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大谷出場のMLBソウルシリーズ開催は韓国企業COUPANGによる「仁義なき韓中ネット通販戦争」の恩恵?

ニューズウィーク日本版 2024年3月21日 18時37分

<MLBソウルシリーズを主催し独占中継する「COUPANG」とは?>

チケットの争奪戦などさまざまな話題を提供しているMLBワールドツアー・ソウル・シリーズ。会場となった高尺スカイドームには、スポンサーとなった日本や韓国の企業のロゴが掲載されているが、なかでも目に付くのは「coupang play」の文字だ。

このcoupang play、韓国のネット通販企業COUPANG(以下、クーパン)の運営する動画配信サービスだ。月4990ウォン(約570円)のクーパンの有料会員サービス「ワウメンバーシップ」に登録するとネット通販の翌日配送が無料になり、このcoupang playやクーパンのデリバリーサービス「クーパンイーツ」が無料で利用できる。日本でいえばアマゾン・プライムとウーバー・イーツが合体したようなものだ。

今回、史上初のMLBシリーズ韓国開催が実現したが、このためにクーパンは150億ウォン(約17億円)も支払ったと言われている。開幕戦誘致について事情をよく知っているある野球関係者は韓国紙ハンギョレに対して、「MLB側で複数の韓国企業に中継権料として80億ウォン程度(約9億1000万円)を提示した。ところがクーパンがチケット販売も含めた独占中継権を望んだため、MLB側が既存の提示額に50%程度(40億ウォン=約4億5600万円)を上乗せ要求してクーパンが受け入れたという」と伝えた。

クーパンはそれに加えてMLB側の滞在費、中継映像の製作費(MBCスポーツプラスに外注)、エキシビション・ゲームに出場したLG、キウム、韓国代表チームにも対戦料として1億ウォン台の金額を支払っており、総額として150億ウォンになったというのだ。

もちろん、ドジャースに大谷が合流したためチケットは完売、スタジアム内の広告についても日本企業が出稿したこともあり、最終的にこのMLBソウルシリーズの直接·間接的な経済効果は2000億ウォン(約228億円)前後になるという試算が出るほどでクーパンをはじめ韓国経済に大きな収入をもたらした。とはいえクーパンがMLB側と契約したのは大谷が加入するはるか以前の昨年7月のことだ。ある野球関係者は「大谷がドジャースと契約をしなかったら、このように盛り上がった興行になっただろうかと思う」と話している。

野球のほかにもサッカー、ドラマまで

クーパンはサッカーにも力を入れており、2022年、ソン・フンミンが所属するイングランド·プレミアリーグのトッテナム・ホットスパーを招聘した際も、スポンサー料と単独中継費などで100億ウォン(約11億4000万円)以上投資したという。今夏にはキム・ミンジェ、ハリー・ケインが属しているブンデスリーガの名門バイエルン・ミュンヘンを招聘する予定だ。さらにプレミアリーグ、NFL、F1などの中継をcoupang playで提供している。またcoupang playではスポーツだけではなくドラマや映画のオリジナルシリーズを制作しており、『アンナ』『ある日~真実のベール』などは日本でも配信されている。

なぜ、ネット通販企業がこれほどのサービスを提供するのか? クーパン側は一昨年トッテナムを招聘した際に「収益性を追い求めるよりも顧客をメンバーシップに囲い込む効果がある」と説明した。事実、有料会員サービス「ワウメンバーシップ」加入者は昨年1年間で300万人増加し、1400万人を突破した。2020年の600万人と比べると、3年間で2倍以上に増えたことになる。昨年の年間有料会員費は8300億ウォン(約946億円)と推測され、このままいけば今年末には顧客数1700万人、年間有料会員費は1兆ウォン(約114億円)を突破する可能性がある。

TEMUなど中国からの越境ECが急増

そしてもう一つ大きな理由として挙げられるのはTEMU、AliExpressなどの中国系の越境ECサービスの韓国国内での成長がある。

3月20日、韓国関税は2023年、海外から来たネット通販は1億3144万3000件で36.7%増加し、さらに中国から来たネット通販の件数は8,881万5000件で、前年(5215万4000件)より70.3%増えたと発表した。コロナ禍が収まり越境ECが再び活発化したなかで、中国からの越境ECがさらに急増しているわけだ。

なかでも日本でもネット広告などを大々的に展開して話題を呼んだ中国のネット通販企業TEMUは、日本と同じ2023年7月に韓国でもサービスを開始した。半年で581万人の利用者を獲得し、韓国国内の総合ネット通販のシェア第4位に躍進している。

また、2018年に韓国市場に先行進出したアリババ傘下のAliExpressは、2023年10月に韓国商品専門館であるK-ベニュ−を開設して韓国の販売業者を集め、取り扱い商品に加工·生鮮食品を追加。これにより利用者数も急激に増え、アプリの月間利用者数は818万人と前年同期比(355万人)230%もの増加となり、総合ネット通販のシェアで2位まで駆け上がり、今後クーパン(3010万人)追撃に狙いを定めてくることが予想されている。

イチゴ1パック100円で攻勢かける中国

事実、AliExpressは最近、超低価格商品を次々と発売し、顧客の獲得に乗り出している。イチゴ1パック1000ウォン(約114円)、卵2パックで1000ウォンといった具合だ。 また、親会社であるアリババグループは、ソウル近隣に大型物流センターを建設するなど、韓国に3年間約1兆4000億ウォン(約1,600億円)を投資する計画だという。

これに対抗してクーパンをはじめとした国内ネット通販企業は直購·逆直購と呼ばれる越境EC事業強化で対抗しようとしている。クーパンは最近「ロケット直購」と呼ばれる海外のネット通販からのお取り寄せサービスの対象地域をアメリカ、中国、香港に続き日本にも拡大した。日本旅行がブームとなっている韓国では、消費者の間で楽天やアマゾンといった日本のネット通販に対する需要が急速に高まっているが、韓国国内からこれらの日本のネット通販を利用できる越境ECサービスの選択肢が少ないという。「ロケット直購」の強みは無料配送で、「ワウメンバーシップ」会員は1個だけの注文でも無料配送を受けることができる。

韓国のネット通販業界関係者は「AliExpressやTEMUの低価格襲撃に国内ネット通販業界の緊張感が高まっている」として「韓国企業による越境EC活性化が対策に挙げられ業界の動きも慌ただしくなっている」と話している。

大谷や山本由伸らの熱戦が繰り広げられる高尺スカイドームの外では、MLBをソウルに招聘したクーパンをはじめとした韓中ネット通販企業による仁義なき戦いが繰り広げられているのだ。

【動画】MLB見るならサブスク加入が必要?

チケットの争奪戦などさまざまな話題を提供しているMLBワールドツアー・ソウル・シリーズ。日本では民放とNHKが中継するが、韓国国内ではテレビでの方法はなく、すべて主催のクーパンのcoupang playが独占中継している。

coupang playによる3月20日のドジャース対パドレスのハイライト映像 쿠팡플레이 스포츠 / YouTube

ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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