和歌山地裁で行われている須藤早貴被告(28)の裁判員裁判。初公判の罪状認否で無罪を主張して以来、証言台に立っていなかった須藤被告に対する被告人質問が、11月8日から始まった。『紀州のドン・ファン』と呼ばれた会社経営者であり元夫の野崎幸助さん(当時77)が2018年に自宅で死亡していた事件で、殺人罪に問われている同被告。淡々とした口調で、野崎さんとの「異様な夫婦関係」を語り始めたのだった——。【前後編の前編】
野崎さんが亡くなったのは2018年5月24日の夜。死因は急性覚醒剤中毒で、解剖の結果、致死濃度を超える覚醒剤成分が血中から検出されている。
検察側は9月に行われた初公判での冒頭陳述で、2018年の2月に野崎さんと結婚した須藤被告が「莫大な遺産を得るために完全犯罪をたくらんだ」と指摘。11月8日の公判までに、合計28人の関係者らに証人尋問を実施した。その中で検察側は、野崎さんが須藤被告との離婚を検討していたことを指摘。離婚によって財産を手に入れられなくなることを恐れた被告が殺人に及んだのではないか、としている。
そして、被告人質問の初日を迎えた須藤被告。被告は、野崎さんが「夫婦関係を異様な形でせがんだ」と主張し続けた。
「会った初日に現金100万円を渡され、野崎さんに『結婚してください』と頼まれた末の結婚生活。須藤被告は先に『社長とはセックスできません』とはっきり言ったといいます。婚姻届を出した2月8日の“初夜”では、ゴム手袋をして野崎さんを触ったこと、口腔性交を断ったことなどを主張。野崎さんの言動について〈生理的に無理〉〈はぁ? と思った〉とした須藤被告には、野崎さんの“性への執着”を主張する意図があったのでしょう」(裁判を傍聴したライター)
さらに注目されたのは、須藤被告の「セクシービデオ出演歴」についての主張だ。検察側はこれまでの公判で、被告が収入を得るために合計4本の動画に出演していたこと、そしてその出演歴を消そうとしていたことを、被告のインターネット検索履歴等から指摘していた。弁護人に出演歴について問われた須藤被告は、淡々と説明を続けたのだった。
「社長の周りにいる女は全員売春婦」
〈(動画に出演したのは、野崎さんと)知り合う前です。(2018年の)4月13日くらいに、インスタグラムのDM(ダイレクトメール)で、中学の同級生から『AV見たよ』とAVのURLと画像が送られてきた。むちゃくちゃ口が軽いヤツなんで、広められるだろうと思った。AVを削除してくれる弁護士を探したら、ネット検索で一番上にでてきて、信用できる感じだったので、頼んで、その書類がアプリコ(野崎さんの会社)に届いたんです〉(須藤被告の証言内容。以下〈〉内は同じ)
弁護人が「アプリコの従業員にバレる心配はしなかったか」と問うと、〈知らない人たちなんでどうでもいいです〉と切り捨てた須藤被告。「野崎さんとの離婚の原因になるとは考えなかったか」と問われると、〈ないです〉としてこう続けたのだった。
〈社長(野崎さんのこと)は身体を売る人を軽蔑しているのに、自分自身が交際クラブとかでお金で女を買っていた。〇〇さん(他の愛人の名前)についても、私の前では『あいつはソープ嬢だからダメだ』と言っていたのですが、〇〇さんは何度も『結婚してくれ』と言われていた。社長の周りにいる女は全員売春婦なのかと。(AV出演について)そんなに気にすることなのかと思います〉
「愛のない結婚だった」ことを主張し続けた須藤被告。そしてそんなある日、野崎さんから「もうダメだから、覚醒剤でも買ってきてくれませんか?」と頼まれたと言うのだ——後編記事では、売人に接触し覚醒剤を入手した一部始終、そして覚醒剤を手渡した後の野崎さんの“反応”についての被告の主張を詳報する。
(後編につづく)