて理解する必要性が高まっています。だからこそ、「話す前に何を考えるか」という本書のテーマに、幅広い方が興味をもったのではないでしょうか。

──「はじめに」では、“読み返さなくていい本を目指した” と書かれていたのが印象的でした。

このフレーズは、本書の編集者である淡路勇介さんが考えたものです。何かを「知っている」と「実践できている」には、かなり大きなひらきがあります。私がビジネスの文章を書くときに大事にしているのは、内容の「わかりやすさ」だけでなく「実現しやすさ」。本書も、一度読んだだけでも取り組めるかどうかを重視しました。

『頭のいい人が話す前に考えていること』
 著者:安達裕哉
 出版社:ダイヤモンド社
 要約を読む

頭のよさは、「人間関係の中」にできるもの

──改めて、「頭のいい人」とはズバリどんな人だとお考えですか。

従来は、学歴があるとかIQが高いとか、自己完結できる定義でした。ですが、編集者の淡路さんと話すなかで、「頭のよさは、人間関係の中でできるもので、 人の間にある」という結論にたどり着きました。

これは人間関係論を専門とする大学教授から聞いたお話とも符合しました。人間関係の悩みも、個々人の中にあるのではなく、人と人とのやりとりの間に生じるものですよね。同様に、頭のよさも自分と他者とのやりとりのなかで見出され、他者が自分のことをどう思っているかで決まっていく。この根本的なコンセプトについて、本書では、より伝わりやすいように「頭のよさは他者が決める」と表現しました。

──本書では、「客観視」「整理」「傾聴」「質問」「言語化」という5つの思考法が解説されています。仕事で成果を出し続けたいと願う20、30代のビジネスパーソンにとって特に大事な観点を1つ選ぶとしたらどれでしょうか。

一番大事なのは「傾聴」だと考えています。質問と言語化は難しいのですが、傾聴ができてはじめて行えるもの。そして客観視と整理は傾聴のためにあるといっていいでしょう。

「頭のよさは他者が決める」ということは、他者から「この人は自分の役に立つことをしてくれる、貢献してくれる」と思われることが第一条件になります。となると、相手に役立つことが何なのかを理解しないといけないので、傾聴が大事になる。マーケティングも同様に、クライアント企業のいうことを聞かないといけない。だからマーケティングは「会社版の傾聴」みたいなものなんです。

──傾聴力を上げるための秘訣は何でしょうか。

話を聞くときに、「次に尋ねる質問を考えない」ことですね。まずは、相手の話に集中してメモをとって理解していく。そして、相手が話し終えてから「この状況でさらに理解しないといけないことは何か」と、次の質問を考えます。会話中に沈黙するのは勇気がいりますが、途中で「間」をあけて沈黙してもいいんです。

相手の語る課題を、うのみにしてはいけない

──「7つの黄金法則」では、お客様や上司などから「頭がいい」という信頼を得る方法についてふれられています。なかでも組織を率いるリーダーが特に重視するとよいポイントはありますか。

基本的にリーダーもメンバーも信頼を得る方法は変わりません。ただ、リーダーは利害関係者が多いため、考える範囲が広くなるんですね。ドラッカーも、マネジメントにおいて「社員(部下)をマーケティングしなさい」といったことを語っています。メンバーのニーズや課題の本質は何なのかを常に考えるという大原則は普遍的なものです。

実は、本人の言葉と本来の課題が違うケースも往々にしてあります。私自身、「経営者本人の語る課題をうのみにするな」と上司から何度もいわれました。

たとえば、社長が「うちの課題は人材育成なんだよ」と話していても、すぐに信じないこと。「では人材育成の施策の現状はどうですか」と、実際の行動について深掘りしてみるんです。そこで育成に検討のリソースや予算をほとんど割いていないようなら、その社長は人材育成をそこまで課題と捉えておらず、真の課題は別のところにある可能性が高いのです。

個人でも、「起業したい」と語っているのに会社をやめずに何年も起業準備中の人がいたらどうか。それは、本心としては「起業準備していることをほめてほしい」だけかもしれません。

