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約3000通の郵便物を捨てた10代新入社員、背景に「昼休みを取れず残業が横行…」元職員が明かす“ブラック職場”疑惑 日本郵便は「労働力の確保に苦労している」

NEWSポストセブン 2024年9月11日 7時15分

 日本郵便は8月28日、大阪市の西成郵便局に勤務する10代の男性社員が約3000通の郵便物を廃棄していたと発表した。配達員が手紙や郵便物を配らずに、一軒家とマンションの間などに大量に捨てていたという耳を疑うような“事件”。会見した同社の小池信也近畿支社長は「信用第一の弊社がこのような事案を発生させたことをお詫び申し上げます」と謝罪した。

「日本郵便の発表によると、今年4月に入社したばかりの10代の男性社員は6月中旬から約1カ月にわたり、普通郵便とゆうメール計2827通の配達を行わず、7カ所に廃棄していた。男性社員は1日あたり300~500件の配達を担当していましたが、『郵便物を配達しきれなかった』と話しています。

『郵便物の束が置かれている』、『郵便物が届かない』という苦情も相次いでいたと言います。捨てられていた郵便物は回収されていますが、一部については捨てられたことによる汚れなどで、受取人が分からなくなっているものもあるといいます」(大手紙社会部記者)

 メールやSNSなどが発達した現代の日本社会でも、郵便物には多くの用途がある。郵便物が届かないことで、企業は契約面などで支障をきたし、孫からの手紙を受け取れなかった高齢者もいたかもしれない。個人情報も多く含まれた郵便物が廃棄されると情報が流出してしまう危険もある。

 なぜこのようなことが起きてしまったのか。郵政省の職員だった羽田圭二世田谷区議が解説する。

「(郵便物を廃棄することは)あってはならないことです。1日あたり300~500件というのは、地区にもよりますが他の郵便局と比べて突出した量ではないと思います。10代の新入社員ということですが、配達しきれないことを相談できる人がいなかったのでしょうか。相談しても解決策が見いだせずに、追い込まれてこのようなことをしてしまったのかもしれません」(以下同)

人手不足で「ブラック職場」状態か

 民営化以降、郵便局の現場では人手不足が顕著となり“ブラックな職場”が定着しがちだという。

「昔は、配達先で『お茶を飲んでいきなよ』と言われてゆっくりするような時代でした。しかし現在は、どこも人出が足りず、そのような余裕はありません。配達が終わらないから『昼休みを取れない』『残業(超過勤務)が多い』ということは現場の声としてよく聞きます」

 時間指定配達などサービスが便利になった反面、そのあおりが現場を苦しめているという。

「民営化で効率を求めた結果ともいえます。待遇面も良いとはいえず、なり手も少ないし定着もしない。組合もがんばっているようですが、働いている人の雇用形態も正社員や有期の契約社員などさまざまで、なかなか一筋縄にはいかないようです。

 このようなことから、西成の郵便局では、郵便物を廃棄した職員はもちろん、その上司など周りの職員にもゆとりがなかったのではないでしょうか」

 そして、再発防止のためにこう訴える。

「まずは職員全体に『信書の秘密』『あまねく公平なサービス』を保障する責務があるということを徹底してもらいたい。一方で、経営側にも課題はあります。仕事に使うものが自己負担、休暇が取れない、勤務時間が守れない、配達が終わるまで局に戻れないなどといった労働環境の改善と、社員全体の賃金の底上げが必要です」

日本郵便は問題を把握しているのか

 日本郵便に西成郵便局の件について取材すると、以下のような回答だった。

「お客さまからお預かりした大切な郵便物や荷物を配達せず放棄することは、あってはならないことであり、今回の事案も重大なことと受け止めております。今回、被害にあわれた差出人さま・受取人さまなど関係のお客さまに多大なご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。また、弊社・郵便局に対する信頼を損なうこととなり、重ねてお詫び申し上げます。

 配達経験の浅い当該社員に対して、通常の社員よりも配達エリアをしぼることや、他の社員が配達応援をすることなど、会社としてフォローは行っていたところですが、今回の事案が発生したことを受け、引き続きの実態調査が必要と認識しております」(日本郵便広報部)

 一人一人の業務が過多になっているのではないかという質問には以下のように回答した。

「配達担当者は受持ちエリアをそれぞれ配達しますが、エリア設定にあたっては、郵便物や荷物の量や勤務時間を考慮しています。郵便物や荷物の量は日々変動しますので、他の配達担当者との間での業務量の調整や応援のほか残業も含めて、すべての郵便物や荷物が配達できるように対応をしています。

 その場合でも、あて先がわからなかったものやどうしても配り切れない場合には、郵便局に持ち戻って、翌日配達を行うこともあります」(同)

 また、人手不足なのではないかという指摘にはこう回答した。

「労働需給のひっ迫や生産年齢人口の減少の影響により弊社においても労働力の確保は重要な課題と認識しています。地域によって、または一時的な業務量の増加により、一部で必要な労働力の確保に苦労しているとの声があることは承知しております。また、安定的な業務運行確保のために、業務量に応じて、超過勤務や非番日・週休日出勤での対応を行う場合があります。

 このような状況にあることから、地域ごとの状況を踏まえた期間雇用社員の募集活動や正社員の中途採用など、業務量の動向を踏まえつつ、必要な労働力の確保に努めているところです」(同)
 二度と同じようなことが起きないために、同社の対策が急がれる。

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