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ロボットX線スキャナーが「聖母子像」の真贋を識別 宇宙技術の意外な活用法

sorae.jp 2021年2月2日 20時30分

「聖母子像」の光学画像とX線画像(Credit: Jiri Lautenkratz、InsightART)

ラファエロ(ラファエロ・サンティ、Raffaello Santi、1483-1520)はレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロとともにルネサンスを代表する芸術家の一人です。ラファエロは多くの傑作を残しましたが、「聖母子像」(聖母マリアと幼児のイエス・キリストをモチーフとした図像)をいくつも描いたことでも知られています。

冒頭の「聖母子像」は教皇レオ10世の依頼でバチカンに飾られ、フランス王室やナポレオンの手を経るなどして、現在は個人のコレクションとなっています。しかし、この作品が本当にラファエロの手によるものであるかどうかは疑念が持たれてきました。

2020年10月20日付けのESA(欧州宇宙機関)の記事よると、チェコの新興企業であるInsightARTが、ロボットX線スキャナーを使用して、本物のラファエロの作品として識別されました。InsightARTのロボットX線スキャナーは、以前フィンセント・ファン・ゴッホのこれまで知られていなかった絵画を識別するためにも使用されました。

動作中のRToo X線スキャナー(Credit: Jiri Lautenkratz、InsightART)

この装置は、ヨーロッパの素粒子物理学の研究拠点として知られるCERN(欧州合同原子核研究機構)で開発された粒子検出器を使用しています。「この技術は、国際宇宙ステーションで放射線の測定にも使用されており、個々の光子を検出してカウントし、正確な波長を測定することができます」と、InsightARTの最高技術責任者であるJosef Uherは語っています。

さらに、標準のX線装置では白黒画像しか得られませんが、このRToo X線スキャナーでは「カラー」(スペクトル)のX線画像を得ることができます。これにより、元素組成に基づいて作品の材料(顔料)を特定することができます。作品は、基底層から表面まで詳細にスキャンされ、この絵画の内部構造が明らかになりました。

「聖母子像」のX線スペクトル画像(Credit: Jiri Lautenkratz、InsightART)

InsightARTはプラハのESAビジネスインキュベーション(起業支援)センターからビジネスアドバイスと財政支援を受けました。同センターのプロジェクトマネージャー、Michal Kunešは「私たちは、衛星データやナビゲーションシステム、飛行機や衛星を利用したさまざまな技術的なアプリケーションに慣れています。しかし、宇宙技術と芸術の組み合わせは非常に型破りなもので、これは唯一のプロジェクトです」と語っています。

宇宙を探査する技術が意外なところで役立てられている一つの実例であり、今後も「型破り」なプロジェクトに期待したいものです。

 

Image Credit: Jiri Lautenkratz、InsightART
Source: ESA、InsightART、Phys.org
文/吉田哲郎

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