このように、相手の言葉を額面通り受けとるのではなく、本当の課題や思いを汲みとるところも「傾聴力」に含まれると考えています。

日々の「面白いこと」を忘れないように、言葉にしたい

──安達さんは、書籍、講演、WEBメディアを通じて、ビジネスパーソンにとって役立ち、実践しやすい知恵を発信し続けています。その背景にある想いは何でしょうか。

自分で文章を書くようになったのは2013年のこと。「Books&Apps」で発信しはじめた当初の目的は、マーケティング会社ティネクトを立ち上げたばかりで、その引き合いをいただくためでした。

最初はきつかったのですが、2年ほど続けていると書くのが楽しくなってきて。いまは息抜きのようになっています。人とお会いしたり本を読んだりするなかで、面白い学びはいっぱいありますよね。それを忘れないようにしたいという気持ちが強く、自分なりに咀嚼してアウトプットしているんです。それを楽しみにしてくださる読者の方々がいるのはありがたいですし、それも継続の後押しになっています。

事業計画をつくるなら「ハードSF」を読め

──安達さんの人生観やキャリアに影響を与えた本は何でしたか。

ドラッカーの著作が人生に与えた影響は大きいですね。特に『マネジメント[エッセンシャル版]』は何度読み返したかわからないほど。

ドラッカーの本は、その立場に立つと中身がよくわかる本です。学生時代には何をいっているのかわからなかったのですが、社会人1、2年目で読み直すと深く理解できて、「自分のために書いてくれたんじゃないかな」と錯覚するほどでした。ドラッカーの主要著作をほぼすべて翻訳された上田惇生さんの日本語訳がわかりやすいので、そのおかげでもあると思います。

あとは、SF小説が大好きです。事業計画をつくるなら絶対読んだほうがいいと思っています。特にハードSFは、事業計画よりもずっと先のことまで、「こういう技術が実現したら世の中で何が起きるのか」というのを描き出しています。これほど未来を精緻に予測したものはあまりないので、勉強になります。

なかでも、アーサー・C・クラークの長編小説『幼年期の終り』は印象に残った一冊です。テーマは、宇宙の秩序のために百数十年間も「飼育」される人類と、変貌していく地球の姿なのですが、想像もつかない方向へ展開していきます。

また、安部公房の『第四間氷期』も、人類の進化が驚異的な解像度で描かれていて面白い。その後は安部公房にハマって全作品を読みました。ハードSFの小説は「価値観の変容」について精緻に表現されていて、それが一番面白いんですよ。

──最後に、これから挑戦したいことについて教えてください。

いまちょうど進行中なのが、生成AI専門の会社の事業です。2023年7月、中高時代の知人のファンドに出資してもらってワークワンダースという会社を立ち上げました。昨年から約90社にインタビューしたところ、いま一番ニーズがあるのがチャットボットでした。ChatGPTなどの生成AIが、チャット形式で質問に回答してくれる仕組みですね。これは、その企業の営業提案書や議事録などを読み込ませておくことによって実現でき、営業のロールプレイやECサイトの問い合わせ、M&Aの意思決定プロセスの事前処理など、実に多様なシーンでの活用が想定されています。

また、元電通のコピーライター梅田悟司さんと一緒に、文章生成ツールを開発しています。あるプロダクトについてペルソナを生成し、いくつかのキーワードを入れると、それをもとにキャッチコピーやネーミング、ランディングページ、広告の文言まで、高いレベルで一気通貫してつくれるツールです。

こうした生成AIを活用したサービスとともに、コンサルティングや研修を提供し、企業の経営課題解決に寄与していきたいと考えています。

安達裕哉(あだち ゆうや)

ティネクト株式会社 代表取締役

1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、理系研究職の道を諦め、給料が少し高いという理由でデロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。また、個人ブログとして始めた「Books&Apps」が “本質的でためになる” と話題になり、今では累計1億2000万PVを誇る知る人ぞ知るビジネスメディアに。

Twitter:@Books_Apps

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flier編集部

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