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ウェッブ宇宙望遠鏡が観測した暗黒星雲「馬頭星雲」のクローズアップ

sorae.jp / 2024年5月1日 20時42分

こちらは「オリオン座」の方向約1300光年先にある有名な暗黒星雲「馬頭星雲(Horsehead Nebula)」のクローズアップです。画像下側の白い煙のようなものは“馬のたてがみ”にあたる部分で、水素・メタン・氷(水の氷)といったさまざまな物質を含む分子雲の構造が詳細に捉えられています。

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測された暗黒星雲「馬頭星雲」のクローズアップ(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, K. Misselt (University of Arizona) and A. Abergel (IAS/University Paris-Saclay, CNRS))】【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測された暗黒星雲「馬頭星雲」のクローズアップ(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, K. Misselt (University of Arizona) and A. Abergel (IAS/University Paris-Saclay, CNRS))】

暗黒星雲はガスと塵(ダスト)が高密度に集まっている天体です。向こう側にある天体から放射された可視光線を塵が遮り、地球からはその場所が暗く見えることから“暗黒”星雲と呼ばれています。

オリオン座の方向には「オリオン座分子雲」と呼ばれる広大な星形成領域があって、馬頭星雲はその一部を成しています。可視光線では馬頭星雲の背景が赤く見えますが、この赤い光は大質量星から放射された紫外線によって電離した水素から放たれています。このような領域は電離水素領域やHII(エイチツー)領域と呼ばれています。ちなみに、馬頭星雲の背景に広がる電離水素領域は輝線星雲「IC 434」として知られています。

この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で取得したデータをもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。

【▲ ユークリッド宇宙望遠鏡(左)、ハッブル宇宙望遠鏡(中央)、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(右)で観測した馬頭星雲の比較画像(Credit: ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by J.-C. Cuillandre (CEA Paris-Saclay), G. Anselmi, NASA, ESA, and the Hubble Heritage Team (AURA/STScI), ESA/Webb, CSA, K. Misselt (University of Arizona) and A. Abergel (IAS/University Paris-Saclay, CNRS), M. Zamani (ESA/Webb))】【▲ ユークリッド宇宙望遠鏡(左)、ハッブル宇宙望遠鏡(中央)、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(右)で観測した馬頭星雲の比較画像(Credit: ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by J.-C. Cuillandre (CEA Paris-Saclay), G. Anselmi, NASA, ESA, and the Hubble Heritage Team (AURA/STScI), ESA/Webb, CSA, K. Misselt (University of Arizona) and A. Abergel (IAS/University Paris-Saclay, CNRS), M. Zamani (ESA/Webb))】

次の画像は3つの宇宙望遠鏡で撮影された馬頭星雲を比較したものです。左は欧州宇宙機関(ESA)の「ユークリッド宇宙望遠鏡(Euclid)」、中央は「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」で撮影された画像で、右は冒頭と同じウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCamで撮影された画像です。左から右へと進むにしたがって、馬頭星雲が段階的にクローズアップされていくように並べられています。

関連記事
・ESAのユークリッド宇宙望遠鏡が撮影したオリオン座の「馬頭星雲」(2023年11月17日)
・ハッブル23周年記念、馬頭星雲のニューカラー(2013年4月20日)

ウェッブ宇宙望遠鏡を運用するアメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、馬頭星雲は光解離領域(Photodissociation Region: PDR)の一つとしてよく知られています。光解離領域は電離水素領域と分子雲の境界にあたり、若い大質量星から放射された紫外線の作用によって電気的にほぼ中性なガスと塵の領域が形作られています。初期宇宙から現在までの宇宙全体における星間物質の進化を促す物理的・化学的プロセスを研究する上で、光解離領域が放つ光は独自のツールを提供してくれるのだといいます。

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置(MIRI)で観測された暗黒星雲「馬頭星雲」のクローズアップ(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, K. Misselt (University of Arizona) and A. Abergel (IAS/University Paris-Saclay, CNRS))】【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置(MIRI)で観測された暗黒星雲「馬頭星雲」のクローズアップ(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, K. Misselt (University of Arizona) and A. Abergel (IAS/University Paris-Saclay, CNRS))】

一方、こちらはウェッブ宇宙望遠鏡の「中間赤外線観測装置(MIRI)」で取得したデータをもとに作成された画像です。冒頭に掲載したNIRCamの画像よりもさらに狭い範囲がクローズアップされていて、塵状のケイ酸塩や煤状の多環芳香族炭化水素から放射された赤外線が捉えられています。

ウェッブ宇宙望遠鏡による馬頭星雲の観測データをもとに、フランスの宇宙天体物理学研究所(IAS)のAlain Abergelさんを筆頭とする研究チームは、馬頭星雲の照らし出された縁の構造を40~400天文単位という小さなスケールで初めて明らかにしました。紫外線によって蒸発した分子雲から加熱されたガスとともに掃き出された塵の動きを追跡できる特徴をウェッブ宇宙望遠鏡は捉えており、塵がどのようにして光を遮り、赤外線を放出しているのかを調査するとともに、星雲の形状を多次元でより深く理解することができたといいます。研究チームは今後、星雲全体にわたる物質の物理的・化学的特性の進化に関する知見を得るために、ウェッブ宇宙望遠鏡による分光観測(電磁波の波長ごとの明るさを示したスペクトルを得る観測手法)のデータを分析する予定だということです。

ウェッブ宇宙望遠鏡が観測した馬頭星雲の画像はSTScIをはじめ、アメリカ航空宇宙局(NASA)やESAから2024年4月29日付で公開されています。また、Abergelさんたちの成果をまとめた論文はAstronomy & Astrophysicsに掲載されています。

 

Source

STScI – Webb Captures Top of Iconic Horsehead Nebula in Unprecedented Detail NASA – Webb Captures Top of Iconic Horsehead Nebula in Unprecedented Detail ESA/Webb – Webb captures iconic Horsehead Nebula in unprecedented detail Abergel et al. – JWST observations of the Horsehead photon-dominated region I. First results from multi-band near- and mid-infrared imaging (Astronomy & Astrophysics)

文・編集/sorae編集部

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