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自民が下野する政権交代は再現されるか

ニューズウィーク日本版 2024年4月24日 15時0分

河東哲夫
<今の政治の状況は自民党が民主党に政権を渡した2009年の総選挙の時に酷似しているが、違うのは自民党に代わる受け皿が割れていること>

失敗をしたわけでもないのに、何をやっても盛り上がらない岸田政権。決着しない自民党の裏金問題。これまで旧民主党の残党に国政は任せられないと思い込んできた日本人も、「自民党でも大同小異。ならば」と、そろそろ考え始めるかもしれない。

衆議院議員の任期は来年10月末に切れる。現状は、2009年8月の総選挙で自民党が181議席を失い、民主党(193議席も増やした)に政権を渡した時に酷似している。その時と違うのは、自民党に代わる受け皿が割れていること。やるのなら、派閥を解消して液状化した自民党が割れ、小池百合子東京都知事や野田佳彦元首相などを核に、野党の一部と新党をつくらなければなるまい。その時間と資金はあるのか。

日本の政治は歌舞伎に似ている。日銀と役人がしっかりしていれば、日本という一座は回る。今の日本は、賃金は上昇、雇用は良好。国民はコロナ後の景気回復で忙しく、歌舞伎を見に行く時間がない。看板役者=首相も地味なので、行く気もしない。

だから、自民党の裏金問題は本質的にむなしいのだ。どの国でも政治にはカネがかかる。政治家は政策で選べ、人柄で選べと言われても、街頭にポスターが貼ってなければ、誰が地元の候補者なのかも分からない。そして至る所にポスターを貼るだけでも、人員とカネがかかる。

政治資金は集め方、使い方について、先進国ならどこでも厳しい規制があるのだが、問題はいつでも起きる。日本の場合、今回のように問題が表面化すると、政治資金規正法を少しだけ改正し、違反の責任者を仕立て上げて処罰した格好を取り、謝罪し、その上で選挙という「禊(みそぎ)」をやって一件落着。改正された規制をくぐるべく、新たな手法を開発する──。

結局は岸田首相の焼け太り?

これの繰り返しだ。政治資金が実質的に青天井になってしまったアメリカや、当局による選挙操作が表に出てこない、あるいは批判者を力でつぶすロシアのような国に比べれば、日本ははるかにましなのだが。

成人が全員投票権を持つ現代の民主主義は、取りまとめるのが困難至極。政党は票が欲しいから、投票権をどんどん広げて、一人一票の現在に至ったのだが、その結果、政党は多数の人間と渡りをつけるのに、大変な資金を要することになった。

皮肉なことに、われわれ一般大衆に国会は関係ない。国会どころか、町内会の活動にさえ、「町内会? 誰かうまくやっといてくれれば」程度の話で、関わり合いたくない。国が、市が、われわれの生活に「触ってきた時」にだけ、発言権を行使する。それは増税、徴兵、インフレなどで、そうなると選挙で与党を落とすのだ。

西欧近代の華、民主主義の実態はこんなもの。もっと「国民一人一人のニーズをくんだ、きめの細かい」政治はできないものか。それはインターネットの普及とAI(人工知能)の発達で可能になったようにも思うが、インターネットを使えない人はまだ多数いる。それに多数の問題について1億人もの成人の意見を集めて集計、分析したら、AIでもおかしくなるだろう。

それでも選挙という19世紀のシステムは、政治家、政党に緊張感を与え、政策・法案を磨かせる。国防費増加のような大きな政策転換の時には、選挙をやれば国民のお墨付きを得たことにもできる。

で、当面の政局は? 結局のところ岸田首相が焼け太りで、今秋の自民党総裁選で再選され、総選挙では辛勝ということになるのではないか。岸田首相、たたかれているうちに鍛えられ、顔立ちが看板らしくなってもきている。

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