Infoseek 楽天

最高の遺影を自分で準備 終活進化 大阪・北浜に専門スタジオ登場

産経ニュース 2024年10月7日 11時33分

人生の最期へ備える「終活」の広がりとともに、生前に自身の遺影を準備したいと考える人が増えている。9月には大阪・北浜に遺影の撮影を専門に行うフォトスタジオもオープン。プロによるメークや衣装、撮影でその人らしい特別な写真を残すという。別れの間際に慌てて探した遺影が並ぶ葬儀は少なくないが、スタジオ側は「故人を思い返す大切な1枚。悔いを残さず用意してほしい」と呼びかける。

「きれい!いい笑顔ですね、すごいすてき」

9月14日にオープンしたフォトスタジオ「アマランサ・アイ」(大阪市中央区)。娘からの贈り物だというワンピースを主役にプロのスタイリストが提案したコーディネートに身を包んだ大阪府松原市の西本清江さん(61)がほほ笑むとカメラマンが場を盛り上げ、シャッターを切った。

スタジオ側が用意した高級ブランドのハイヒールやジャケット、アクセサリーなど西本さんが身に着けたものの総額は約220万円。カメラマンをはじめスタイリング、ヘアメークなどの担当者はいずれも第一線で活躍するプロで、ファッション誌の撮影さながらの雰囲気だが、あくまでも撮影しているのは遺影だ。

撮影にかかる費用は9万8千円(税別)。ヴィンテージ品など選ぶ衣装により追加料金2万円がかかる。決して安くはないが、「これほどきれいだとほめてもらえる機会もそうなく、自分へのご褒美になった。10年後にまた撮影に来ようかな」と西本さん。スタジオの岡本訓子代表(53)が「免許更新のように遺影もこの1枚と決めず、更新してもいい。非日常の楽しい思い出ごと残してほしい」と応じた。

岡本さんが遺影専門のスタジオを開いたきっかけは約10年前の実母の死。死期が近づく中、周囲の助言で葬儀や死に装束などの準備は考えたが、遺影にまで気が回らなかったという。「笑顔がすてきな母でしたが、思い描いた1枚がどうしても見つからず悔いが残った」と振り返る。

子供写真館大手「スタジオアリス」(大阪市北区)も、表立って遺影撮影とは銘打っていないものの、一昨年から孫の撮影に同行する祖父母向けの「グランパグランマフォトプラン」を始めた。写真とフレーム、画像データがつき、美肌加工も施せて9800円(税別)からで、「『遺影にも使えて良いね』と冗談交じりに喜ばれる声も多い」と同社広報担当者。

遺影作成などを手がける「アスカネット」(広島市)が今春、20~69歳の500人にインターネットで行った遺影に関する意識調査でも「遺影を自分で選びたい」人は48・8%と約半数いた。

葬送儀礼に詳しい国立歴史民俗博物館の山田慎也副館長によると、遺影が大衆に広がったきっかけの一つは日清・日露戦争で、戦没者を顕彰する目的で写真や擦筆画を用いられた。

山田副館長は「遺影の生前撮影など葬儀に備えることを不吉とみる人が多かったが、『終活』の広まりで、自らの死を準備する人が増えた」と指摘。近年は葬儀を故人の自己表現の場ととらえるなど受け止め方も多様化しており、「遺影専門のスタジオの登場も現代的な展開といえる」と話している。(木ノ下めぐみ)

この記事の関連ニュース