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南極基地でテストされた宇宙飛行士のメンタルヘルスリスク ポジティブな感情が低下

sorae.jp 2021年5月6日 17時0分

【▲ ISSのキューポラ観測モジュールから地球を眺めるNASAの宇宙飛行士カレン・ナイバーグ(Karen Nyberg):第36次/第37次長期滞在クルーを務めたフライトエンジニア(Credit: NASA)】

宇宙空間で長時間過ごす宇宙飛行士は、孤立、監禁、プライバシーの欠如、明暗サイクルの変化、単調さ、家族からの分離などのストレスに直面します。 南極の観測基地で働く人々も同様で、過酷な環境の中で、長期滞在の宇宙探査と同じような数多くのストレス要因にさらされています。

ヒューストン大学(University of Houston)のキャンディス・アルファーノ(Candice Alfano)教授(心理学)らのチームは、宇宙飛行士が直面する心理的な問題をより深く理解するために、ICE(isolated, confined, extreme:孤立、監禁、極限)環境下での精神的な健康状態の変化を検出する自己申告メンタルヘルスチェックリスト(MHCL:Mental Health Checklist)を開発しました。

研究チームはMHCLを用いて、沿岸部と内陸部の2つの南極観測基地において、最も厳しい冬の時期を含む9カ月間、精神的な健康状態を調査しました。また、毎月の評価では、身体的不調の変化、コルチゾールなどのストレスのバイオマーカー、特定の感情を増減させるさまざまな感情調整戦略の使用状況なども調べました。

この研究成果は2021年4月「Acta Astronautica」誌に掲載されました。

【▲ メンタルヘルスチェックリスト(MHCL:Mental Health Checklist)を開発したヒューストン大学(University of Houston)の心理学教授キャンディス・アルファーノ(Candice Alfano)(Credit: University of Houston)】

「調査の結果、心理的機能に有意な変化が見られましたが、メンタルヘルスの特定の側面における変化のパターンは異なっていました。最も顕著な変化が見られたのはポジティブな感情で、調査開始から終了まで継続的に低下し、帰国準備中の“立ち直り効果”(bounce-back effect)は見られませんでした」とアルファーノ教授は報告しています。

さらに「これまでの宇宙や極地での研究では、不安や抑うつ症状などのネガティブな感情にばかり注目していました。しかし、満足感、熱意、畏敬の念などのポジティブな感情は、プレッシャーのかかる環境で成功するために不可欠な要素です」と述べています。

ネガティブな感情も調査全体で増加しましたが、その変化はより多様で、身体の不調によって予測が可能でした。これらの結果を総合すると、ネガティブな感情の変化は個人、対人関係、状況の相互作用によって形成される一方で、ポジティブな感情の減少はICE環境ではより普遍的な経験であることを示唆しているのかもしれません。

アルファーノ教授は、「ポジティブな感情を高めることを目的とした介入や対策は、極限環境における心理的リスクを低減するために重要であると考えられます」と指摘しています。

研究結果はまた、被験者は、基地での時間が増えるにつれて、ポジティブな感情を調整する(つまり、増やす)ための効果的な戦略をあまり使用しない傾向があることを明らかにしました。

「ポジティブな経験や感情を、意図的に気付き、評価し、強め、味わうなど、状況についての考え方を変える“再評価”は、ベースライン時に比べて、調査後期に減少しました。これらの変化が、時間の経過とともに観察されたポジティブな感情の減少を説明していると思われます」とアルファーノ教授は述べています。

今後、宇宙空間での長期滞在が一般化するにつれて、宇宙探査におけるメンタルヘルスの重要性はよりいっそう増すことでしょう。

ちなみにJAXAでもISSでの「精神心理支援」について紹介されています。

 

Image Credit: NASA、University of Houston
Source: University of Houston
文/吉田哲郎

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